第15話〈スサノオノミコトの導き〉
飛羽高等学校、弓道部。
おそらく、あの男子が所属している部だろう。
夕都はスマホを充電しつつ、ネットで調べ尽くした。
強豪とまではいないが、つい最近の全国大会で優勝を果たしている。
主将の東弥太という男子は、凛々しくもどこか柔らかな印象を持たせる容姿をしていた。
彼を挟むようにして、襲撃者二人が並んで微笑んでいる。
コタツでまどろむ凛花が、夕都を見て目を輝かせて話しかけてくる。
「光の剣、すっごいね!」
「ん?」
光の剣、と言われて、自分が何をしたのかを思い出す。
頬が熱くなって視線を泳がせた。
凛花の前で、あんな中二病じみた真似をするなんて。しかも無意識にだ。
両手を翳して意識を集中させてみるが、何も起こらない。
幻でも見たのかのようで、胸がわるい。
はしゃぐ凛花がこたつから這い出て、夕都の隣に座り、腕をひく。
「あの技はやっちゃダメって、司東に言われてたのに、あの時強引に使って怒られてたよね」
「それはいつの話だ?」
胸に手を当てて凛花の話に聞き入る。
新しい自分を知る度に、と胸を突かれた。
自分と司東の関係性について、もう少し凛花に確かめたい気もしたが、今は、彼らを追うことが優先だろう。
学生達も気になるのだが、あの偉丈夫も気になる。
リュックの中身を漁り、見つけたメモ帳にペンで雑に描いてみた。
出来上がった姿に、苦笑をもらす。
上手くも下手でもない、中途半端な絵である。
絵をもとに検索をすると、該当候補がいくつか表示された。
てっきりヤマトタケルかと思いきや、違う。
確かにこの偉丈夫はいかつすぎる。
確信した存在は“スサノオノミコト”だった。
「スサノオノミコト」
呟くと、胸が熱くなるのと同時に、こみ上げる感情に気づく。
まるで、叶えられない夢を追うような心持ちだ。
凛花が顔を寄せて目をまたたいた。
「ねえ、スサノオノミコトがどうしたの」
「えっとなあ」
子供にごまかしはきかないだろうと、あの光景の一部始終を話してみた。
頭を揺らしながら考え込み、ぱっと顔を上げたかと思えば、満面の笑みで叫ぶ。
「この辺りにスサノオノミコトをまつる神社、たくさんあるから行こうよ!」
「たくさん?」
スサノオノミコトを祀る神社は全国にあるし、珍しくもないのだが、たくさんというのが気になった。
まずは飛羽高等学校を探るのが優先ではあるのだが、彼らとまた対峙するならば、神社にお参りするのも必要だと鑑みる。
必勝祈願にお参りしているかもしれない。
「みんなどこにいるのかな」
「凛花」
この騒動前には大人しく寝ていたが、やはり、不安でたまらないのだろう。
夕都は凛花を宥めて、一緒に布団に入る。
この家にいるのは危険ではあるが、体力の回復のためにも、朝まで眠ることにした。
この岡山県には、スサノオノミコトを祀る神社はたしかに無数にある。
何故か一部の地域に集中しており、奇妙さに驚く。
調べた結果、スサノオが
金甲山から車で一時間以上はかかる。板先からもらったお金で、タクシー代を使わせてもらって、
薄曇りの空の下、本宮を目指して歩いて行く。
表参道は舗装されてはいるが、かなり曲がりくねった道で歩きづらい。
この石上布都魂神社は、山奥にあるようなもので、本宮は拝殿を越えて、五十四段の階段をのぼり、土と根の急な坂道をのぼり、小さな崖のような斜面を、手すりを掴みながら進んでいく。
途中で山々を見渡せる開けた場所を通る。なかなかの絶景だが、薄曇りなので、先の方は霞んでいた。
そして、鳥居をくぐり「
台座の頂上に小さな祠がある。それが本宮だ。
赤磐市にある血洗いの滝でスサノオが剣を洗い清め、この地に奉納したとされており、夕都は疲れも忘れて、霊剣の気配にひざまづき、深々と頭を垂れた。
全身の肌がかすかな痛みを感じて、背筋が震える。
ふいに凛花が大きな声を上げたので、向き直り、声をかけた。
凛花は疲れ知らずで、我先にと歩いていたので、問題ないと考えていたのだが。
「どうした」
「だれか倒れてるよ!」
「マジか、大変だ!」
慌てて凛花の示す本宮の向こうに走ると、禁足地と書かれた木の札の傍、巨岩イワクラにうずくまる男がいた。
夕都は一瞬、心臓がはねたが、格好からして神主であると察して息を吐く。
足を踏み入れてはならないのは見てわかるが、放ってはおけない。
屈んで男に声をかける。
「大丈夫ですか? どうしました?」
夕都の言葉に、白髪交じりの男は、顔を上げて垂れた瞳をほそめ、眉根を寄せて答えた。
「ありがとうございます、ここは……なぜ、私はこんな場所に」
その言葉に、夕都は凛花と顔をみあわせる。
男を支えてひとまずは、巨岩から離れて、近場に設えられていたベンチに座らせた。
彼は夕都と凛花にお礼を述べると、この
石上布都魂神社の神主であると名乗った。
昨夜から体調が悪くなり、今日医者に診てもらおうとしていたのだが、いつの間にかこの巨岩にやってきて、祈りを捧げていたのだという。
ちょうど夕都に助け起こしてもらった際に、めまいと頭痛がおさまり、驚きましたと顔をほころばせる。
夕都は神主の言葉をきいているうちに、心がざわついていた。
凛花に目線をやると、目を丸くして神主を見つめている。
夕都は神主の血色が良いのを視認しつつ、ある疑問を投げた。
「体調が悪くなったのは、昨夜の夜中ではないですか」
神主は目を見開いて深くうなずく。
やはりそうか……夕都は、予感が的中して複雑な心境を隠せない。
凛花が夕都の手を引いてしきりに「どうしたの」と、心配する。
神主はじっくりと夕都を見つめていたかと思えば、考え込む素振りを見せた。
しばらくの沈黙の後、お招きしたいのでお時間をください、と誘われたので、夕都はこの機を逃すわけにはいかないと頷いた。
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