女神様②
ウルフさんが帰っていくと、
〔 レシピスキル:『パータ・シュー(葵)』『生クリームのシュークリーム(葵)』『アップルパイ(葵)』を新規登録しました 〕
〔 『調理製造スキル:オーブン・凍結・ボイルの取得に加えて、十五個お菓子を作る』をクリア。調理製造スキル『オーブン』『凍結』『ボイル』が統合進化しエクストラスキル『温度調節』が解放されました。これに伴い、『素材スキル:カカオマス及び調理製造スキル:温度調節の取得』をクリア。調理製造スキル『テンパリング』が解放されました 〕
〔 『チョコレート』取得条件:素材スキル『カカオマス』『ココアバター』『砂糖』『粉乳』及び調理製造スキル『磨砕』『かくはん』『テンパリング』の取得 〕
〔 …… 〕
〔 現在、素材スキル『チョコレート』の作成が可能ため、作成を開始します 〕
〔 …… 〕
〔 素材スキル『チョコレート』の取得に成功しました。『チョコレート』は『ビター』『ミルク』『ホワイト』の選択が可能です 〕
〔 『チョコレート』の取得に伴い複数のレシピスキルにおいてロックが解除されます 〕
〔 しばらくお待ちください 〕
〔 …… 〕
〔 解放されました。解放されたレシピスキルは、一覧よりご確認ください 〕
〔 『粉砂糖』取得条件:素材スキル『チョコレート』及び調理製造スキル『遠心分離』『乾燥』『磨砕』の取得。現在、素材スキル『粉砂糖』の作成が可能ため、作成を開始します 〕
〔 …… 〕
〔 素材スキル『粉砂糖』の取得に成功しました 〕
〔 シークレットミッション『素材スキル・チョコレートを解放する』を達成。ボーナス素材スキル『洋酒グランマニエ』が付与されました 〕
グラニュー糖の時同様に、怒涛にスキルが解放されていく。
「……僕、かなり頑張ったよなぁ」
『■■■』がすっかり少なくなったスキルチャートを眺めて一人感動した、その時だった。
〔 レシピスキル『ボンボン・ラパンのガトーショコラ』が解放されました 〕
〔 備考情報に『みんなのお気に入り』とあります 〕
〔 アオイ、
その祝砲に、
僕は緊張をもって、レシピスキル『ボンボン・ラパンのガトーショコラ』を選択する。すると、しっとりした生地に粉砂糖が振りかけられた上品なガトーショコラが現れた。
「わぁ……美味しそう……」
思わず、一人しかいない部屋で口からその言葉が漏れ出てしまう。アールグレイの紅茶を準備してガトーショコラに生クリームを添えると、僕はフォークで一口目を口に運んだ。
柔らかめのスフレタイプの生地なのにチョコレートの味が濃厚でいて、洋酒の良い香りがフワッと鼻に抜ける。洋酒の香りはするけれど、お酒特有のアルコール味はしない。なんて繊細で優しくて美味しいんだろう。
コンコンッ。扉がノックされる。僕は慌てて、ケーキを飲み込むと「どうぞ」と声をかけた。
「アオイ、調子はどう?」
扉から顔を出したのはネコさんだった。時計を確認すると、もう十九時だ。朝から怒涛だったため、一瞬のことのように感じられる。
「わぁ。ガトーショコラだー! それまぢ好き」
部屋に入ってきたネコさんは、調理台の上でガトーショコラを食べる僕を見て喜ぶ。
「ようやく、ヨージさんの『ガトーショコラ』のスキルが使えるようになったんですよ」
「おめおめ~。アオイ、鬼頑張ったじゃ~ん」
その軽い調子に、先ほどウサギ先生から聞いたギャルじゃなかった時代の話を思い出して、僕は思わずジッとネコさんを見てしまった。
「そんな見んなしぃ~。掃除終わったら、今日はそれヨロ~」
掃除を速攻で片付けてガトーショコラを食べたネコさんは、急に思い立ったようにクローゼットの前に僕を呼んだ。ホウキを回転させて、衣装を出してくれる。それは、黒のロングTシャツに、黒のチノパン。そして……。
「わぁ! コックさんが着てるやつ!」
「ヨージがお菓子作る時に着てたんだ。コックコートって言うみたい」
僕はたまらず、白のコックコートに袖を通す。気分だけは、本物の
「うんうん。いいじゃん! いいじゃん! ミニ・ヨージ! 明日はその服にしなよ!」
ネコさんが帰った後も、僕はしばらくそのコックコートを眺めてニヤニヤしてしまった。
翌朝。昨日は疲れ切ってシャワーを浴びてすぐに寝てしまったものの、今朝は意外と疲労感もなく目が覚めた。
顔を洗って髪の毛を整え、昨日ネコさんが用意してくれた服に袖を通す。
ひゃー。ドキドキする。姿見の前でクルッと回ったりして、ソワソワと浮かれていると、扉がノックされて、ウサギ先生が訪ねてきてくれた。
「おお、コックコート似合ってるじゃないか」
本職の人に言われると、かなり恥ずかしい。でもコスプレでも今日くらいは、いいよね!
「ネコさんがせっかくだからって。あと、ウサギ先生! ガトーショコラ解放されました!」
ガトーショコラを出力すると、ウサギ先生は試食をしてくれた。
「うん。問題ない。うちの店の味だ。これならノルンも納得すると思う」
ふと気になって、昨日のことでツッコミを入れてみる。
「そういえば、お風呂大丈夫だったんですか?」
ダージリンティーを、ゴホッと吹き出すウサギ先生。
「……ゴホッ。記憶戻っちまったのに、一緒に入れるわけねぇだろ! ネコに頼んだよ……」
ですよね~。僕は笑いをこらえる。
「……実は、昨日ノルンに言おうと思ったんだ……」
こぼしたダージリンティーを指パッチンで分解回収しながら、ウサギ先生は話し始めた。
「でも……。もしかしたら本当にノルン、俺が宇佐木洋司だって認識できないのかもしれない。存在記録を抹消するって逮捕された時に言われたんだ」
紅茶を淹れ直してあげると、ティーカップを小さな手で包み込んで、先生は俯いた。
「ノルンにどうやって宇佐木洋司を探してるのか方法を尋ねたら、主キーとなる個体識別番号がどうとかって言ってた。神様たちだけがわかる番号があるみたいで、俺はたぶんそれをマルッと消されてる」
……この人、めちゃくちゃ小心者だな。大人にこんなこと言っちゃいけないんだろうけど、最悪のパターンを想定して、そのすべてに対策をして安心しないと動けないのかも。
下手したら「絶対に安全です」って言われても「やっぱり遠慮します」って言いかねない感じがする。
でも、この人は危険を顧みずに僕を救ってくれた。だから、小心なのは自分自身に関することだけだということも僕は知っている。
そんなちょっとヘタレだけど、カッコいいウサギ先生が長い耳をうなだれて、ため息をついている姿は、何とも言えず愛らしかった。
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