第30話 公平にジャンケン
店内に入ると賑やかな音が俺達を出迎えた。
クレーンゲーム機から流れる軽快な音、入口に置かれた太鼓の音ゲーから流れる曲など色々なゲーム機から流れる音が店内を埋め尽くしている。
うるさいと感じるが、不快ではない。むしろ久々に肌に感じるこの賑やかさに不思議と胸が高鳴るくらいだった。
前に来たのはいつだったか、確か啓太と一緒に来た以来だろう。多分、一週間くらい前だった気がする。と言っても、それは日付的に言えば未来の話になるが……
「よーし! 佐藤! 格ゲーしようぜ!」
ゲーセンに入って俺が店内を見渡していると、そう言って風宮が俺の肩に手を回してきた。
さっきから強引に距離感を詰めようとしている風宮が心底煩わしいと思うが、俺は渋々と頷くことにした。
正直、コイツと一緒にゲームするなんて嫌で仕方ないが……今は風宮といる方が良い。素直に、今だけはそう思った。
「早速かよ」
「良いだろ? 早く行こうぜ?」
肩を組んだまま風宮に引っ張られるような形で、俺も歩き出した。
「はい。そこの二人ストップー」
しかし俺と風宮が歩き出したところで、櫻井がここから先は通さないと俺達の歩く道を塞いでいた。
「なんだよ、愛菜」
目の前に立つ櫻井に、風宮が眉を寄せる。
そんな彼に、櫻井が俺達に見せつけるように拳を掲げていた。
「どっちが先に佐藤君と遊ぶかはジャンケンで決まるよ」
「はぁ? 俺が先だろ!」
「そんなの私だって同じだよ! そう言うと思ったから、ここは公平にジャンケン!」
櫻井が早くしろと掲げた拳を振って、風宮にジャンケンを催促する。
この二人を見る限り、多分ここまで来る時と同じようにどっちが先に俺と遊ぶか口論になるんだろうな。
風宮もそれをわかったんだろう。苦い顔を見せると、渋々と櫻井の提案に頷いていた。
「……わかったよ」
「素直でよろしい。じゃあ、文句なしの一回勝負だからね」
「俺が勝てば良いだけの話だ。さっさとやるぞ!」
「では早速――」
風宮と櫻井が拳を突き合わせると、二人は「ジャンケン」と声を合わせて、揃って拳を振り上げた。
振り上げた拳を、二人が「ポン」と言って揃って振り下ろす。そして互いに出した手を見て、二人は正反対の反応を見せていた。
櫻井の出した手は、手を広げたパー。
風宮の出した手は、拳のままのグー。
その勝敗の結果は、明確だった。
「よっしゃあー! 勝ったぁ!」
「かぁぁぁ! マジかよぉぉ!」
パーを掲げる櫻井とグーを悔しそうに睨みつける風宮。
決まった二人の勝敗に、俺は思わず風宮を睨んでいた。
なんで勝たないんだよ……バカ野郎。
「はーい! じゃあ佐藤くんは私がもらいまーす!」
ジャンケンに勝った櫻井が嬉しそうに微笑みながら俺のところに駆け寄ってくる。
そしてなにを思ったのか、櫻井が自然と俺の腕に手を回していた。
「おい! なに腕組んで――」
「早速プリクラ行こー!」
急に腕を組まれて驚く俺だったが、櫻井はそんなことすら気にも留めない様子で俺の腕を引っ張っていた。
「くっそぉぉぉ!」
「はいはい。どうせ後でやるんだから拗ねないの」
「一人で格ゲーしてもつまんねぇよ!」
「愛菜が満足するまで待ってなよ。ていうか悠一、アレちょっと欲しいから取ってよ」
「クレーンゲーム? 別に良いけど、金は?」
「今日のお昼、私に面倒なことさせたから悠一の全奢りで」
「嘘だろ……!」
櫻井に引っ張られる最中、立花が風宮に追い討ちを掛けていた。
立花に襟首を掴まれて連行される風宮と目が合う。
なぜか俺と目が合うと、風宮は親指を立ててクレーンゲームコーナーに立花と一緒に消えていった。
未来から見たアンドロイドかよ、お前。必ず戻ってくるじゃねぇんだよ。
分かりにくいモノマネをされてムカつくが、それに気づいた自分にも死ぬほど腹が立った。
「あれ? もしかして悠一と梨香、クレーンゲームに行ったの?」
風宮と立花がクレーンゲームコーナーに消えて行った後、遅れて振り返った櫻井がキョトンと呆けた表情を作っていた。
俺は首を傾げていた櫻井に、渋々ながら頷いていた。
「そうみたいだ」
「そっか、じゃあ私と楓花と佐藤君で遊んじゃおう」
「え」
俺の腕を強引に引っ張って櫻井が歩き出す。
どうにかして腕に手を回している櫻井を離そうと試みるが、俺が離れようとすると余計に彼女はさせないと俺の腕をギュッと抱きしめていた。
腕に感じる妙な柔らかい感触に、思わず俺の顔が強張った。お前、着痩せするタイプかよ。
じゃなくて……この状態はまずい。
そう思った矢先、俺と櫻井に続くように歩いていた楓花が俺達を見ていた。
俺と櫻井が腕を組んでいる姿を見て、楓花が嬉しそうに微笑む。
そんな楓花を俺が見ていると、ふと彼女と目が合った。
俺と目を合わせた楓花が、小さく口を動かしていた。
『良かったね』
そう声に出さずに、口だけを動かして楓花がそう言ったような気がした。
違う。そんなのじゃない。別に喜んでるわけじゃない。
首を横に小さく振って楓花の言葉を否定するが、どうにも彼女は信じてくれそうにない。
俺に微笑むだけの楓花が、ただ純粋に怖かった。
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