第16話 アンナの走っていた理由

まえがき アンナちゃんは急に走りたくなる症候群でなかったのです!






 そういえば、アーデルハイト様の外出禁止令ってまだ出てたっけ? アンナとの買い物のときは特別に許可されてたみたいだし、この屋敷から出るのは駄目なのかしら? 飛び出したとき外見たけど、快晴だったから外出たいなー。


「はっはっ……ただいま戻りました、ミーナ様」


 またもや息を切らしているアンナが入ってきた。もしかして、本当に急に走りたくなる症候群ってあるのかしら……水分補給は大切だし、そこだけは注意してみましょうか!


「私がご僭越せんえつながら、ミーア様がホーエン家のご令嬢であることを証明させて頂きます」


「水分は大切……って、え?」


 アンナは脚に巻かれていたガーターリングから二枚の紙を取り出し、部屋の真ん中にある机に広げた。うーん、なんて実用的! じゃなくてホーエン家である証明って、どういうことなの!


「はい、水分を欠かしたことはありません。それでですね、この家系図と絵を見てください」


 アンナが家系図と呼んだ紙はボロボロだった。いや千切られてた紙を直したような感じ? そのせいか書かれた文字を読むのに苦労したけど、見知った名前が並んでいた。グスタフ、ミリザリア、ミーア、エリザベス。ただ、ミーアという字は特に汚れている。


「これが一つ目の証明です。きちんとミーア様はホーエン家なのです。そしてもう一つは……」


「うーん、なんだか高そうな写真ね」


 妙に距離感のある男女と、二人の赤ん坊の写真。仲悪そうな感じ!


「そう! 幼い日のミーア様が写った絵です。どうです?! 完璧な証明でしょう!」


 そう! って言われても、本当にこれホーエン家の写真なのかなぁ。手にとってまじまじと見ても……あ! 私の手には一欠片の紙しか残らず、他の大部分は千切れて落ちた。


「……ごめんなさい、アンナ」


「その、一生懸命頑張ったのですが。千切れた紙を直すのはかなり難しくて」


 そんなに申し訳無さそうな顔しないでよ……つい謝っちゃうじゃない! でも、まあ多分私がホーエン家であるかも? っていう証明にはなったかもね。


 一日中走ってたのは、これをやっていたからなのね。それにしてもどこで見つけたのかしら?


「では、領主(アーデルハイト)様にも伝えてきます!」


 ちょっと! それは即断がすぎるでしょ……扉を開けっ放しにして出ていっちゃったし! どんだけ焦ってんのよアンナ!



「全く……寒いわね」


 アンナが開きっぱなしにした扉を閉め、絵の切れ端を見る。この断片、怒りながら千切ったんじゃない? なんというか憎悪、殺気が込められている気がする。千切ったのはグスタフだわね、絶対。こういう感じにね!


「グォオ。なぜあの出来損ないが産まれたのだ! 私も、ミリザリアも、エリザベスも優秀だというのに! 本当の娘でない! グロスターに行け! ゲッへへ」


 んふ、激似ね! これじゃあエリザベスも、お母さんも騙されちゃうんじゃない? ゲッへへ。


「……あ、の。ノックはしましたが、その、お返事がなかったので。えっと、アーデルハイト様がお呼びです。何も見てないので!」


 おう、まさかあの激似モノマネを見られてた? うーむ、はずかし! でもその優しさは辛いわ、エメ!






あとがき 次はアーデルハイトくんとの絡み

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る