第3話 コンビニウィスキーを飲み比べ

「これは……すごいですね」

 

 唯が出勤した時、会議室に五本のウィスキーのボトルが置かれていた。もちろん、これらを用意したのはリナ先生。すごいテンションが高い。

 

「唯さん、あのバー。凄いっすね! あーしも会いましたよ! リカー男子。タンカレーくん」

 

 そう言ってリナ先生はスケッチブックをペラりとめくり、変な形の緑色のボトルを持った美形の男の子のイラストを見せてくれた。この様子を外から見ている者は仕事の打ち合わせをしているのだろうと思うのだが……

 

「リナ先生もですか! えー、かっこいいー! いいなー!」

「いやー、毎日でも通いたいっすよ! なんせお酒の値段だけでいけてる男の子とお酒飲めるんすから……あのバーなんすかね? 今度、バーに行く時にある程度イメージしておきたいと思うので、今回勝手に色々用意してみたっすよ!」

 

 ブラックニッカクリア・トリスクラシック・サントリー角・ジャックダニエル・OLDパーシルバー。全てコンビニで売っていた銘柄をリナ先生は買ってきた。

 値段の順に並べていく。

 

「とりあえず安い順に飲んでみましょうか?」

 今は仕事中、飲酒はご法度なのだが……記事が記事だけに仕事に支障がない程度にとデスクからお墨付きをいただいた唯。紙コップに少量だけ入れて香りと味と飲み方を試していく。

 

 ブラックニッカクリア、ストレートで匂いを嗅ぐとアルコール臭が凄い。ペロリと舐めてみると37度と言う度数の割にもっと高く感じる味、唯はリナ先生をみると同じような反応をしているようだった。

 続いてトリスクラシック、これは匂いはブラックニッカ程アルコール臭はしない。ペロリと舐めてみるとブラックニッカ程キツくはないがやはりこれもアルコールの味がきつく感じた。

 

「ちょっと、これはあーしの口には合わないっすね。次! これは鉄板じゃねーすか?」

 

 サントリー角瓶。これは居酒屋や様々な場所で見る事ができる。これなら安心だろうと紙コップに注いで香る。甘そうな香りがする。口に入れてみると、ほんわりバニラが香るような先の二つ程アルコール臭がきつくないが、なんだか薄い気がする。

 別段苦手でも好きでもないなと唯は思って紙コップを置いた。

 一旦水で口の中を洗い流してからジャックダニエルを紙コップに入れてみる。この時点で凄いいい香りが広がる。これは期待大じゃないだろうかと唯とリナ先生はお互い無言で頷き合い口にしてみた。

 少しビリビリとアルコールが刺激するが、きついと言うイメージではなく私は今、お酒を飲んでいると言う嫌じゃない刺激。そして舌からゆっくりとフルーティーさが広がっていく。

 

「これ、美味しいですね?」

「うん、よく見る銘柄だけど、二千円くらいしますから、学生時代はクソ安い千円台のウィスキー買って自爆してウィスキー手を出さなかったので盲点すね」

 

 香りも味もふわりと香る。千円台と二千円台の差なのか……続いてここにあるウィスキーの中で一番高価な三千円台のOLDパーのシルバー。ボトルの形状も四角い特殊な形。それを開けてみるとバニラのような、先ほどの四つとは明らかに違う芳醇な香りが広がる。ボトルを開けただけで美味しそうと感じるそれ、

 

「ジャックダニエルも良い香りっすけど、これは別格っすね。ちょっとぐぐってみるっすね」

 

 ブレンデットウィスキー、名前の由来は英国で150歳くらいまで生きたというトーマス・パーという方の愛称らしい。

 ふむふむと唯はメモ、リナ先生はどう見ても高齢とは思えないイケメンのイラストを落書き。

 

「これは、結構危険なお酒ですね」

「分かるっす。飲みやすくて、子供の頃に想像していたウィスキーの味みたいな?」

 

 自分達なりにウィスキーを調べてあれこれを話をしていると、そこにダンディーな男性が一本の面白い形をしたボトルを持ってやってきた。

 

「失礼、お嬢さん達、お酒の試飲会ですか? 楽しそうですね」

「オールド・パーさん?」

 

 とリナ先生が書いたイラストのイケメンがいい感じに年を取ったらこうなるであろう。唯はその人物を見て……

 

「デデデ、デスクぅ!」

 

 そう唯の直轄の上長、編集長その人である。そんな編集長が何用か? もしかしてお酒を飲んでいる事に注意しにきたのか? いや、でもこれは仕事の一環として先に許可も取っている。

 

「秋田くん、もしよかったらこれ、記事に使えそうならと思って貰い物だけど、テキーラ。飲んでみないかい? 感想はまた記事で読ませてもらうよ」

 

 そう言ってトンと置いて行ったテキーラ。そこにはテキーラ・クルエボ1800レポサドと書かれていた。高級な化粧品の容器のような面白い形。度数は38度。目の前に並んでいるウィスキーと大差ない度数。

 

 しかし、二人はテキーラなんて飲んだこともなければ飲み方も分からない。テンガロンハットにサボテンのイメージしかないテキーラを眺めて、リナ先生は唯に提案した。

 

「あの“バー・バッカス“のマスターに飲み方教えてもらいませんか? これはあーし達にはてにおえそうにないっすよ」

「……ですね」

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