第63話・年末と全員集合
side・久遠一馬
天文16年も残り数日となると、清洲以外の仕事や雑務もあり清洲の件は年明けまでは棚上げにされた。
ウチはないけど借金の清算とか、あとは正月の支度とかでみんな忙しいからね。
いろいろ世話になった津島神社と熱田神社には少しばかり銭を寄進して、信秀さん以下織田弾正忠家の重臣と関わりがある人たちには、金色酒・鮭・昆布・椎茸に鯨肉なんかを贈り物として贈っておいた。
贈る量とか種類は、
あとは大掃除とか正月の支度とかも、みんなでやった。武家の当主は普通やらないみたいだけど、見てるだけってのもね。
「面白い物を考えるな」
「碁とか将棋って、気楽にできないじゃないですか。遊びくらいは気楽にやりたいんですよ」
そんな諸々の仕事を終えたウチでは、最低限の屋敷の警備を残して、家臣とか下働きのみんなに休暇を出した。
お正月のための餅米・鮭・昆布・椎茸・金色酒なんかを支給して、滝川一族以外は尾張に実家があるから帰省させた。
ほとんどが信長さんの悪友のワルガキだからね。最近は資清さんとかに教育されて立派に働いてるんだから、胸を張って実家に帰ってほしい。
信長さんの方も小姓や護衛を最低限だけ残して、あとは実家に帰したらしく、ウチに来てのんびりしてる。
「確かに碁や将棋は面倒だが、これなら面白い」
ああオレはちょっと余裕ができたから、暇潰しにとリバーシを作ってみた。ただし色は白と黒ではなく、縁起を担いで白と赤にしたけど。
自分で作ったからね。駒は木の板を丸く削り、赤と白の紙を貼っただけの簡素な物だ。名前はまだ付けてないけどね。
囲碁とか将棋はこの時代もあるけど、あんまり得意じゃないし頭使うから好きでもない。おまけにこの時代では統一されたルールもない。他にゲームといえば、トランプは確かこの頃に南蛮人が日本に持ち込むはず。トランプでも量産して売り出すか?
カルタとか花札もまだ無いしな。アイデアはいっぱいある。
「殿。これはいったい……」
「正月だからね」
そして大晦日を前日に控えた二十九日。家臣が減って静かな屋敷が賑やかになった。
船でアンドロイドが全員やってきたからね。表向きは全員嫁として、正月のために故郷の島からやって来たことにしてるけど。
ただやはり人数が多かったんだろう。津島で騒ぎになって滝川一族のみんなもポカーンとしちゃった。
「お前、本当は南蛮の国の王か、その嫡男じゃないのか?」
「違いますよ。小さな島の領主というなら、その通りですけど。いろいろ事情がありましてね」
騒ぎを聞き付けた信長さんは、割と真剣にオレの素性に疑問を感じたらしいけど、変な誤解はしないでほしい。
「元々は私たちの祖父母や両親は、遥か遠い異国から流れて来ました。ですが私たちがまだ子供の頃に、島の外から疫病が島に持ち込まれたのです。まず水夫が倒れてしまい、老人や女性だけでは手が足りず、島に残っていた若い男児も手伝い、病に倒れてしまったのです。殿と私たちは患者に接触しないように離されたので無事でしたが。その結果、男女の数がおかしくなってしまいましたので、島の纏め役で裕福だった殿に嫁ぐことになったのです」
「そうか。なかなか苦労をしてるのだな」
説明に困ったからエルに視線を向けたら、なんとかこの時代の人に理解できるように説明してくれた。
ちょっと苦しい言い訳にも聞こえるが、信長さんとか資清さんとか一応納得してくれたらしい。
「全員が一度に来る必要あったのか?」
「何かある度に一人また一人と増えるよりは、一度に来てしまった方がいいでしょう。人は慣れますから」
宇宙要塞も小笠原諸島も、別に敵らしい敵は居ないからね。ロボットを置いておけば、十分といえば十分なんだけど。
「ところで、この偉そうなロボットは?」
それとアンドロイドのみんなは、何故か船員じゃない偉そうなお年寄りの擬装ロボットを一緒に連れてきた。
さすがにオレは見抜けるけど、知らないロボットだな。
「島の家老として新たに作った、タイプC型の擬装ロボットです」
「タイプC型って、AI特化型か」
「はい。さすがにそろそろ島から重鎮が挨拶に来なければ、不自然ですので」
元がSFゲームだからか、ロボットもまたバリエーション豊富なんだよね。人類仕様の擬装ロボットは、肉体労働タイプのA型。戦闘タイプのB型。知的労働タイプのC型とある。
どのタイプも日常会話や人に紛れて生活できる程度のAIはあるし、飲食も栄養にはならないが体内で分解できる。
信秀さんに挨拶に行くなら、C型の方がいいのは確かか。
「私たち、歴史になんて残るかしらね」
「さあ? 旦那さまは史実の秀吉以上に、女好きにされることは間違いないけど」
家老ロボットはそのまま貢ぎ物を持って、清洲に向かったけど大丈夫かね?
