第65話 幕間・生きる(三人称)
魔王軍全軍撤退。
魔王軍本陣のその決断と共に、恐怖に怯えた兵たちは軍としての統率もなく我先にと一目散に散った。
それを帝国兵たちは容赦なく後ろから追撃して掃討、蹂躙していったのだが、それでも全てを余すことなく刈り取ることは不可能であり、討ち漏らしも僅かながら出てしまう。
その結果、セフレーナと女騎士団たちはどうにか帝都から離れた山林まで逃れて身を隠すことができた。
「っし、これで治療は終わって……あとはこの若い坊やがどうなるか……」
張られたテントの中で横たわるハビリに治療するサイイン。
セフレーナを守るために身を挺し、その上で傷ついた体で大暴れしたハビリをセフレーナたちは放置せずに連れていき、そして手当をした。
一通りの治療をサキュバスの能力で施したサイインは一安心……と、同時に……
「にしても、若いけど良い体してんなぁ~♥ ……ゴクリ……ズボン脱がしてパンツの下は……うわお、すご♥ はぁ~……最近の人間の若者ってのは天晴だなぁ~♥ ……つまみ食いしたら怒られっかなぁ? お嬢のだし……でも……うお、なんだ、急に起き上がっ、で……あ、目ぇ覚めた?」
そこでハビリはようやく目を覚まし――――
「なんですって!? ワタクシはこのまま魔界に帰っても死刑ですの?!」
「正確には、将軍含めた側近の我々もでしょうが……」
その頃、テントの外でこれからのことについて話し合うセフレーナたち。
副官のナオホが厳しい口調で今後の流れを口にする。
「六星の旗を掲げての戦……しかし、その結果が何の戦果も得られぬままの大敗、そしてほぼ全滅という凄惨な結果。この責任はやはり取らされることになるでしょう」
「そ、そんなぁ! だって、ワタクシたち気づいたらあんなことになって、いきなり裏切られたりしたんですのよ!?」
「それを大魔王様も、ましてや魔界の民たちも許さないでしょう。今回我々にどれほどの予想外のことがあったとはいえ、それでも極刑は免れないでしょう。我々も含めて……」
今回生き延びることはできたが、いずれにせよこのまま魔界へ帰還したところで敗北の責任を取らされることは必至であるというナオホの言葉にセフレーナも他の女騎士たちもショックを受けて涙目になっている。
「我らが生き延びるにはもう一度軍を建て直して帝都を堕とすぐらいですが……もうこれは不可能でしょう。そもそも今回の件で誰が生き延びているかもわかりませんし、兵たちも我らの言葉にはもう従わないでしょう」
「っ……で、では、ワタクシたちはどうしろと……」
「潔く武人としての責任を果たすなら、魔界に帰還して大人しく首を刎ねられる……それがお嫌で魔界に帰れぬなら……もうこのまま死んだことにして身分を隠して隠れて生きていく……ぐらいしかないのではないでしょうか?」
「ッ!?」
そう、どちらにせよもう自分たちは終わったのだ。このまま隠れてコソコソ生きるか、潔く死ぬか、それしかもう自分たちにはないのだとナオホは突き付け、セフレーナたちはショックを受ける。
「そ、そんなぁ、ようやく運命の殿方と巡り合えましたのに……まだ、コウノトリさんも来ていないというのに、わ、ワタクシは、ワタクシは……」
頭を抱えて泣き出すセフレーナ。そんなセフレーナに複雑な表情を浮かべながら、ナオホは一つの決断を問う。
「このまま隠れて生き延びようとも、ここが地上である以上我らの居場所はありませぬ。しばらくは生きていけましょうが、それでも金などが尽きればもはや盗賊に身を堕とすか、それとも体を売ってどこぞの変態の奴隷となって買われるか……それはあまりにも惨め。ならば……ここで割腹されるのも一つの選択肢かもしれませぬ」
「ッッ!?」
「「「「ナオホ副官ッ!?」」」」
今後のことを考えると、せっかく生き延びたとはいえ、ここで自害する方が楽なのかもしれないという提案も口にするナオホに、セフレーナたちは……
「うがのガアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼ッッ!!!!」
「「「「「ッッ!!!??」」」」」
しかし、その時だった。
「ちょ、何ですの、今のは?!」
「テントの中から……あの青年の声か! しかし、何が……」
突如響いた悲鳴のような声。
セフレーナたちが慌ててテントに足を踏み入れると……
「ちょ、落ち着けってぇ、なぁ、マジつらいんだろ? ほれ、あたいを抱いていいからさ、ほら、カモーン♥ ほれ、お尻ぷりっぷり、おっぱいボイーン♥」
「がぁぁあ、嫌だぁあああ、俺は、俺はぁぁぁああ!!」
「「「「「( ゚д゚)????」」」」」
頭を抱えてのたうち回るハビリと、そんなハビリに裸体を晒して誘惑しているサイイン。
その状況が理解できずに一瞬呆けるセフレーナたち。
すると……
「なな、何をやっている、サイイン!」
「あ、ほら、皆も見てみ! あの坊や何とか一命を取り留めて意識取り戻したんだけど、ほら、あの体!」
「「「「「………え!? ド…………ドラゴンッッ!!?? いや、ちが……ひいいいい!?」」」」」
目を覚ましたハビリの体の下半身の一部が荒々しいドラゴンのように見紛うほどのモノになっており、サイイン以外は純潔の乙女しかいない女騎士たちは顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
「ななな、なんですのぉ、あの立派に雄々しく逞しいのは! ハビリ様は一体!?」
「あ、お嬢、アレが男のアレっす! いやぁ、マジスゲエ……マジすごいっす!」
「アレとは何ですの!? わ、分かりませんけど、み、見ているだけで、ワタクシも体が熱くなって……」
そもそもソレが何なのかも分からないセフレーナすらも息が荒くなって体が熱くなるほどのものであった。
「ぐっ、し、しかし、どういう状況だ、サイイン」
「いや、あたいの能力でケガ治すと、人間は体質的に副作用やらで……」
「な、なんだと!?」
「つーか、マジヤベぇぐらいにあの坊やも精力臨界点突破で……放置すると爆発して死ぬかもだから、あたいを抱けって言ってるんすけど……」
サイインの能力による副作用を知らなかったナオホは啞然。
だが、それはそれとして、副作用で苦しむハビリに対し、自分で処理するよう提案したり誘惑しているのだが、それにハビリが応じないということで、この状況。
すると……
「俺はぁぁぁぁぁ、そういうことをしたらいけない人間なんだぁぁぁ嗚呼ああああ!」
「「「「「え……?」」」」」
「俺はぁぁあ、女を悲しませないイイ、穢さないと誓ったぁぁああ、だからぁぁぁ、もう、俺はぁぁぁ、ぐっぅ、あ、頭がぁあああ、股間がぁぁぁあ!」
歯を食いしばりながら、激しくのたうち回りながら、それでも抵抗するように叫ぶハビリの言葉にハッとする一同。
そしてハビリはセフレーナたちを見て……
「にげろぉ、あんたたち……早くしないと、た、耐えられなくなる……だから、速く逃げろぉぉぉお! 俺がココまでして……何とか生き延びれたんだ……儲けものだと思え……もう、女は俺の目の前で悲しいことにならないでくれぇぇえ!!!」
「「「「「あっ…………」」」」」
「生きろぉおおおおお! 生きろおおおおお!」
ハビリの心の底からの叫び。
それが今の乙女たちの心に深く突き刺さった。
そして……
「……ナオホさん……ワタクシ……ただ死ぬのが嫌とかそういうのもありましたが、今は心底思いますわ。生きないといけませんと。ハビリ様の想いに報いるためにも」
「……将軍……」
それは、セフレーナの決断であり、その言葉にナオホは否定できなかった。
そしてセフレーナは、他の乙女たちも、ハビリの言葉に逆らうように、のたうち回るハビリに近寄った。
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