第63話 一方で




その頃学校では


今は世界史の授業だ。

午後の授業って眠くなるよね。

お腹は満たされるし、日差しはポカポカするし先生の声は眠くなるし。


でもまた芸術的な文字を書くわけにはいかない。

気合を入れなおして眠気覚ましの話題を考える。


なにかいい話題はないかな。


ーはいー


ーなんだね優奈君ー


ーこの間の五十嵐さんの奴はどうでしょう?-


ーえーっと……なんだっけ?-


ー配信者の奴ですー


ー……採用ー


脳内でそんな問答を繰り返し、話題を決定する。


確か炎上って言ってたっけ? どんな人なんだろう。


というか炎上系って何?

あんまりそう言うの見ないんだよね。

でも五十嵐さん達も付けられてたって言ってたからお姉ちゃんも蚊帳の外じゃないんだよね?

燃えるの? 何が?

……燃えるの? 物理的に?

なにそれ怖い。



……帰ったら検索しようかな?

でも燃えた人が出てきたら嫌だな。


お母さんが帰って来てから検索してみようっと。





「ただいま」


「お帰りなさい」


よし、お母さんが帰って来た。


夕飯の準備は済んでいる。

お母さんがそこでご飯を食べている最中がチャンスだ。


グロい人が出てきたらどうしようとドキドキしながら『炎上系』 の配信者を検索してみた。



「なんだこれ?」


そこに映し出されていたのは人目を引く文字の羅列。

話題の○○に直撃してみた。 とか、○○の裏の顔、いたずらや悪ふざけとかそんな感じのタイトルが並ぶ。


「どうしたの優奈」


「ううん、なんでもない」


何が炎上なのかよく分からない。

取りあえず炎上系の後に五十嵐さん達の名前を入力してみた。


「あ、出てきた出てきた」


勇者五十嵐の過去とか配信していた人たちを取り上げた動画がいくつか出てきた。


「五十嵐さんの過去?」


自己紹介? とか思いつつ動画を再生していく。


「……なにこれ」


五十嵐さんの過去の同級生をどうにか探し当ててモザイクをかけて揶揄するような内容や、卒業写真が配信されていた。


その人の投稿履歴を見ると最近職持ちで話題になった人達の名前がつらつらっと上がっていた。

関連動画も別の配信者が似たような投稿をしているようだ。


姉ももしかして取り上げられてる……?


そう不安に駆られ名前を検索してみる。


「……美人過ぎる職持ち、戦乙女の真の姿」


幸いにも姉について流されている配信はどれも美人、戦乙女とかポジティブというかストーカー気質というかそんな内容が多かった。


……いつの間に草むしり姿撮られてたの?!


姉と並んで公園で草むしりする動画なんかも公開されていた。

ぼやかされているけど私も映ってるよー!! 完全防備で恥ずかしい!!


コメントもついてる。


―妹さんと仲良い

―草むしりとか尊い

―早朝にボランティアとか草

―妹さんの恰好よ

ー妹が本気で草

ープロむしりがおる

ーむしった草の量よ……

―お前ら草生やしたら妹に毟られんぞ


とか書かれてる。


私ネタにされてる?!


しょうがないじゃんかー!!

だってだって草むしりだもん。

マダニとか蚊とか虫刺されも嫌だし草で切るのも嫌だもん。 


反論しようにも出来ない状態で、恥ずかしさのあまりに悶えてしまった。


まぁ、姉はまだ炎上系の餌食になってなくて良かったと思う事にした。

思うことにしたよ!! もう!!





「まぁ、そんなこと言われても草むしりは止めないんですけどね!!」


早朝の草むしりは止めない。

完全防備も止めない。

おしゃれよりも安全性それが私の道なのさ!!


そう開き直ってゴミ袋を片手に近くの公園へと繰り出した。



「おはよう、今日はこっちの公園なのね」


「お姉さん、おはようございます」


コジロウとお姉さんだ。


持っていた草を袋に入れ、軽く軍手の草を払う。

コジロウとお姉さんの方向に向き直り、手を広げた。



「コジロウ、カモン!!!!」


つぶらな目をしたコジロウは勢いよく突進してきた。

……ん? 前よりも力強くなった?


懸命に顔を擦り付けるコジロウ。

そんなコジロウにふと違和感を感じた。


「うっぷ……あれ? コジロウ?」


広げた腕をコジロウに軍手が付かない様にゆっくりと閉じる。


「毛並み……良くなった?」


「!! そうなの!!」


この間じゃれつかれたときは夏毛に生え変わっていたため少し硬めだった。


……何と言う事でしょう。


あの硬かった毛並みがまるでトリートメントでもしたかのように柔らかくなったではありませんか。


「……毛量も増えてる」


「そうなの!!」


抱き着いた際、その毛並みに顔をうずめてもすぐに皮膚に到達するぐらいの毛量しかなかったのに、今では顔面が埋もれるくらいの密度と長さになっている。


「これはやめられない魔性の毛並みだー!!」


ぐりぐりと逆にコジロウに顔をこすりつける。

コタロウは顔を左右に振って拒否の姿勢を見せた。


「コジ……ロウ?」


え? と腕の締め付けを解き放つとコジロウはお姉さんの後ろにそっと隠れた。


「コジロウ? どうしたの? コジロウ?」


そしてお姉さんを後ろから押すそぶりを見せる。

コロコロを準備していたお姉さんは困惑したような表情を浮かべている。

後ろから押されているせいかバランスを崩しそうだ。


「……鑑定」


その力強さに適応したことを思い出し、ぼそっと呟いてコジロウを鑑定する。


コジロウのレベルが3に上がっていた。


オネエサンノイヌレベルサン。


「ゆ……優奈ちゃんごめんなさい!! コジロウ止めなさいってば」


コジロウはどうやら毛並みだけでなく力も強くなったようだ。


行こう行こうとお姉さんを急かし、私とお姉さんが接する機会を奪われてしまった。


そしてお姉さんとコジロウは去っていった。

毛まみれの私を残したままで。


ゴミ袋はまだ半分くらい空きがあったが、コジロウに拒否られ傷心してしまったので家に帰ることにした。


腹いせに家に帰ってからシロを思いっきりモフモフしてやった。

私の腹いせを黙って受け止めてくれるシロはとても優しかった。


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