ラテアート、シフォンケーキ

 おやつタイムが終わると、お客さんが増えてきた。

 お店の中には、人がたくさんいる。みんな楽しそうな顔をしてるから、わたしも楽しくなってきた。

 お仕事中のパパをチラッと見る。

 パパはコーヒーをつくって、お客さんに運んでいく。そして注文を聞いて、コーヒー豆を選んで、サイフォンに入れて……。パパはテキパキと仕事をしている。


 お店の中はコーヒーの香りでいっぱいで、お客さんたちはゆったりとした時間を過ごしている。お店を見ているだけで、なんだか楽しい気分になってくるんだ。

 ふと、お店の外が気になった。窓から見える景色は、夕焼けに染まっていた。


「……あれっ?」


 お店の外には、女の人がいた。茶色のコートを着ていて、たまに窓から中を見てる。お店に入ろうか迷ってるみたいだった。

 ……入らないのかな?そう思ってたら、ドアが開いた。


「こんにちは……」


 お姉さんが、おそるおそるといった様子で入ってくる。


「いらっしゃいませ」


 パパは笑顔で出迎えた。すると、そのお姉さんはほっぺたを赤くしながら、店内を見回した。


「あの……ここって、喫茶店ですか?」


「ええ、そうですよ」


 パパがうなずくと、お姉さんはほっと安心したような表情をした。


「よかったぁ……。はじめてのお店だから、緊張しちゃいまして……」


「いえ、大丈夫ですよ。ご案内しますね」


「お願いします」


 パパはお姉さんをテーブルに案内すると、メニューを持ってきて説明を始めた。

 お姉さんは真剣な目で話を聞くと、コーヒーとケーキのセットを頼んだ。パパはうなずき、メモをとる。

 お姉さんが注文したのは、カフェラテとシフォンケーキのセットみたいだ。

 わたしはイスからおりて、そっとお姉さんのところに行った。


「こんにちは!」


「あ、こんにちは……」


 あいさつすると、お姉さんはちょっとだけ驚いて、あいさつしてくれた。


「お姉さんは、ここに来るのははじめて?」


「ええ、そうなの。……前、どうぞ」


「えへへ。ありがとう」


 お姉さんはわたしのためにイスを引いてくれた。わたしはそこに座る。それから、ちょっとお話をした。

 お姉さんは、『小並こなみさん』っていう人らしい。この近くに引っ越してきたばかりで、まだよく知らないんだって。


 わたしは、この近くの小学校に通ってるって教えた。たまにパパのお手伝いをしてるって言ったら、「えらいね」ってほめてくれた。うれしいなぁ。

 そうやっておしゃべりしていると、パパがやってきた。お盆の上には、カップとケーキの乗ったお皿がある。


「お待たせしました」


 パパはお辞儀をしながら、お姉さんの前にそれを置いた。


「わぁ、おいしそう」


 お姉さんは目を輝かせた。パパはにっこりと笑う。


「ありがとうございます。こちらがカフェラテと、シフォンケーキになります」


 パパはカップとお皿を並べて置いたあと、また頭を下げてから戻っていった。

 お姉さんのコーヒーには、葉っぱみたいなもようが浮いていた。すごくきれい。たしか『ラテアート』っていうんだよね。


「うわぁ……。すごいですね」


 お姉さんもラテアートに気づいたらしく、うれしそうな声を出した。


「パパ、上手なんだよ!お花とか、ハートとかもできるの!」


 わたしは自慢するように言うと、お姉さんはクスッと笑った。


「ふふっ……。萌香ちゃんのお父さんは、すごいのねぇ」


「うん!」


 わたしは笑顔で答えた。パパのことをほめられて、わたしもうれしかった。


「いただきます」


 お姉さんはカップを手に取ると、ゆっくりと口をつけた。そして、幸せそうにほほえんだ。


「おいしい……」


 次にお姉さんはシフォンケーキをフォークで切って、ぱくりと食べる。そして、驚いたようにつぶやいた。


「……わぁ、これもおいしい!」


「えへへ。でしょ!」


 わたしは胸をはって言った。パパがつくってくれるお菓子は、どれもおいしいからね!

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