閑話:イーファの見た景色3

 気になります。先輩と魔女ラーズさんと王様、三人が何をするのか。

 別に子供扱いされたのを気にしているわけではありません。たしかに、年齢的には成人したばかりですし、ギルドでは新人ですから。背も低いし、ゴウラさんからは「女らしさが足りない」とかダイレクトなセクハラも受けます。


 でも、先輩があの魔女さんの所にいくと喜ぶというのが一番気になります。

 ……破廉恥なことをするのでしょうか。

 この前町で買った『貴族屋敷の物語~万能メイドの目撃録~』に書いてあったような人間模様のアレコレがあるのでしょうか。

 

 とても気になります。

 そして、嬉しいことに私は魔女さんの家の場所を知っています。魔法で隠されているので普通の人には見えないんですが、王様の家のすぐ側です。なんでも、小さな林でもがあれば結界を張って知り合い以外を寄せ付けないようにできるそうです。


 そして、私は結界を通り抜けるお守りを貰っています。いつも肌身離さずつけています。

 そんなわけで、王様と先輩が魔女さんの家に向かった後、しばらく時間がたってから後を追いかけました。


 魔女さんの家の前にはガーゴイルという石像が設置されています。非常に強い使い魔の一種らしいんですが、私には反応しません。お守りを持っているのと、なんか私に対する恐怖心ができてしまったそうです。この前粉々にしたからでしょう。


「失礼しまーす……」


 小声でガーゴイルさんの間をすり抜けて、魔女さんの家に接近。優しい明かりの漏れる窓の下にそっと隠れます。位置的にリビングです。ちょっとドキドキしますね、こういうの。


 私の耳が音を捉えました。今日はいつもより冴えてます。

 全てではありませんが、こんな感じの会話が聞こえます。


「うむ。やはりサズ君を連れてきて正解だったな。我一人ではこうはいかん」

「いえ、俺なんかで、恐縮です」

「サズさんがいいのですよー。わたし、待ってたんですから、こういう時を……」


「……!?」


 これは、なにか起きてますね。私の想像を超えたナニかが……。ちょっと顔が熱いです。

 心穏やかに、耳を澄ませます。わずかな物音と共に、漏れ出てくる声を。


「す、すごい! すごいですサズさん! こんなすぐに使いこなすなんて!」

「そ、そうですか? でも結構疲れますね」

「気にすることは無い。なんなら回復する手段も用意している」


「……!!」


 いっそ覗き込みたい衝動が芽生えました。斧持ってくれば良かったですかね。こう、壁を破って突入とか。小説でもそんな場面がありました。間違えて買ったホラーもので。


 ちょっとだけ、ちょっとだけ中を……。


 我慢できなくなったので、覗き込ませてもらいます。一瞬なら大丈夫でしょう。きっと、多分。


 こう見えて先輩から潜伏方法についても教わっています。呼吸をゆっくり、音を立てないように。そっと、立ち上がり。最初は一瞬だけ中を……。


「なにやってるんだ、イーファ」


 細心の注意を払って窓を覗き込もうとしたら、いきなり窓が開いて先輩が現れました。

 

○○○


「そうか、気になって見に来たか……」

「あれは我の言い方が悪かったな。イーファを子供扱いしてしまった」


 先輩に発見された後、軽いお叱りを受けた後に事情を説明したら、二人はすぐに納得してくれました。


「どうせならイーファさんも来てくれて良かったんですよ。疲れたらここで眠れますしー」


 そうにこやかに笑う魔女ラーズさんは、私の分の紅茶を淹れてくれています。そして、テーブル上に並んでいるのは数々のボードゲームとお菓子とお茶とお酒。


「まさか、夜通し遊ぶのがラーズさんの望みだとは思いませんでした」

「人見知りだけど、お友達と遊ぶのは好きなんです。面倒な性格ですいません」

「いえいえ、こちらこそ覗き見なんてしてしまってすみません!」


 申し訳なさそうに言うラーズさんと互いに頭を下げます。


 つまるところ、王様は私が夜更かしすることを心配したようです。『発見者』を持つ先輩はゲームのコツを掴むのが上手そうなので、誘ってみたという流れとのことでした。

 残念ながら、破廉恥はありませんでした。いえ、全然残念じゃないです。


「では、気を取り直して続きといきましょう。まずは、イーファさんも遊べそうな簡単そうなやつからですねー」


 テーブル上のゲームから、カードを使うものをとって、ラーズさんは宣言しました。


 それから夜遅くまで、四人で楽しく遊びました。


 こんなに楽しく夜を過ごすの久しぶりで、少しだけお父さんとお母さんが居た頃を思い出したのでした。

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