第35話 『聖女』は今日も、恭平の部屋に
小泉さんと口論をした日の夜。
わたくしは今、自宅にある恭平さんの部屋の前にいます。
恭平さんとお話……というより、今日のことを恭平さんのお耳に入れておかなければと思ったからです。
でも、正直怖い。
恭平さんに今日のことを打ち明けて、もし恭平さんが今以上に心に傷を負ってしまったらと考えると……。
いずれは小泉さんから恭平さんの耳に入るなら、わたくしからお伝えした方がまだ心のダメージは少ないはずです。
小泉さんはズバズバ言いそうですし……。
それとは別に、もう一つ怖いことがあるのですが……ここでじっとしてても始まりません。
わたくしは意を決して恭平さんの部屋の扉をノックしました。
「はーい」
昨日よりも恭平さんの声が弾んでいる。少しずつではありますが、恭平さんの心は回復されているとみて良さそうです。
「わ、わたくしです。清華です」
「柊さん? 今開けるね」
それからすぐに、恭平さんの部屋の扉が開けられました。
「こ、こんばんは上原さん」
「こんばんは。っていっても、夕食の時もあったけどね」
「へっ!? そ、そうでしたね。す、すみません」
うぅ……、わたくし、変に緊張しているみたいです。か、顔が熱いです。
「さ、入って」
「し、失礼します」
わたくしは恭平さんに促されて、恭平さんの部屋に入りました。
「物が増えてますね」
「うん。今朝、望月さんに家の鍵を渡したら、本当に僕の家から色々持ってきてくれたんだ」
ソファーのそばにあるテーブルには、わたくしの知らないマグカップがありました。どうやら恭平さんが普段から使用しているマグカップのようです。
寝室に案内されると、クローゼットの中には恭平さんの私服がたくさんありました。
「それで、柊さん。何か僕に用があって来たんじゃないの?」
そ、そうでした。恭平さんの私物を見に来たんじゃありません。目的を果たさなければ。
「そうですね。少し長くなるかもなので、良ければ座ってお話しませんか?」
「わかった。どうぞ」
恭平さんは手でわたくしに座るよう促してくれます。
先に座らせるようにする紳士的な一面にドキッとしてしまいます……。
「し、失礼します」
わたくしが座ると、恭平さんもゆっくりとソファに腰を下ろしました。二人の間には人一人分ほどの隙間がありますが、いつの日かその隙間を無くしてみせます。
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