第7話:神痕について

「つまり、私の神痕は『怪力』というやつなんです」

「結構強いやつだ。見たことある」

「そうなんですか! 是非とも詳しく教えてください!」


 ピーメイ村の外れにある、僅かな農地。そこの周辺に木材を運びながら、俺とイーファは話していた。太陽がのぼった春の爽やかな朝、俺とイーファは村の仕事に精を出している。

 今日の仕事は柵作り。一応、冒険者ギルドからの依頼という体になっている。

 ギルドの仕事はこういう雑用が大半みたいだ。昨日、夕食後に過去の書類を軽く見てみたんだけど、農作業や簡単な採取が多い。

 さすがに元冒険者を連日魔物退治に駆り出すようなことはないらしく、一安心である。


「俺が見た『怪力』持ちは、力だけじゃなくて、スタミナがあったな。それと、神痕を使いこなすうちに体も頑丈になってた。自分の力で体がぶっ壊れたら本末転倒だからね」

「なるほどー。それでいうと私はまだまだですね。力以外は今ひとつです」


 巨大な杭を片手で持って、地面に軽々と突き刺しながら、イーファが言った。木槌いらず、まさに『怪力』だな。

 俺はそれを横目に柵の横板を固定している。正直、イーファのおかげで作業が早い。


「神痕は使ってくうちに段々強くなるのが一般的だから、イーファもそのうち凄くなるんじゃないか?」

「おー、楽しみです。あー、あの……」

「俺の神痕のことなら気にせず聞いていいよ。昔のことだから」


 言いよどむってことは、俺の事をかなり詳しく聞いてるらしいな。


「はい。先輩もどんなだったんですか?」

「俺の神痕は『発見者』。最初はダンジョン内の罠とか仕掛けをよく見つけるくらいだったんだけど、段々物事のコツとか色々なものが見えてきたんだ」


 神痕は成長する。俺の場合もそうだった。

 冒険者として活動するうちに『発見者』の力はどんどん強まった。武術の修行をすればあっという間にコツを見つけ、ダンジョンや日常でも微細な変化や危険が目に付くようになった。

 一時期は、伝説の神痕である『直感』に匹敵するのではとか言われていたくらいだ。


「色々あって、ダンジョン攻略の時に頑張りすぎてね。力をほとんど失ったんだ。多分、役目を果たしたんだろうな」

「話に聞いてたけど、本当にあるんですねぇ」

「俺も驚いたよ」


 神痕は神様の作ったダンジョンより与えられる祝福だ。使う内にどんどん強まるが、何かをきっかけに突然力を失うこともある。


 曰く、神痕は持ち主を見ている。

 悪事を働き過ぎたり、持ち主が役目を果たしたと神痕が見なしたら、力を失うともされている。


 とはいえ、俺のように本当に役目を終えたように神痕が力を失うのは珍しいことだ。

 

「仲間と一緒にダンジョンを攻略したら消えたんだよ。俺の役目はそこで終わりと判断されたのかもな」

「もう戦わずにゆっくり暮らせってことだと思いますよ」

「そのつもりだったんだけどなぁ」


 ギルド職員の仕事は結構楽しかった。王都でこのまま働いて、それなりに出世して、孤児院に貢献できれば満足だったんだけど、まさかの左遷。

 しかも、自分の仕事は丸投げでこんな遠くに来てしまった。気にならないと言えば嘘になるが、どうしようもない。


「できれば王都のお話も聞かせて欲しいです。私、この辺りしか知らないもので」

 

 一通り柵を打ち終えたイーファが、横板を準備しながら言ってきた。手慣れたもんだ。


「俺の話で良ければ。どんなのがいい?」

「そうですね。こう、ドロドロした恋愛劇というか、人間関係的なのが……」


 これまでの印象とは異なる、意外な要求がきた。


「なんでそんな話を」

「え、だってこっちで流行ってる王都のお話ってそんなのばかりで。こう、貴族様みたいな偉い人達は愛憎渦巻く複雑な人間関係で大変なことになってるって。先輩もそういうのに巻き込まれて来たのでは?」


 常識ですよね? とばかりに無垢な顔でとんでもないことを言ってきた。


「いや、たしかに俺も王都の人間関係の被害者だが、そういうのは一部の人達だけだと思う」

「そんな……私の夢見た王都は一体……」


 なにを夢見てたんだ、この子は。


「あー、とりあえず仕事の話をしよう。王都の冒険者ギルドのことだ」


 王都への偏見を取り除くため、俺は前の職場について話し始めるのだった。

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