第14話:となり村へいこう
「すいません。お待たせしました」
「問題ないよ。道案内よろしく」
ピーメイ村の出入り口である、元世界樹の樹皮の裂け目。
朝の日差しを受けながら、荷物を背負った俺とイーファはそこに集まっていた。
今日の仕事は薬草の輸送。先日、俺達が採取したものではなく、前にイーファが確保していたものの出荷の仕事だ。
目的地はすぐ隣のコブメイ村。歩いて半日ほどで到着する、それなりの規模がある、村らしい村だ。
荷馬車でも使えればいいんだが、ピーメイ村には一台しかないので許可が下りない。その代わり、イーファは俺の倍は荷物を背負っている。頼もしい限りだ。
雨も降ってなかったから道はいいし、今日も晴天。道中の心配はいらないだろう。
「じゃあ、出発するか」
「はい! 宜しくお願いします!」
こちらこそ案内宜しく、と返して俺達は歩き出した。一応、俺もイーファも腰から武器を下げている。先日のブラックボアの一件もあるしな。
村の方も心配だけど、所長のお付きに戦える人がいるらしいのと、世界樹時代からあの村の周辺だけ不思議な力で魔物が近寄らないらしいので、安全とのことだった。
「まさか温泉に入って神痕の力が戻るなんてな。昔の仲間に聞かせても信じて貰えないよ」
「ですね。私もびっくりです。王様も驚くと思いますよ。本当にまれだって言ってましたから。多分、先輩がこの村と相性良かったのではないかと」
「村と相性が良いって言われたのは初めてだな……」
あまり聞き慣れない表現だ。
「ですね。あ、あの温泉ですけどね、実はギルドの宿舎にも引かれてるんですよ」
「え、初耳だぞ?」
ここに来てそれなりにたつけど入ったことない。お湯を沸かして手ぬぐいで体を拭いてたんだが。温泉があるなら入ってさっぱりしたい。
「昔、宿舎や宿を兼ねてた頃の名残で、男女別に分かれてまして。これまで男性がいなかったから女湯のみの稼働だったのです」
「そういうことか。男湯、どうにかならないか?」
「王様がお湯の水路を掃除してくれるって言ってましたので、近いうちに復旧すると思います」
「それは嬉しいな。有り難い。神痕の方も助かるしなぁ」
なし崩しとはいえ冒険者に戻った以上、神痕の力はあるにこしたことはない。特に『発見者』は戦闘以外にも応用が利いて便利だ。温泉に入って力が戻るなら、積極的に活用していきたい。
「なんだか村に帰るのが楽しみになってきたな」
「手早く済ませて、お土産買って帰りましょうー」
いつも通り、元気で明るいイーファと共に、俺達は古くて整備不足な街道を歩いてコブメイ村に向かった。
○○○
コブメイ村での仕事はすぐに終わった。雑貨屋に大量の薬草を納品。それだけだ。
仕事としてはあっさりしたものだけど、来た道を戻ると帰る頃には夜もいいところなので、今日はここで一泊することになっている。
コブメイ村に冒険者ギルドはないが、宿屋はある。むしろ、あの規模でギルドがあるピーメイ村が特殊だ。
「じゃあ、宿屋にいきましょう! ギルドの人用の部屋があるので!」
「それは助かるな」
小さな市場と広場、村にしては広めの道沿いにある宿屋兼酒場に入っていく。
ピーメイ村冒険者ギルド御用達の宿は、古くて小さいが、落ちついた感じのする佇まいのものだった。一階が酒場で二階が宿になっている、昔からあるスタイルの宿だ。
なんか冒険者時代を思い出すな、と考えながら中に入ると、いきなり声をかけられた。
「おお! イーファじゃねぇか! 元気そうだなぁ!」
酒場部分の奥、三人組のテーブルから声が掛かる。
小さいのと大きくとごついの、そしてその中間。そんな男性三人組だ。すぐ横に武器が置いてあるので、一目で冒険者とわかる。
三人の中でも中間のは男は冒険者の経験が多そうだ。なんというか、雰囲気でわかる。
それに一瞬、鋭い目で俺を観察した。こういう所でも油断しないタイプか。
「ゴウラさん達、お久しぶりです」
丁寧に頭を下げて挨拶するイーファ。どうやら知り合いらしい。
「知り合いか?」
「はい。この辺りで活動している冒険者さんで、お世話になっている方々です」
「そういうお前は何者だ? あぁ?」
一番小さいのが聞いてきた。どうやら酒が入っているらしく、ろれつが怪しい。
「ピーメイ村に派遣された、ギルド職員のサズです。宜しくお願いします」
イーファのように丁寧に礼をすると、ゴウラ以外の二人がじっと見た。
「なんだぁ、新人? あの田舎に必要あるのか?」
「イーファちゃんに迷惑かけるんじゃねぇぞ。もし、ヘマしたら、ただじゃおかねぇ」
「そんなことしません。先輩は王都の優秀なギルド職員だし、元々高名な冒険者なんですよ!」
「ちょっとイーファさん……?」
なんで相手を刺激するようなこというの。あと俺は別に高名な冒険者じゃない。
「高名だぁ? 聞いたことねぇぞ?」
「それに弱そうだしなぁ。いっちょここで試して……」
「二人とも、その辺にしとけ」
酔っ払い二人が面倒くさい絡み方をし始めたところで、ゴウラが咎めた。
「すまねぇな。明日は魔物退治なんで気が立ってるんだ。詫びに奢ろう」
今からメシだろとばかりにゴウラが言う。
「そこまでしてもらうわけには……」
「いや、有り難く頂いておこう。これで、今のやり取りは無しということで?」
遠慮するイーファを遮っていうと、ゴウラが「ほう」と表情を少し和らげた。
「なるほど。高名な冒険者だったということはあるな」
給仕を呼んで注文しているゴウラに、そんなことを言われた。こういうのはその場で終わりにするのが冒険者の流儀だ。一応、わかってるやつ、と扱って貰えたらしい。
「イーファが大げさに言っただけですよ。強引に現役復帰させられただけです」
「あそこの課長ならやりそうだ。苦労するだろうよ、なにかあったら言うといい」
笑いながらそう言うが、目は全然違う。この人本当にいい腕だぞ。なんでこんな田舎にいるんだ。
「困ったら相談させてもらいます。ところ、魔物退治っていうのは?」
「村から少し離れた山の果樹が植えてある辺りで目撃されてな。ゴブリンだ。もう居場所も特定した」
なるほど。すでに偵察済みか。ぬかりない。
そんなことをしていると、食事が来た。それを見たゴウラが立ち上がる。
「お前ら、酒はそこまで、明日は早いから寝るぞ」
「へい、兄貴!」
「そこの新人、俺達に迷惑かけんじゃねぇぞ!」
小さいのが余計なのを言いつつ去っていくのを見て、俺達は思わず苦笑する。
三人組が去って行ったのを見て、俺達は改めて夕食をいただいた。ちなみにゴウラは本当に代金を出してくれていた。
「ゴウラさん、ちょっと恐いけど良い人なんですよ。あの二人もお世話になってるんです。仕事がなくてあぶれてたのを冒険者に仕立ててもらって……」
「ああ、そんな感じだな」
ゴウラのお付き二人は大したことない。ほぼ素人だ。だが、彼は違う。最後まで酒を一滴も飲んだ形跡がなかった。明日の仕事に備えてだろう。仲間の酒量も見ていたはずだ。
こういう必要な判断を実行できる冒険者は強い。
ただ、少し気になることがあった。
食事をしながらイーファに聞く。
「イーファ、あの人達が受けた依頼について、調べられないか?」
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