3 靴職人令嬢と王女殿下の出会い
「セレシェーヌ殿下、このたびは女王陛下のお靴を作らせていただき、誠にありがとうございました! こちらがご注文のお品です!」
フェリクスにセレシェーヌの私室に招き入れられたリルジェシカは、開口一番、深々と頭を下げると、包んでいた布をとり、綺麗にリボンをかけた木箱を恭しく差し出した。
「そんなにかしこまらないで。無理を言ったのはお母様なのですもの。ありがとう、お母様もきっとお喜びになられることでしょう」
フェリクス経由で木箱を受け取ったセレシェーヌがにこやかに微笑む。
今回、リルジェシカがセレシェーヌから受けた依頼は、彼女の母であるブロジェリーヌ女王陛下の靴の製作だった。木箱の中身をティプトン子爵に見られなくて、本当によかったと思う。
万が一見られて、セレシェーヌどころか女王陛下にまで迷惑をかけていたら、申し訳なさに塵と化していたところだ。
いや、これから迷惑をかける可能性は大いにあるのだが。
「女王陛下にお気に召していただければよいのですけれど……」
初めて作った靴の出来が不安で、つい視線が下がる。
女王陛下の命で靴を作ったものの、出来に満足しているかと問われたら、甚だ不満だ。
今こそ、本職の親方に師事しているものの、もともと独学で作り始めたリルジェシカの靴の作り方は他の職人とは一線を画した独特な手法だ。
趣味とはいえ、リルジェシカは靴づくりに人生を懸けていると言っていい。それだけに、心から満足できる靴を作られなかったことが、何よりも悔しい。
「ちゃんと女王陛下のおみ足に合えばよいのですけれど……。直接おみ足にふれて測らせていただいたわけではありませんから、合わない箇所があるのではないかと心配で……っ」
思わず不安をこぼすと、セレシェーヌが苦笑した。
「あなたは本当に靴づくりが好きなのね。でも、さすがに女王陛下のおみ足にふれるのは……。ね?」
「はい。不敬であると重々承知しております……」
女王陛下の靴を作らせていただけたというだけで満足せねばならないと、理性では理解している。
貧乏男爵の娘ごときが女王陛下の神聖なおみ足にふれたいなんて、しかもじっくりしっかり測らせてもらいたいなんて、不敬極まる。
リルジェシカの沈黙を不安ゆえと取ったのだろう。セレシェーヌが愛らしい面輪に柔らかな微笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。あなたがこれまでわたくしに作ってくれた靴も、とても履き心地のよいものばかりだもの。きっとお母様もあなたの靴を気に入られると思うわ。あの
「もったいないお言葉でございます……っ! 私こそ、セレシェーヌ殿下にはどれほど感謝申し上げてもたりません!」
優しい気遣いに、嬉しさで涙がにじみそうになる。
貴族とはいえ、最下位の男爵の娘にすぎないリルジェシカが、未来の女王であるセレシェーヌと直接、言葉を交わせるようになったのは、奇跡というほかない。
リルジェシカは感謝とともに、セレシェーヌの目に留まった時のことを思い出す。
あれは一年前の秋に行われた女王陛下主催の猟遊会でのことだった。
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