第31話 月守家の交渉
「ま、待ってください! いくらなんでもお嬢様を貰ってくれと言われても……」
「ごほん。お父様。それでは蒼空様が誤解なさいますよ?」
「お、おっと、わしとした事が……そうだな。後は全て彩姫に任せるとしよう。こういうのは若者同士で話し合うべきだろうからな」
急に娘を貰ってくれと言われてもこちらも困るというものだ。
隣の七海が凄まじい形相で俺を見つめてくるが、そう言われても……俺も突然の事で驚いている程だ。
「父が誤解しそうな言い方で申し訳ございません。実は最強天能を持つ蒼空様を
「予見!?」
「はい。私はランクに分類されない特殊な才能『巫女』を持っております。皆様が普段から目にしている壁も巫女の力でございます。我が月守家は代々女児が特殊才能『巫女』を授かってきました。今代の巫女は私が務めさせて頂いています」
「なるほど……代々巫女を授かる月守家が結界を維持し続けて来たのですね?」
「その通りでございます。巫女の力は結界を強めるだけでなく、色んな力を持っています。その中でも一つが『予見』でございます」
「予見……」
言葉だけみれば単純だ。
けれど、予見はある意味神の力に等しい。
人は必ず老いて死ぬ事となる。
それくらい時間というモノに縛られ、逃れる術はない。
もし過去に戻れるならと思わなかった人は一人もいないはずだ。
だからこそ予見という力は、言葉だけ見れば非常に大きな力だ。
全国のどこかに生まれるはずの最強天能を事前に待ち伏せして、発言した瞬間にスカウトする。
現実として、俺もそうやってスカウトされたのだから、彼女が話す『予見』という言葉を信じざる得ない。
「私には――――貴方を最後まで見守る役目がございます。まだ結界の強度が万全な今のうちに、私は自分ができる事を成し遂げたい。そのために、貴方の傍に置いて頂きたいのです。もしこの体が欲しいのなら――――」
「それは要りません!」
「それは……残念…………」
「にぃ!?」「蒼空くん!?」
「いやいや! 本当にそういうのは要らないというか、間に合っているというか」
「間に合ってる!? にぃ!? 一体どこの女なのよ!」
「ま、待て七海! そういう意味じゃないんだ!」
「私の許可もなく女を作るなんて! 許さないんだからね!」
目の前まで言い寄ってくる七海。
ただ、怒っていても妹は可愛いと思えるから不思議だ。
「俺はこの先もずっと七海を守りたいんだから、他の女性とどうこうしたいとは思ってないよ」
それで納得してくれたのか、七海は少し顔を赤らめて静かに座り直した。
何故か凪咲は落ち込んでいたけど、それよりも今は彩姫さんの事だ。
「色々遠回りになりましたが、要は俺達と行動を共にしたいって事ですね?」
「その通りです」
「ですが一つ問題があります」
「問題ですか?」
これが絶妙にタイミングが悪い。
というのも――――
「俺達はこれから魔王が来るまで
もしSランク魔物である魔王が襲来するのであれば、今のままで太刀打ちできるか分からない。
多少なりとも戦力を増やすために、外でレベル上げをしようと妹と凪咲と話し合っている。
しかし、彩姫さんは口元を隠しながら笑みを浮かべた。
「それは
「えっ!?」
「ふふっ。自慢ではありませんが、少なくとも私に予見の力があるので、皆さんがこれから外に出ることも知っております。ですから尚更都合が良いのです」
意外な答えにポカーンとしていると彩姫さんが続ける。
「いくら特殊な才能とはいえ、このままでは力を発揮し切れません。巫女も才能の一種。レベルを上昇させなければこれ以上強くなる事もできませんから。代々巫女は外で修行をして参りました。私が命を預けられる相手に蒼空様を選びたいのです」
「俺を? それは最強天能だからですか?」
「はい。蒼空様が最強天能でも唯一試練を越えた方であり、その将来を見届ける義務が私にはありますから。それに蒼空様と一緒に行けば修行にもなるし、蒼空様の隣には可愛らしい女性が二人もいらっしゃるので、仲良くさせて頂きたいと思っております」
ちらっと七海と凪咲を見つめる。
嫌らしい感じは全くせず、どちらかと言うと憧れに近い視線だ。
「分かりました。ではこれから外に出かける時には連絡を――――」
「それは問題ありません! 既に荷造りは思わっております!」
「ええええ!? まさか家で住むつもりですか!?」
「はいっ! 凪咲様も住まわれていると聞きました! ぜひ私も!」
「いやいや! 部屋の数とか、そもそも男を同じ天井の下で……」
「あら、私の体が欲しいなら……構いませんよ?」
和の美女が色っぽい笑みを浮かべる。
長く艶のある黒髪が余計に色っぽく見えさせる。
「にぃ!?」
「ち、違う! 俺はそんなつもりはないって!」
「本当よね!?」
「蒼空様? 本当にそんなつもりがないなら私が一緒に住んで問題はないのですね?」
言葉にならない叫びを上げている凪咲を含めて三人娘が俺にそれぞれの想いを訴えてくる。
どうして…………どうしてこうなったああああああ!
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