11月29日火曜日

私は里中葵さとなかあおい。あと27日で事故による網膜剥離で目が見えなくなる。今日から、何を見よう…


***


私は今、現代美術がたくさん飾られている美術館に来ている。


なぜそうなったのか。それはとある日のこと…


姉から美術館のチケットを貰った。自分は大学が忙しくて行けないから代わりに行って良いよ、とのこと。そしたら期限が今日までだった!


することもなかったのでまったりバスに乗り、美術館までやって来た。


現代美術とあるからやはりキャンパスに絵が描かれているだけでは無い。額縁が無い絵や立体の作品。触覚をも利用した美術品がたくさん並んでいた。


どれも目新しいものでこれは見る価値あるなと感心した。


館内は写真撮影禁止だったので、美術館のポスターを撮った。


すると横に常設してある無料の美術展があった。


覗いて見ると、これらはまさにキャンバスに描かれた絵がたくさん展示されていた。


恐らくレプリカで見たことがある絵がたくさんあったが、いざ目の前にすると迫力があった。


一通り回ると、最後の展示で『新作入荷』と赤く大きな文字で宣伝されている絵があった。


絵はM120号辺りだろうか。とても大きな絵だ。


言ってしまえば海しか描かれていないのだが、ひとことで海と言っても鮮やかさが段違いだ。


一見青に見えるが緑や赤、紫など海とは程遠い色が下に見える。


目が悪い私でも見える。


この海は一体どの時間帯の海なのか。朝焼けや夕焼け、夜空の海なのか。


タイトルは『Into your eyes』。


解説には『この絵画は海そのものではなく、人の目に映る海をイメージに画家・Like《ライク》によって描かれたもの。目に反射した海は青のみならず様々な色で描かれ、現代アートの先駆けとも言われる独創的な発想で一世を風靡した。絵を展示するにあたって額縁をイギリスにある額縁士に依頼。絵をより一層際立たせる額縁と絵のコラボレーションをお楽しみください。』


なるほど…この解説が言っている意味もわかる。


人の目に映る海、か。次第に視界を失っていく私の目にはこの考えはとても驚かされるものだった。


額縁士。その職業自体初めて知った。

イギリスから取り寄せるとは美術館もとても思い入れのある作品なんだな。


額縁によって絵の価格は左右するとも言われる大事なエッセンス。この絵と額縁はまさにベストマッチングだ。


近くのスタッフさんに許可を取り、タイトルと解説が書いてある看板のみ写真を1枚。


美術館内にあるショップで先ほどの絵のポストカードを購入。額縁は無いが、絵単体でも素晴らしい。誰に宛ててこのポストカードを送ろうかな。


そうこうしているうちに日は沈んでいた。


***


素敵なポストカードを横目に写真をノートに貼り付ける。

色ペンで日付と天気、場所を書いてひとこと感想。


「絵画について、額縁について、はたまた美術についてとても考えさせられた1日。見えないが、Likeさんの次回作が楽しみだな。」


少し悲しい気持ちでノートを閉じる。


美術とはいかに時代に左右されて、絵と額縁によって印象が変わるかを実感した。


だから私の目が見えなくなってもどのように振る舞い、どのように行動するかによって印象も変わると言うことだ。


『目が見えない=可哀想』という思いを抱かれないように行動したい。接してもらいたい。


そう強く願う、星が綺麗な夜だった。


つづく




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