第61話・戦より面倒なこと
side・久遠一馬
師走も半分を過ぎ残りを数えるようになった頃、オレは清洲に通う日が増えていた。
旧
それに清洲のお馬鹿さん達が放置した、流行り病の対処も必要だった。
人が足りないので
津島神社や熱田神社が、治療に慣れた人を派遣してくれた時は、本当に祈りたくなるほど助かったね。
「一馬。奥方を借りて済まぬな」
「いえ、構いませんよ。この機会に領内の検地をしてしまいましょう」
ただここでエルが一計を案じて、織田弾正忠家は旧大和守家領の検地を行うことにした。
無論ただ検地を行うのではなく、流行り病と食料事情の調査と共にだ。旧大和守家領は一言で言えば、戦国時代の悪い部分が凝縮したような状態だった。
傀儡の守護と傀儡の守護代の下で、私腹を肥やして好き勝手する重臣。旧大和守家の直轄領も、代官が私腹を肥やしてる所が多数あったみたいだし、とにかくみんな好き勝手にしていたみたい。
一応帳簿はあったが役に立ちそうもないので、困窮する農民に雑穀を中心に食料を配布しつつ、流行り病の対策として患者の治療をする。
そのうえで旧大和守家には税の資料がなかったからとの理由にして、改めて検地とついでに人口調査も行う。
まあ農民も農民で隠し田を作り、上手く誤魔化して生きてきたみたいだけどね。とりあえず食料と引き換えに、来年以降のための検地をした。
食料と治療を優先しつつ検地をしてるおかげで、抵抗はほとんどない。過去の不正が明らかになった所もあるが、そこは不問にしたしね。
今まで以上に年貢が増えることはないと事前に説明してるし、実際大和守家の時代よりはマシになるはずだ。
ただここで発覚したのが、検地なんてしたことがない織田家の皆さんは、どうしていいか分からなかったことだ。
政秀さんは北条が検地をしていたとの情報は知っていたけど、具体的なやり方までは知らなかった。
結果としてエル・メルティにジュリアやセレスまでもが、検地の指導に出歩いてる。
「それにしても凄い集まりましたね」
「商人の動きの早さは一馬ばかりでないな」
ああ清洲の町も再建と流行り病の治療に食料事情の調査と共に、町の住人の人口調査や職業の調査をした。
ちなみに清洲の町の商家からは、戦勝祝いとして銭や米なんかが集まってる。信秀さんは、特に要求してないんだけどね。清洲の町に津島と熱田の商人が来ると噂を流したら、向こうから持ってきた。
領主が代わったからね。旧大和守家は断絶したので、彼らに貸していたお金なんかは丸損する。そのうえに清洲の商いもどうなるか分からないと知った商人たちは、戦勝祝いとして銭や米を持参して慌てて新しい領主に挨拶に来たわけだ。
この辺りは商人をよく知る信秀さんらしい上手い手だ。
「それにしても北条は凄いな。さすがに関東で覇を唱えるだけはある」
「今川も
「法か」
「殿も尾張では上手くなされてますが、法として定めた分だけ今川が上かと」
ちなみに信秀さんは、検地と人口調査について興味を抱き認めた。
ただ与えるだけでは少し舐められる可能性もあるしね。食わせていくのだから、検地をするというのはちょうどいいバランスだと考えたらしい。
ちなみに尾張内の織田弾正忠家では、津島神社や熱田神宮を保護して寺領も認めてるが、罪人の追跡不可とか守護使不入は事実上ないみたい。
細かい所まで口出しはしないが、罪人を庇うのとかは認めてないらしい。
でも信秀さんの欠点って、曖昧なまま纏める所なんだよね。立場上仕方なかったんだろうけど、尾張の統治は特に曖昧なまま緩やかな形で上手く纏めてる。
ただ、それやると史実みたいに世代交代の時に苦労するんだよ。
オレも決して書類仕事が得意なわけじゃないけど。未来で一般的な学校を卒業した程度の学力でも、この時代では優秀な方になる。
「手強いわけだな」
「確かに。ですが今川にも欠点があるように見えます。隣国の北条と武田は強いですからね。それに家中もそこまで完全に纏まってるかは疑問があります。正直勝ってるうちはみんな従うんですよ」
「北条とはワシも文をやり取りしておるが。金色酒を融通してほしいと言うてきたぞ」
「そうですか。では年内に送りましょうか。今川を牽制するためにも北条とは
どうでもいいけど、何故オレは信秀さんの仕事を手伝わされてるのだろう? 清洲統治の雑務を信秀さんの小姓や政秀さんと一緒に、やる羽目になってる。
なんか雑談ついでにいろいろ喋っちゃったけど、不味かったかね? 大丈夫だよね。殿様なんだし。
「そういえば、岡崎は取るおつもりなのですか?」
「迷うておる。取れなくもないが、取れば今川と正面からぶつかるからな。松平を臣従させようとしておるが、現状を見れば役に立つか怪しいしな」
「松平ですか。三河者は戦馬鹿が多くて大変だったと、セレスが溢してましたよ。三郎五郎様がご苦労をされてたとか。戦をするなとは言いませんけど、後のことを考えて戦をしてほしいですね」
「松平がそこまで考えられるならば、現状にはなっていまい? あそこは先代の頃が忘れられぬのだ。一時期は守山まで攻めてきたからな。今川も本音では、もて余してるのやもしれん。安祥城を落とせればよし、駄目でも負ければ負けるほど今川の三河支配が進む。義元が笑ってるのが見えるようだ」
うーん。三河の扱いは信秀さんでも迷うのか。まともに統治すれば変わるかな。岡崎を取れば三河支配も見えてくるけど、今川がねぇ。
史実を見ると道三の方が戦いやすい気がしないでもない。道三って信長さんを認めたことで、優れた見識はあるように見えるけど、家臣に見捨てられたんだよね。
強敵はどちらかと言えば今川だと思うんだが。
「そういえば、あの大砲は金でも混ぜておるのか? 巷ではお前が金で作った武器を使ったと騒ぎになっておるが」
「まさか。あれは青銅の一種です。船の大砲は雨風や潮に晒されて錆びてるだけですよ。清洲で使ったのは、ウチの家臣が毎日磨いてたんで綺麗でしたけど」
「なるほど。ならば金色砲と名付けてみるか。中には金で大砲を作ったと信じる者も多かろう」
「金色酒に金色砲ですか? また騒ぎになりそうですね」
「よいではないか。それでまた儲けるがいい」
うわぁ。また信秀さん命名しちゃった。未来で黄金大名とか言われるぞ。きっと。
ただ本当に商いの儲ける秘訣、理解してるよね。実際のところ今の織田は儲けないとやっていけない。周りが見てるほど余裕がないからなぁ。
「それにしても、滅茶苦茶ですね。農民からの訴えの裁きも毎回違いますよ」
「大方、銭でも多く払った者に味方したのであろう」
「これはある程度、整理しないと駄目ですね」
しかし本当戦国時代を甘く見ていたね。
領地が増えても力で従うんじゃないかと、安易に考えていた自分に文句を言ってやりたい。そしていい加減な統治をしていた、信友とか坂井大膳に責任を取らせたい。
数字が合わないなんて当たり前。書類が無かったりいい加減だったり。小学生の学級会以下なのね。元清洲のみなさん。
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