第62話 魔王軍だいじょうぶ!?
「これでワタクシたちは夫婦ですわ! よろしくお願いしますですわー、ハビリ様ぁ♥ というわけであなたたち! すぐにハビリ様の首に当ててる剣をしまいなさい、ワタクシの夫に無礼千億ですわぁ!」
ここ……どこ?
周囲、魔王軍の、魔族の……女たちばかり?
魔人族の女たちの騎士団の陣営か何か?
「セフレーナ様、困ります! いきなり単騎で突っ込まれて!」
「しかも、ま、まさか、人間を勝手にこの本陣に連れてくるなど!」
「し、しかも、捕虜でもなく……け、結婚?」
そして、訳の分からぬまま連れてこられた俺は、俺を連れてきた女……セフレーナとやらの仲間たちに剣を添えられて「動くな」状態。
これは当然の反応だろう。
しかし、セフレーナはそんな俺や仲間らしい女たちの反応を無視し……
「おーっほっほっほ、さぁ、コウノトリさんいつでもいらしてくださいな! ワタクシとハビリ様の子供ですもの、美しく、そして強い完璧な子が生まれるはずなのですわー♥」
天に向けて何やら意味不明なことを叫んでいる。
「あ~……その、将軍……今は戦の最中で、しかも伝令によると最前線はかなり旗色が悪い様子……そのような状況の中、これは一体何のおつもりでしょうか?」
「言ったとおりですわぁ、ナオホ副長。このハビリ様は今日よりワタクシの夫となるのですわ~。そう、この完璧超人であるはずのワタクシが思わぬミスで落下。死しかないと思われた絶体絶命の窮地……それを救ってくださったのが、このハビリ様なのですわぁ! そしてハビリ様はワタクシを抱きしめて、ワタクシの美しさに惚れてくださり、ワタクシとはもう戦えない、と、つらそうに仰って……ワタクシ、その想いに種族を超えて感動し、ついにはこの唇を捧げてしまいましたのぉ!」
「……は、はい?」
いや、かなり話を盛ってね?
「な、何をお考えに!? そ、そもそも、こ、この者は人間ですよ!」
「おーっほっほっほ、些細なことですわ~! 人間や魔族である前に、ワタクシたちは、女と男、何も問題ありませんわぁ~!」
「いやいやいや、し、しかも、よ、よりにもよってこの状況で何を! 今、将軍はこの全軍を率いる総大将、六星魔将軍の一角として―――」
なんか、まぁ、頭を抱えて……副官だろうか? こんな頭のおめでたいバカな女の副官はそうとう……ん? 副官? で、この女が……
「え? ちょ、ちょっと待って……」
「はい? 何ですの、ハビリ様ぁ♥ 子供の名前についての相談ですの?」
「い、いや、そうじゃなくて……え、将軍? 総大将? 六星? ……って今……」
「ええ、そうですわぁ!」
聞き間違い? 幻聴? そう思って俺が聞いたが、セフレーナは「オホホホ」と笑いながら、指をパチンと鳴らす。
すると、その合図と同時に両脇に女騎士二人が片膝付きながら、花びらを舞わせる。
「そう、ワタクシは、魔王軍の最終兵器にして最強にして可憐にして優雅にして女神たる、魔界一の美貌と頭脳と力を持つ、六星魔将最強のセフレーナ・ミストレス! そして今日よりあなたの妻ですわー♥ よろしくなのですわー♥」
「……うぇ? ろ、っろろろろろろ、六星?! え、ろ、六星?!」
聞き違いじゃない? それとも騙ってるだけ?
「おい、副官さん、こ、こいつ、何かスゲーこと言ってるけど、六星って言ったら、あの魔王軍を代表する六人のアレ的で……いや、全員は知らねーけど……」
「……そうだ。この御方こそ、紛れもなく魔王軍の六星魔将軍の一角にして此度の総大将、セフレーナ大将軍だ」
「は……はぁぁああああああ!?」
もう一度、セフレーナを見る。
有頂天になりながらクルクル花びらの中で踊っている。
それを見て……
「ちょ、これが六星!? これが今回の総大将!? 魔王軍、人材だいじょうぶ!?」
「……に、人間である貴様のその反応に皮肉にも心から納得してしまうが……事実だ」
まさかの衝撃の事実。
そりゃ、魔王軍の六星って言ったら教科書にも載ってるほど有名な奴もいるし、戦争に出たことのなかった俺ですらその肩書は知っている。
てかそもそも、俺は今回それを迎え撃つ予定で……ん?
