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「おじょうさま、メラメラされているところ失礼いたします。シルヴィール殿下よりお手紙と贈り物が届いております」


 マリィからごうふうとうに入れられた手紙と、キラキラかがやく贈り物の箱をわたされた。

 王家のもんしょう入りの手紙を開けると、文句のつけようのないれいな文字が目に入る。


『親愛なるルイーゼ、変わりなく過ごせているかな? 明日の入学祝いを贈らせてもらう。入学式に付けてきてくれるとうれしいな。 君と共に王立学園で学べるのを楽しみにしている。シルヴィール』


 パカリと贈り物のふたを開けると、海のように深いあおいろの宝石が付いたブローチが入っていた。これ一つで一体いくらするのだろうと、手に持つのもためら躇ってしまいそうな豪華さに息をむ。

 結局十六歳になるまで文字を変えられなかった自分は王子の婚約者に相応ふさわしくないのに、またまた身に余るものをもらってしまってどうしよう……と遠い目になる。

 家宝にして宝物庫にていちょうわせていただきたいが、贈り物を付けていかないなんて無礼なことはできないので、観念するしかない。


「マリィ、シルヴィール様から頂いたこのブローチを明日付けていくから、ヨロシクですわ」

かしこまりました」

 

 ぶくろを装着し厳重にブローチを受け取るマリィに、やはりかなり高価な宝石なのだといやあせが流れる。お礼のお手紙も差しさわりがないように書き、マリィにたくした。


 明日は国内の王族や貴族が十六歳になる年に入学し、三年間通うのが義務付けられている王立学園の入学式である。同じとしのシルヴィール様も明日からは王立学園で同級生として共に学ぶ予定だ。

 あれから婚約者のシルヴィール様とは月に一度かいさいされる二人だけのお茶会で会うきりで、お互い王子教育と王子妃教育にいそがしい日々を送っていた。

 私の異能をかくすためなのか、社交界出席を禁止され、伯爵家や領地からなかなか出られない生活が続いていた。

 もしや『引きこもり令嬢』などとうわさが立っていないか心配だけれど、学園に入学すること、つまり外出解禁になることは嬉しい。

 引きこもっていた期間も、それはそれでタニアと共に鍛錬に集中できていたからなんら不満はないのだけれど。


 数年前に王太子殿下がりんごくへ留学されてからは、シルヴィール様はさらに忙しくなったようで、月に一度のお茶会もいつの間にかもよおされなくなり、交流も少なくなった。

 でも、寂しいとは思わない。

 私とシルヴィール様は政略的な婚約であり、私はたまたま異能があり都合よく選ばれた婚約者に過ぎない。

 頭の上の文字を変えるという同じ目的を持った仲間で、そこに愛だのこいだの色めいた感情はない。いつか、一緒に運命を変える同志というのが、大事なポイントなのだ。


「負けませんわよ! シルヴィール様!!」


 会わなくなった間も、タニアからシルヴィール様の努力のせきは聞いていたので、やる気が漲る。

 気合いを入れる私を、マリィは何も見なかったようにスルーする。基本マリィはお金がからまないとやる気を見せない、有能な侍女である。


 そんなマリィとわりになるようにタニアが部屋に入ってくる。


「ルイーゼ様、本日の鍛錬はどうされますか?」

「明日もあるし、軽く庭を百周してりを百回で終わらせますわ!」

「お付き合いいたします!」


 護衛のタニアとはもうすっかり鍛錬仲間である。

 明日からの学園生活では、侍女や護衛は同行できない決まりなので、四六時中そばに仕えてくれていたタニアとはなれるのは少し寂しい。

 何故かタニアは私に近付く家族以外の男性を遠ざけるようにうこともあるが、それ以外はたよりになる姉のように思っている。


「学園に入学しても、一緒に鍛錬してくれる?」

もちろんです! タニアはルイーゼ様の専属護衛ですからね」


 美人騎士様のほほえ笑みが眩しすぎて目がくらみそうになる。

 明日からの学園生活に気合いを入れるためにも、鍛錬に精を出すのであった――。


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