第30話 賢者、勇者のひとりに会う。 : 13

微かに涙ぐむ私は、傍から見えれば志の高いこのふたりに感激したように見えるかもしれなかったが、その気持ち半分呆れ半分であったのは否めないだろう。

保護すべき町の大人たちに対して怒りも込めたその感情を、涙と共に拭いながら溜め息をついた。

「……さすがにこの大きさの町全体で孤児院を運営していくのは確かに理想的ではないでしょう。いくつかはそのようにするとして……適性を判断できるにしてもある程度教育を施されねば」

「そ、そういうもの……なのか?パトリック」

ギルドマスターであるティグリス・アウドがキョトンとして小声で尋ねてくる。

さすがに『師匠』も『先生』も呼ばれまくって過剰気味だったため、対等な立場であるということを皆に示したいと、彼には私のことは名前で呼ぶようにとお願いした。


あくまで『お願い』である。


なんせリアムが私のことを『先生』と呼ぶのを聞いて、彼も納得したような感銘を受けたような顔をしてこう言い放った。

「『先生』!いいな!確かに!!おぅ、これから俺もよろしく頼むぜ、先生!!」

「……やめてください。あなたももう誰かを師匠に持つ年齢ではないでしょう?」

「あー……うん、まぁ……確かに25でギルドマスターで……って、そりゃぁもうおれの方がある意味『師匠』って呼ばれる立場だがよぉ……」

てっきり私より10歳は年上かと思ったら、まさかの同い年だった。

町でのぬるい自衛団活動とあまり冒険に出かけないせいかもしれないが、何やら疲れた老け具合だったので年齢を見誤っていたらしい。

リアムも年齢を聞いてポカンと口を開ける。

「マジかよ……オヤジ・・・と同い年かと思ってた……」

『オヤジ』とはむろんリアムの実の父親ではなく、彼らを食い物にしていたろくでなしのことである。

「わっ、悪いかっ?!仕事柄、結婚する間もなかったんだよっ!!」

「……冒険者って、そんなに忙しいの?先生」

「忙しいっていうか……まあ、要領のいい奴はいいだろうし、そうじゃない奴もいる。仕事にも相手にも自分にも誠実であろうとすれば、何より冒険者として名を挙げた上で財産を築いたり、こうやってギルドマスターになったならなったで、ある程度自分の住む町が平和にならないと満足に家族と向き合うこともできないだろうね。逆にさっさと結婚して子供ができたら家庭を顧みず、ギルド館に泊まり込んで仕事塗れになった挙句、家族崩壊と受付嬢とよろしくやるような呆れた奴もいる」

「うわぁ………」

「まさしく俺の前のギルドマスターがそれだよ……しかも1人や2人じゃねぇ。風紀が乱れまくったおかげで受付嬢の9割を辞めさせなきゃならなくて、引退した元受付嬢どころか、冒険者を辞めた奴に声まで掛けて……ああ、もう思い出したくもねぇよ……」

そのせいで崩壊寸前になった冒険者ギルドをティグリスはまだ冒険に出たいと血気盛んな18歳で受け継いだらしいが、元はAランクの優秀冒険者だったという。

「……人材潰しが趣味なんですか?この町の領主は」

「ハハハハハ~……」

乾いた笑いを浮かべるティグリスは、確かに疲れていた。

「まあ……俺はこんなに若いが、他のギルドはだいたい俺の親父ぐらいか、下手したら祖父様の歳だからな。渡り合うには若造と舐められるわけにはいかないんだ」

「そうだな……まあ、他の町にいる引退者とか、心当たりはないのか?」

「あん?あぁ……そういう知り合いもいるにはいるが……何で?」

「そういった者にこの館の一室を宿として提供し、自衛団の立て直しを行えばいいよ。君はもう少し冒険に出たいんだろう?代理を立てて、近隣のモンスター狩りとかダンジョン潜りをもっと経験の少ない若者と組んでやればいい。カバー役や指導者として参加して、君は後継者を作り、若者たちはレベルアップを図る。それでどう?」

「おぉっ!!さっすが『先生』!!」

先生それはヤメロ」

パァンッ!とティグリスは膝を叩き、それはそのように決まった。


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