第6話 岡山ダンジョンの六階層から十階層を攻略、そして買取り

 階段を降りていくとそこには転移の柱がある。まず柱に触れて登録しておくのがダンジョン探索の基本で、柱に触れるだけで登録出来る簡単仕様になっている。そして柱に触れると頭の中でダンジョンを出ますかと問い掛けて来る謎テクノロジー、いったいどういう仕組みなんだろうね。


 もう時間は二時を過ぎている。十階層まで行けるかなと考えている時に声をかけられた。


「麟瞳さん早いですね~。私達が出てから十分も経っていないですよね」


 先程ボス部屋の順番待ちの時に話をしていたサークル仲間パーティの女の子だ。


「さっきぶりです。皆さんは進まないんですか」

「私達は一度ダンジョンを出てからもう一度五階層のボスを狙うことにしました。今回はポーションが四本も出たんでもう一度って感じです」


 顔が引き攣って来る。僕ってポーションだけでも五本あったんだよね。


「麟瞳さんは宝箱、良かったですか?」

「初回討伐報酬だと思うけどかなり良い物が出たと思うよ。鑑定結果が出てみないと実際にはわからないけどね」

「鑑定待ちとはかなり良かったですね。麟瞳さんはこの後進むんですか?」

「十階層まで行っておこうかなと、十一階層の登録はしておきたいしね」

 

 そこでサークル仲間パーティとは別れて攻略を進める。六階層から十階層までは取り立てて挙げるようなイベントはなかった。基本五、六匹で行動していて、その中に上位種が一、二匹混ざっていた。ボス部屋と同じで飛び道具を持っていないので苦戦することもなくドロップアイテムになってもらった。魔石が八十程と棍棒が十本そしてポーションが八本手に入った。リュックパンパンになっちゃった。


 結構攻略するのに時間が掛かったようで、既に五時を過ぎている。ボス部屋の前に着くと誰もいないが、扉が閉まっていた。これは今他の人達が挑戦中ということだから、この間にボス部屋の情報の確認をしておく。十階層のボス部屋にはゴブリンアーチャーを含めた六匹のゴブリンが待ち構えている。まずこのゴブリンアーチャーを自由にさせないことが大切だ。順番が来たようだ、扉が開いて僕の挑戦を待っている。さあ最後の一頑張りだ。


 部屋に入り切ると扉が閉まり、情報通りの布陣で六匹のゴブリンが待ち構えている。先手必勝とばかりこちらから仕掛けていく。真っすぐ突っ込んで一番右側の一匹を袈裟斬り、そのままの勢いで右側を回り込んで後方にいるアーチャーを狙う。一匹アーチャーを守っているゴブリンがいたが、いつも通り武器を持つ手に狙いを定める。武器を落としたところで蹴り飛ばしアーチャーにご対面だ。至近距離にいる後衛職は怖くない。左から水平に斬りつけて首をはねた。後はいつも通り気を抜かずに対処して、全てを終えるまでそれほど時間も掛からなかっただろう。さあ宝箱にご対面だ。


 魔石を拾い集めていると銅色の宝箱が出現した。本来なら十階層で銅色なら上出来だと思うが、今までが良すぎたせいでがっかりしてしまった。いかんいかん。


 気を取り直して、いつも通り罠に気をつけて宝箱を背面から開ける。中にはイヤリングと定番のポーションが五本入っていた。鑑定結果待ちであるがこれも大当りだと思う。こんなに運が良すぎて怖くなって来るよ。まさか反動なんかないよね。


 階段を降りて転移の柱に触れて登録し、そのままダンジョンの外へと転移する。


 時刻は五時半、まだまだ外は明るい。そのまま買取りの受付へと向かい、整理券を取り順番を待っていると、すぐに呼ばれた。平日なので探索者もそう多くないようだ。


「こちらにドロップアイテムを出してください」


 担当のお姉さんがカゴを出して来るがこれにはどう見ても入らないよね。僕のリュックパンパンだよ。


「このカゴだと入り切らないですよ」

「あっ、失礼しました」


 そこで初めてこちらを見てビックリしている。そのビックリした時の変顔がちょっと面白い。いやかなり面白い。笑えてきた。もう止まらない。


「アハハハハハハハハハ」

「こちらに入れて下さい。笑いすぎです」


 お姉さんがジト目で見てくるが、あー面白かった。取りあえずダンジョンで獲得したドロップアイテムは一度買取りの受付に提出する決まりになっている。魔石と棍棒そしてポーションをカゴに入れ、それから宝箱から出た腕輪、靴、ウエストポーチとイヤリングを入れて全てだ。またまたお姉さん変顔で驚いている。笑えてきた。またまた止まらない。お姉さん完全に僕を殺しにかかってるよね。


