第27話 遊びに行こう
スマホに気を取られて全く気づかなかった。
急に目の前に現れていた櫻井に俺が驚いて放心していると、彼女の顔が不満そうに歪んでいた。
「もう終わったの?」
「あ……あぁ、とりあえず、もう終わったよ」
「ずっと怖い顔してスマホ見てたみたいだけど……なにかあったの?」
口を尖らせて、不満と言いたげに目を細めた櫻井の視線が俺のカバンに向けられる。
その視線の先。櫻井が見ているのが俺のカバンではなく、その中に入っているスマホだと俺はすぐに気づいた。
俺の手が空くまで櫻井がずっと待っていたということは、俺がスマホと睨めっこしていたのは間違いなく見られている。
変に追求されるのも面倒だと思って、俺はすぐに話を逸らすことにした。
「別に大したことじゃないから気にしなくて良い」
「絶対大したことじゃないでしょー? こんなに眉間に皺寄ってたよ?」
そう言って、櫻井が俺に見せつけるように両手の人差し指で自分の額の皺を寄せる。
そんな彼女に、俺はわざとらしく肩を竦めて見せた。
「ちょっと家族から面倒な連絡が来ただけだ」
「ふーん、家族からだったんだ」
俺の返事を聞いた櫻井が意外そうな表情を作る。その表情に、反射的に俺は口を動かしてしまった。
「逆になんだと思ってたんだよ?」
「えっ?」
思わず俺がそう聞けば、櫻井の目が少しだけ大きくなった。
俺の質問に櫻井が考える仕草をすると、少しの間を置いて……彼女の口が開いていた。
「……あんな顔するくらいだから、彼女とか?」
あまりにも恋愛が好きな女子らしい返事が出てきて、つい笑いそうになった。
しかしそれを見せるのは流石に失礼と思って、表情に出そうになる笑いを堪えながら、俺は櫻井に首を横に小さく振っていた。
「残念、そういうのじゃない」
「そっか、それなら良かったよ」
良かったってなんだよ?
少しだけ、櫻井の言い方が俺の癪に触った。
「ご期待に添えなくて悪かったな。俺にその彼女とかいそうな奴じゃなくて」
「え? なんで急に機嫌悪くなったの?」
「別に、俺に彼女とか作れるような人間じゃなくて悪かったなって言いたかっただけだ」
遠回しにお前彼女いなさそうだよなって言われてる気がしたんだよ。
俺の話を聞いて櫻井が眉を寄せる。しかしすぐになにかを察したのか、どこか納得したような表情を作っていた。
「あぁ……そういうこと? 勘違いさせたならごめんね?」
「勘違いじゃないから気にするな」
変に同情されたくなかった。
良いんだよ。どうせ俺は楓花しか見てないんだから、他の女の子とかどうでも良い。
そもそもこれから二週間で楓花を惚れさせて両想いになる予定なんだから。
そう思って俺が目を細めて櫻井を見ると、彼女が慌てた様子で両手を胸の前で振っていた。
「違うって、そういう意味じゃないから」
「じゃあどういう意味だよ?」
「佐藤君に彼女がいなくて良かったって思っただけだけど?」
……それ、どういう意味だ?
頭の中に、ふたつの意味が思い浮かぶ。
考えた結果、俺はひとつのあり得ない可能性を消して、残った方の意味だと察した。
「更に
多分、俺が彼女とか作れなさそうな奴だと思っていた予想が当たってて良かった。そういう意味の良かっただろうと、俺は思うことにした。
「なに変なこと言ってるの? 全然違うに決まってるじゃん?」
しかしすぐに櫻井がそう言って、小さく首を傾げていた。
じゃあなんだよ、と俺が言いそうになる。だが俺よりも先に、櫻井の方が早く話し出していた。
「もし佐藤君に彼女とか居たら流石に私も気まずいでしょ? 友達になろうとしてるんだし、仲良くしたら彼女さんに悪いと思うのは当然だよ?」
え、そっち?
それならもっと違う言い方あるだろ?
頭の中に浮かんだふたつと違うことを言われて、思わず俺は顔を
「……それ、聞き方によっては勘違いされるぞ?」
「え……あ、確かに」
俺の指摘を聞いた櫻井が呆気に取られた顔をした後、少し恥ずかしそうにして頬を掻く。
俺に彼女がいなくて良かったってあの言い方だと、ふたつの受け方しかできないと思っていた。
純粋に俺に彼女がいないから自分にもチャンスがあるって意味と、先程の俺を貶してる意味。
普通なら前者の意味と受け取るが、彼女に限ってそれはないだろうと思うのは当然だろう。
しかしまさかの俺のいるかもしれない彼女に申し訳ないからなんて言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「ふふっ、もしかして期待しちゃったりした?」
「全然してないから安心しろ」
「なーんだ。残念」
頬をほんのりと赤く染めて、櫻井がつまらなさそうに口を尖らせる。
そんなウザい絡み方をする櫻井が面倒になって、俺は本題を彼女にぶつけることにした。これ以上くだらない話をしていたら、またスマホの話に戻りそうな気がした。
「それで? 別に俺と話したいわけじゃないんだろ? なにか用事でもあったのか?」
俺がそう唐突に言えば、櫻井がキョトンと呆けた表情を見せる。しかしすぐに面白くなさそうに口を尖らせて、彼女は頷いていた。
「うん。あるよ」
「……なんだよ?」
「佐藤君、今日の放課後は暇だったりする?」
直感で、嫌な予感がした。
俺は怪訝に顔を強張らせると、思わず聞き返していた。
「仮に俺が暇だったらどうしたんだ?」
「今日ね、悠一達とゲームセンターに帰りに遊びに行こうって話になったんだよ。だから良かったら佐藤君も誘おうかなって」
櫻井にそう言われて、俺は思い出した。
確か、俺のループが始まった日。つまり今日、風宮達が放課後にゲーセンに行く話があったことを、俺は今まで忘れていた。
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