第49話 改造の余波

「坊ちゃま! この度は訓練とはいえ大変無礼を―――」

「ご主人様、どのような処罰もケツ叩きもメス豚乱暴エッチの刑でも―――」


 訓練は終わり、各々にようやくの休息。戦士たちは家路に着く……前に……


「是非、あっ、是非! わんわんわんわん♥」

「是非、あっ、是非! ぶひぶひぶひぶひ♥」


 俺の前には再び四つん這いになって「許し」より「罰」を求めるソードとマギナ。

 それに対し俺は……



「よし、お仕置きは『何もしない』だ。お前らこのまま家に帰れ」


「「んなっ!? 放置プレイの刑!? 何という鬼畜な?!」」



 一気に絶望に染まった表情になる二人。

 そうか……普通の罰を与えても二人は喜ぶだけだから、何もしないことの方が罰になるわけか……


「で、それはそれとして……ほかの連中は大丈夫かねぇ?」


 いったん二人は置いておいて、帰路に着こうとしている共に地獄を潜り抜けた戦友たちを見渡す。

 誰もが地獄を潜り抜けた猛者の顔つきと雰囲気を漂わせているが、こいつら家に帰ったら家族にどんな反応されるんだろ?

 俺はこうして正気を取り戻したけど……



「先輩、お疲れ様です! ソード教か……えっと、もういいですよね? ソードさんにマギナさん……って、なんで二人ともこんな落ち込んでるんですか?」


「まぁ、放っておけ。そういう罰だ」


「?」



 いや、性格まで改変されなかったのはネメスもそうだった。

 ネメスは純粋にこの訓練期間で強くなった。

 っていうか、実際のところ、ソードとマギナのおかげで大勢鍛えられたし、いつか来る魔王軍に対抗する戦力がかなり補強されたと思う。

 だが、それでも本気で帝都を守るにはやはり……


「おつかれ~ハービリ~♥」

「あっ……」

「妻が迎えに来たよぉ~♥」

「よ、よう、トワレ……」


 やはり、『本物の奇跡の黄金世代』が加わってくれなきゃな。

 とはいえ、もはや完全に修行する気のないこの能天気なお姫様はどうすべきか?



「うん、だいぶ強く、そして精悍になったね……ハビリも他の皆も、そしてネメスも! これは、ご褒美は間違いなしだね♥ あっ、でも男子のエッチな旅行にはハビリは行っちゃダメだからね? そういうのは、妻がいるんだからさ♥」



 俺たちを見渡して笑みを浮かべるトワレ。

 っていうか、ご褒美の件をすっかり忘れてた。

 どうすんだろ?


「ふぁっ!? それはもちろんですぞ、坊ちゃま! 四六時中のバコバコドスケベツアーがご所望であれば小生が!」

「ご主人様ァ~~~!!」


 俺は心配されなくてもそういうのに参加する気はなかったが、参加する気のあったほかの連中も今ではどうなのか分からない。

 地獄を潜り抜けて改造された今の男子も女子も、出会いのパーティーとかエロツアーとか、そういうのしたいのかな? もうだいぶ性格がみんな変わったような気もするが……


「はっ!? っていうか、そ、そうだ、坊ちゃま! 小生、十分皆を鍛えたでありましょう!」

「そうです! 罰もありますが、ご褒美も! ご褒美も!」


 そして、こいつらに対する罰だけでなく褒美の件も忘れてたわ。

 ソードとマギナが美しさや教官の時の凛々しさなど崩壊するほどのいやらしい笑みを浮かべて涎を垂らしてやがる。



「え~~、それなら私もだよぉ! 事前調整とかご褒美の準備とか、私とイチクノが頑張ったんだから! まずは私がハビリとイチャイチャ! で、頑張ったイチクノにもおこぼれで!」


「ドロンッ! ひ、姫様、拙者は別に……」


「え~、いいじゃん。イチクノだってハビリのこと『かわいい』とか言ってたじゃん。私、イチクノならいいって思ってるんだからァ~。ほら、私が妊娠してエッチなことできない間に、そこら辺の女の子に浮気されるぐらいなら~って」



 っていうか……うん、トワレはまだこのままでいいかもしれない。 

 少なくとも、前回はオークの襲来でイチクノもトワレを守り切ることができず、トワレは死ぬんだ。

 しかし、その要因は、王子も親父も兄貴も不在のこの帝国を守るために、本来は守られるべきはずのトワレが軍を率いる将のように戦場へ危険を顧みずに身を投じたことも要因の一つ。

 それだけ前回のトワレは修行もしていたし、勇者の一人としてネメスと一緒に戦うことにこだわった。

 だけど、それで危険な目にあって死ぬ可能性も増えるぐらいなら、最初から今回は戦わせない立ち位置として後方で大人しく守られている方が安心かもしれん。

 

「ね、ハビリ~、チュウしよ!」

「いや、あの、いきなり、しかも外で―――」


 もう、俺もトワレには情を抱いているわけで―――


「チュウしなさい!」

「サー・イエッサー!」

「……うぇ? んむっ!?」

「……ん……」


 ……あれ?


「ふぁっ!? ぼぼ、ぼっちゃま!?」

「ご主人様!?」

「あ、せ、せんぱ……」

「お、おお、お館様……姫様……」


 なんで俺……「命令」されたら……体が勝手に反応して……メッチャ柔らくてすごいイイ香り……ッ!?