「少々お待ち下さい。ええっと、鑑定に時間が掛かると思いますがどうしましょうか」

「ハハハハハ、待ちます。フフフフフ」


 笑いが止まらない僕をほっといて、お姉さんは奥へと消えていった。


 今日一番のダメージを受けた僕は椅子でぐったりしていたと思う。


「受付番号二十三番の方、一番窓口にお越し下さい」


 やっと順番が来たようだ。窓口に行くと別の部屋へと案内された。そして部屋の中にはおじさんが一人待っていた。


「すみませんわざわざお越しいただいて。ちょっと高額なので余りたくさんの人がいるところではよろしくないかと思いまして」


 なんて怖いことを言うおじさんなんだ。


「では常盤君、内訳をお知らせして」


 ゴブリンよりもダメージを与えてくるお姉さんは常盤さんというらしい。


「まず魔石ですが普通のゴブリンが158個、ゴブリンファイターが18個そしてゴブリンアーチャーが1個ありました。ゴブリンが一個100円で15,800円、ゴブリンファイターが一個150円で2,700円、そしてゴブリンアーチャーが一1個で200円です。合計18,700円になります」


 世知辛いと思っていたが、魔石だけで結構な儲けになるな。パーティでの探索だと不満が出るかもしれないが、ソロだと十分だと思う結果だ。


「次にゴブリンの棍棒が一本100円で17本なので1,700円になります。次に低級ポーションが一本2,000円で11本ありますので22,000円、中級ポーションが一本7,000円で10本あるので70,000円になります」

「龍泉様、中級ポーションは何処から入手したか、お教えいただけないでしょうか?」


 おじさんが聞いてくるが、中級ポーションって珍しいのだろうか?


「多分ですけど、五階層と十階層のボス部屋の宝箱からだと思います」

「多分というのはなぜでしょうか?」

「五階層の宝箱は銀色で靴とウエストポーチとポーションが五本入っていました。十階層の宝箱は銅色でイヤリングとポーションが五本入っていましたから、合わせて十本になるのでそう推測しました」

「銀と銅の宝箱ですか。低階層で珍しいですね」

「そうですよね。初回討伐の特典もあると思いますが、他にも何かあるのかもしれません。でも僕には分かりませんね」

「そうですよね。すみませんビックリしたんで聞いてしまいました。あと腕輪は何処で入手しましたか?」

「ああーあれはすごくラッキーで、三階層の道の行き当たりに銀の宝箱があったんですよ。本当に運が良かったです。で、何の腕輪だったんですか?」

「三階層にも銀色の宝箱があったんですか」


 おじさんがブツブツつぶやいている。


「では続きに行きますね。靴は素早さが少しアップする効果が付いていて五万円になります。イヤリングは健康の効果が付いていて十五万円です。ウエストポーチはマジックバッグです。時間経過はありますが、三十立方メートルの容量があり、これが五百万円の買取り価格になります。最後に腕輪ですがこちらもマジックバッグと同じように収納道具になります。容量はドーム球場ぐらいで時間経過がありません。値段を付けると三億円になります」


 ご都合主義全開だよね。一番残念と思ったことがあっさりと解消されるとは、もうラッキーだけでは済まされない。ここまでツイていると逆に怖くなってくるよ。


「これはあくまでも探索者協会での買取り価格です。腕輪などはオークションに出すといくらになるのか想像も出来ません」


 復活したおじさんがとんでもないことを言い出した。この腕輪のようなマジックアイテムは初めてで、金色や虹色の宝箱に入っていてもおかしくない物のようだ。


「じゃあマジックアイテムと中級ポーション四本以外を買取りでお願いします。あとマジックアイテムの所有者登録はどうすればよいのでしょうか?」

「どれも同じですね。所定の位置に血液登録するだけです。登録の解除は探索者協会で行うことが出来ますので、もし気が変わったら持って来て下さい」


 解除の仕方は一昨日したばかりだから知ってますよ。正輝にマジックバッグの所有権を移したばかりなんだよね。でも今回は絶対に解除しない、これは僕の物だからね。


「お待たせしました。合計84,400円の買取り金額から税金分の15パーセントを引いて71,740円になります。こちらが買取りの内訳になりますが、よろしければサインをお願いします」


 マジックアイテムをいれなくて七万円越え、《百花繚乱》の時よりも収入が増えた。ソロでの探索で不安な面の一つが解消されて少し安心した。


「現金でお持ちしましょうか。それともカードに入金しましょうか」

「カードでお願いします」

「ではパーティメンバー全員のカードをお預かりしてよろしいでしょうか」

「僕はソロなのでこのカードに入金してください」

 

 またまた常盤さんの変顔炸裂、しかもおじさんの変顔付きときた。もう爆笑するしかないでしょ。最後までここの人達には笑わせてもらった。ついでに腕輪の所有者登録も済ませてしまった。すぐ使えると便利だもんね。


 預けてあったバッグを受け取り、刀をケースに入れて封印してもらう。後は着替えて帰るだけだが、時間もだいぶ遅くなってしまった。着替える前に家に電話を入れよう、後一時間くらいで帰るから晩御飯をよろしくとね。


 腕輪が便利過ぎ、収納したい物に触るだけで収納できる。マジックバッグだと開け口から入れないとダメだからね。さあ全てを腕輪に収納して手ぶらで家に帰りましょう。


 

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