第41話 『悪女』との対峙
「あんた……今までどこほっつき歩いていたの?」
瑠美夏が低い声を出した。元々高い声じゃないけど、僕もほとんど聞いたことがないくらいの低さだ。
ここ数日、姿を見せなかった僕を糾弾する気が見て取れる。
「……僕が何をしようと、瑠美夏には、か、関係ないんじゃないかな?」
「はぁ?」
「だって僕達…………付き合って、ないんだよね?」
言った。
初めて僕の口から『付き合ってない』と言った。
今まではその現実を認めたくなくて、口にするのが怖くて出来なかったけど……実際に言ってみると、そこまでショックを受けることはなかったから驚いている。
「そうね。そのことをやっと認識してくれたようで良かったわ」
「彼氏彼女の関係じゃないんだから、僕がどこで何をしようとも……瑠美夏に僕を縛る権利なんてないよね?」
「あるに決まってるでしょ!」
瑠美夏が少し声を荒らげた。
瑠美夏は僕のことが嫌いで、僕を遠ざけるためにあんな真似をしたんじゃないの?
瑠美夏の矛盾に僕は内心で首を傾げた。
「どうして? 僕が嫌なら、僕のことを放っておけばいいのに」
「確かにあんたは好きじゃないわ。でも、あんたには義務があるじゃない」
「義務?」
僕を近くに置いておきたくないのに、それでも僕に瑠美夏に対する義務付けられていることがある?
「あんたは私の身の回りの家事をする義務があるのよ」
「…………」
それが僕の義務?
確かに僕は、瑠美夏が好きで、瑠美夏の喜んでくれる顔が見たくて家事全般を覚えた。これからもずっと、瑠美夏のために家事をして、瑠美夏が僕に笑いかけてくれる……そんな未来を、以前までの僕は信じて疑わなかった。
だけど、僕はそれを義務だと思ったことは一度もない。
瑠美夏を幸せにする……それが僕の義務だと、瑠美夏を好きになった時からずっと思っていた。……今までは。
「あんたがいないおかげで、家の中はぐちゃぐちゃよ。洗い物も、洗濯物も溜まる一方で、家の中もホコリが目立つようになってきたわ。どうしてくれるの?」
「……おばさんは、家事をしてくれないの?」
仕事人間のおばさんだ。家事はほとんどしないのはわかってるけど、そんな家の惨状を目の当たりにしたら、疲れているけど家事をするんじゃないのかな?
「しないわよ。あの人は家に寝に帰ってきているようなものだから、あまり家の事には関心がないの」
やっぱり。
僕もそれはわかっていた。
たまに思うんだ。おばさんは瑠美夏を愛しているのか、と。
もうずっとおばさんと話をしてないからわからないけど、でも生活費はちゃんと入れてくれているみたいだから、瑠美夏への愛情はあるはずだ。
「……なら、瑠美夏がすればいいじゃないか。放課後は時間、いっぱいあるんだから」
「なんで私がしなくちゃいけないの? 言ったでしょ。それはあんたの義務だって」
好きじゃないのに、それでも僕に『義務』だと言って家事を強要してくる瑠美夏。
このままじゃ埒が明かないと思った僕は、核心に踏み込むことにした。
「ねえ、瑠美夏。……君にとって僕はなんなの?」
僕は前々から、瑠美夏が僕をどう思っているのか疑問だった。
前に恋人じゃなく、『不本意だけど幼馴染』と言っていた。
竜太や柊さんに聞いてもそこは濁された。本当に知らないのかもしれないけど、二人は瑠美夏が僕をどう思っているのか知っていると核心を持っていた。
「上原さん……」
隣から柊さんの声が聞こえてきた。その声は僕を気遣う声音で、柊さんの顔を見ると、彼女は本気で心配する表情をしていた。
僕は何も言わず、微笑し頷いてまた瑠美夏を見る。
「…………」
瑠美夏からすぐに答えがかえってくると思っていたのに、なかなかその答えを口にしない瑠美夏。
それどころか、ちょっと考え……というか、迷っているかのような顔をしている。
数秒後、考えはまとまったのか、瑠美夏がにやりと笑った。
そして───
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