ウチの屋敷では滝川一族の皆さんが大慌てになってる。
一応先週には島から人が来るとは教えたけど、まさか百人以上も嫁が来るとは思わなかったんだろうなぁ。
別に放っておいてもいいんだけど。そういうわけにはいかないか。
「秀吉以上の女好きって、嫌だな。酒池肉林みたいに言われるのか?」
「酒池肉林の意味には女性は含みませんので、酒池肉林とは言われないでしょう」
アンドロイドのみんなは、歴史に名を残せるかもしれないからワクワクしてるけどさ。できれば止めてほしいなぁ。
エルには冷静に言葉の使い方の間違い指摘されるけど。そんな場合じゃないよね?
今更ながらに気付いたけどさ。百二十体って作りすぎだね。アンドロイド。
まあこんなに嫁が居ると他家から嫁が来ないだろうし、それは楽でいいか。
いろいろ秘密があるから、他家から嫁が来ても困るんだよね。
「ウフフ。全員揃うと、よりどりみどりね」
メルティ。ニヤニヤと何がそんなに面白いんだ?
まさか、夜のことか? エロゲーじゃあるまいし、ここまで多いと困るんだよね。本当。
確かに一巡したし、最近は一晩の人数を増やしたけどさ。
嫌いじゃないよ。でもバランスとか全員の気持ちとか考えないとダメだし大変なんだよ。
ファンタジーみたいにステータス画面欲しいなぁ。
――――――――――――――――――
織田統一記には天文16年の年末に、久遠諸島から久遠家家老が挨拶に来たと記されている。
この際に一馬の妻が、久遠諸島から来たとの記載がある。正確な人数はこの時の記載にはないが、南蛮船で来た女性は百人も居たという話があり、後の記録から推測するに百二十人はいたと思われる。
女性にはアジア系も居たがヨーロッパ系の女性が多く、滝川家に伝わる資清日記には、南蛮からの流民を久遠家が保護して生まれた者たちだとの記載がある。
ただ正式な妻の人数は定かではなく、また侍女などがその中に居たかなど詳しい記載はなく諸説ある。
元々久遠家では身分や地位が無いに等しい、との記載がいくつかあるように、最終的には恐らく全員が妻として扱われていたことは確かなようだ。
この件は当時の人達の間でも相当話題になったようで、久遠家とその保護した流民について、当時から様々な噂があったと伝わっている。
中には流民たちは南蛮の王家の末裔で、一馬はその王家の継承者なのだという噂など、様々な噂があった。
それらの噂は一馬の妻が高い教養を持ち、各方面で活躍したとの事実に基づいていて、現代でも言われている東ローマ帝国の末裔説の有力な根拠の一つにもされている。
尤も久遠家は当時からそれらの噂を否定しているし、明確な証拠は何一つない。
ただし滅亡した帝国の末裔だと言えなかったのだと、語る研究者はヨーロッパでは多い。
だが日本圏では、東ローマ帝国説は久遠家が現代でも否定していることもあり、俗説に過ぎないというのが定説である。
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