 俺、な、何をやっ……!?


「ふぁ……ハビリ……」

「ち、ちが! ちょ、トワレ、い、いい、今のは……」

「ふぁ~……♥」


 自分でも驚いてトワレから離れる。

 トワレは目をトロンとさせながらも、顔を真っ赤にポーっとしている。

 どうやらトワレも自分で命令しておきながらも、俺が本当にキスするとは思ってなかったんだろう。

 しかし、俺は……なんで?



「せ、先輩、い、い、いくら婚約者同士だからって、こ、こんな、こんなところで、僕だってご褒美欲しいのにィ!」


「坊ちゃまァあああ! 接吻んんんんんんん!」


「ご主人様ァあああ! ヴェーー-ゼー--!」


「おめでとうございます、姫様。今宵はお祝いでござる」


 

 何故俺が自分でもこんなことしたのかは分からないが、いずれにせよ考える時間をこいつらが与えてくれるわけがない。



「た、たいむ、あ、ちょっと待てえええ! あ~~、すまん!」


「「「あっ、逃げた!」」」


「ちょっっっと、頭を冷やしてくる! 頼むからお前ら先に帰っててくれ!」



 まさか俺が自らの意志で女にキスをしたことでこれほど狼狽えてしまうとは思わなかった。

 だが、間違いなく俺は今、自分の意志とは関係なく体が勝手に動いてしまった。

 もうこの世界ではそういうことはしない的な誓いをしたはずなのに。

 とにかく俺は既に身も心もボロボロだが、今は逃げた――――



「な、なんで!? 俺、なんでいきなり……ちょっと『命令』されただけで……なんで!?」



 まずい……もう、これは色々と……だって、トワレに……姫にキスをしたんだ……これは「まだ正式に結婚しているわけじゃないから」的なことは通用しない。

 絶対に責任を取らなきゃいけないことをやった。

 いつか落ち着いたらこの国から出ていこうと思っていた俺からすれば……いや……それ以前に……



「うわあああああああ~~~~~! お、俺は何をおぉおおおおおお!!」



 女を穢すようなことは二度としない。そう誓ったはずなのに。

 訓練中に正気を失っていた際にソードとマギナをペロペロしたとか、ネメスのアレを弄ったとか、チオのアレをチュッとしたとか、ヴァブミィの口に……いや……結構やっているか?

 だが、正気を失っていたとか、事故とかそういうアレではなく、これは……


「っ!? ちょっ、なんや? ……え?」

「つおっ!?」


 と、そのときだった。

 我を忘れて逃亡していた俺は曲がり角で誰かにぶつかりそうになった。

 だが、俺も相手も反射的に互いに飛びのいて回避。


「危ないえ。ちゃんと前を見な……あ……」

「っ!? やべ、すんませっ……あ……」


 そこに居たのは、東洋のキモノというものを身に纏い、買い物帰りの様子の……


「先輩はんやないのぉ~、って、これまた随分とボロボロで慌ててどうした~ん?」

「え、あ、あんたは……」


 チオの母親だった。


「し、失礼しました! ってか、先日の件も含めて、その、また娘さんにも謝罪に行かねばと思ってたんすけど……」

「あ~、ええんよ、そのことはもう。あの子もちょっと意地張って引っ込みつかなくなっとるだけやから」

「そ、そうは言いましても……」

「ただ、それはそうと先輩はん……ん~……」


 慌てて謝罪する俺だが、おふくろさんはそれほど気にしてないどころかニコやかだ。

 とはいえ、俺としてはやはり正式にチオに許してもらわないと、今後の世界のために……


「それより先輩はん、ちょっと、ばっちいえ」

「え? あ、ああ……それは……」


 俺のボロボロの格好を見てそう苦笑するおふくろさん。

 そりゃそうだ。この一週間の地獄の痕跡が残っているんだしな。

 すると……


「せや♥ どや? ウチの道場で自慢の露天風呂に入っていかへん? この時間なら『誰もおらん』やろうから♥」

「うぇ?! え? なんで……あ、いや、別にいいっすよ!」

「遠慮したらアカンえ~。人の好意は受け取っとくもんで、受け取らんと逆に失礼やえ~?」


 と、何やら予想外の誘いを受けてしまったんだが……




 その誘いが……










「……ん、先輩……っ、駄目、自分の指じゃ全然……先輩の舌は……って、私は何やってんのよぉ! へ、部屋にこもって、わ、私ってば……は、はしたないわよぉ! これじゃぁ変態じゃないのよぉ! ぬわぁああああ!? もうやめやめ! って、もうこんな時間……うん、いつものようにお風呂入ってとにかくスッキリしよう! 誰も入っていない一番風呂こそが全てを癒してくれるはずよ!」



 まぁ……うん……






――あとがき――


【重大】


やってしまった……本作、色々な意見をいただいた結果……


ノクターンノベルズという場所で【全解禁版】も投稿始めちゃいました。

もっと上品な本作に興味ありましたら、そちらも是非どうぞぉ~


『ループした悪役かませ炎使いが真面目に生きたら女勇者パーティー全員が痴女になってしまい世界はピンチ!?』

https://novel18.syosetu.com/n0125ia/



よろしくお願いしますぅ~~~


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