「ちょ、ちょっと待て! あの、その、俺の聞いた話では……今回……その、大将はオークのイーディーだって話をチラッと聞いたんだけど……」
「ン? イーディー将軍? オーク軍? 誰だそのようなデマを流したのは」
「……え?」
「イーディー将軍は先の戦による懲罰で半年間の謹慎処分で今回参戦していない……まぁ、貴様には関係のない話だがな」
ッ!?
半年間の謹慎処分!?
今回この戦で死ぬはずの六星が今回参戦してない!?
なんてこった。
半年戦争が早まっただけで、こんなとんでもないズレが生じたってのか?
「じゃ、じゃあ、本当にこの女が……総大将?」
「……うむ」
改めてセフレーナをよく見る。魔力は? あんまり分からねえ。
体つきは? すごくいい体だと思う。胸も柔らかかったし尻とかもプリンプリンで……だけど、ソードたちのように戦士としての引き締まった体ってわけでもない。
そもそもセフレーナなんて将軍を聞いたことが無い。
それでも六星?
強いのか?
今のこのバカっぽいのも演技か?
「にしても、どういうことですのぉ? さっきからコウノトリさんが全然来ませんわー! むぅ、ハビリ様ぁ♥」
「お、おお」
「もう一回ですわ♥」
「え、あ、ちょ―――んむ!?」
「ちゅっ♥ んちゅっ♥ ちゅっ♥ もう一つおまけにチュッ♥ ですわ~♥」
もう、よく分からん過ぎて抵抗もできなかった。
「きゃああああああああああ、セフレーナ様ぁ、だいたーん!」
「人間相手に……で、でも、いいな、男の人とキス……」
「うん、私、まだキスもしたことないから……どんな味なのかな?」
「なんかどきどきしちゃったぁ♥」
ここは、魔法学園のクラスの女子会の恋バナでもなんでもない。
戦争真っ最中の、しかも六星の本陣、総大将の本陣、魔王軍の本陣だぞ?
「っ、あ、あんた、何を……」
「何って、夫婦のキッスですわ♥ さっきからもうワタクシとハビリ様は何度かキスしましたのに、一向にコウノトリさんが現れないのですわぁ~、う~、早くワタクシたちの赤ちゃんを運んできてくださいですわ~!」
と、キャッキャする女騎士たちの中心で空に向かって叫ぶセフレーナ。
「なあ、副官さん……あんたが一番まともそうなんだが……たのむ、教えてくれ。アレ、ギャグなのか?」
「……将軍の情操教育はアレで止まっている……本気だ」
この中で唯一キャッキャせず、頭を抱えている副官さんに俺は思わず……
「ほんとに大丈夫なのか、魔王軍!?」
「……こんな形で人間に同情されるとは思わなかったが、今はそれすらも私の心に染みる……」
俺の言葉に、何か急に目頭抑えてシミジミ呟きだす副官さん……いや、なんか本当に心配になってきた。
ってか、ここが本陣でこいつが六星なら、ここをどうにかすりゃ俺たちの勝ちじゃね?
そう思ったとき……
「急報ぅううううう、ってか、マジヤベエ、あ、あたい、あんなの、はあはあはあはあ、とにかく……あ? ナニコレ? てか、お嬢さま、戻ってきてたんすか!? 無事で何より……って、それはそれとしてぇ!」
急に慌ただしい女の声が空から聞こえてきた。
それは悪魔の翼を羽ばたかせながら、恐怖に引きつった表情をした……サキュバス?
「あら、サイインさんですの? 慌ただしいですわね。それよりも、お空でコウノトリさんが迷子だったりしませんでした?」
「は? 何言ってんすかぁ! ってか、もう、マジヤバいんっすよぉ! 最前線に、な、なんか……とんでもない『バケモノたち』が現れたんすよぉぉ! そう……悪魔みてぇな形相で……ガクガクブルブル」
「はい?」
バケモノ? たち? 悪魔? え? どういうことだ?
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