12-4 ななの との 正月

 その年の正月は、僕も面倒で実家には帰らなかった。ななのは、年末の3日間は肉屋に行くって言っていたし、正月も牛丼屋に行くと言っていた。だけど、夕方からなので、元旦から、僕の部屋に来るからと、段取りしているみたいだった。


 お母さんは、正月の間はバイトに行くけれど、その後は、ななのがどうしてもと頼み込んで、土曜日曜だけにしてもらったみたいだった。


 そんな訳で、元旦も9時頃、ななのがやってきた。僕は、昨夜は遅くまで飲んでいて寝不足気味だったけど、起きて、コーヒーを飲んでいたのだ。それに、やっぱり、形だけとお年玉も用意していた。


「おはよう シュウ ご飯食べてないんでしょ どっちみち」と、ななのが元気に入ってきた。あのネックレスも付けていた。


「あのね 昨日は終わるの早かったから・・それからね ローストビーフでしょ 日の出海老 厚焼き玉子、お煮〆、タコの酢の物 作ったの 朝からブリの照り焼き 焼いてね お肉屋さんの社長にもらった箱に詰めてきたよ 私のお正月のお料理 初めてでしょ 食べてー」と、木を模した赤い箱を広げてきた。おそらく、正月用の高級な肉を詰めるものだろうか。


「すごいなー これっ ななのが作ったのか?」


「うん 途中から、お母さんとね これっくらい 普通だよ シュウ お雑煮も食べてないんでしょ 後で、作るからね 私も、一緒に食べる 先に、これ つまんでてー ビール? あるの?」


「あぁ」と、僕が冷蔵庫からビールを出してきて、コップに継ごうとしていると


「うぅーん ダメ! 私が継いであげるから」と、缶を取ろうとしてきて


「だめだよ 未成年にそんなことさせられないよ お母さんに叱られる」


「なんでー 私はシュウの何? 彼女だよー これっくらい」


「でも まだ ダメ! そのうちなー」


「つまんないのー せっかくの 彼女なのになぁー」


 ななのの作ってくれたお雑煮を前にふたりで食べ始める時、僕はななのにお年玉を


「なによー 子供じゃぁあるまいし シュウからなんて おかしいでしょ 彼女のつもりなんですけどー」


「でも まだ 学生だし 形だよ」


「シュウも大変だね プレゼントはしなきゃぁなんないし・・お年玉まで・・私が まだ 子供だから・・」


「そんなことないよ 僕の彼女には違いないよ さぁ 食べるとするかー」 


 ななのはお雑煮に西京味噌を使ったのか、実家で食べるものよりは少し甘かった。それに、お餅も・・


「ごめんね シュウのとこでは コンロでお餅焼くから おこげがあるんよね 香ばしくって・・」


「だなー でも いいよ トローっとしておいしいよ」


「よかったぁー でも 甘すぎる? シュウの好み わかんないから」


「うーん 仕込み味噌と半々が良いかなー」


「わかった でも、明日は お澄ましなんだぁー」


「でも、このお煮〆も玉子もおいしい 僕の好みだ ローストビーフもうまいし」


「うふふっ 作った甲斐あったわー 私の愛情 入っているからネ!」


 夕方が近くなってくると、ななのはそわそわし出して


「そろそろ 私 行かなきゃー うーっと どうすっかなー」


「なにが どうするって?」


「うーん あのねー ・・・ 今日のお料理のご褒美・・・」と、僕を見つめてきて・・「ね えぇー」と、身体を揺らすようにしていたので、僕はななのの顔を両手で挟むようにして、髪の毛を掻き上げて額にチュッとしたら


「うぅん そこだけ?」と、僕の首に手を廻してきて、唇をチュッと合わせてきていた。


「うふっ 新年のおまじない また 明日ね あんまり 飲みすぎないようにネ」と、言って帰って行った。

 


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