4日目②

 午後になり、ノルンの裏庭視察が始まる。


 彼女はツバの大きなハリウッド女優みたいな帽子とサングラス姿で、エレガントに現れた。袖を通さずに両肩にジャケットをひっかけて、ハイヒールでツカツカと歩いてくる様子は、もはや映画のワンシーンである。


「裏庭がキレイになったのは知ってはいたが、皆と同じ目線で見るのは、また格別じゃ」


 ウルフに説明を受けて、時々果物を頬張りながら、裏庭をノルンは見て周る。果物食べている様子、可愛すぎでしょ。


 そろそろ視察も終わりそうなので、俺はスイーツの準備を始める。ネコも食器など準備を手伝ってくれた。


 あ、紅茶、忘れてたわ。Menuメニュー、紅茶の用意できる?


〔 承知しました。種類はどうされますか 〕


 ダージリン、アッサム、アールグレイで。もちろんティーカップ付きで頼むぞ。


〔 承知しました。素材スキル『紅茶』の構築を開始します。……。構築完了しました 〕


 ちょうど、シロクマを先頭にして、ノルン達が戻ってくる。フルーツタルト、チョコレートケーキのオペラ、ウサギのカップケーキ、ミルフィーユといった豪華な菓子が並ぶテーブルを見て、ノルンは喜んでくれた。


「これは、『美味しい』がいっぱいじゃな」


 え? 可愛すぎません?


 給仕のように、食事用のテーブルで、ノルンの椅子を引く。そして、一通りスイーツの乗った皿を彼女の前に並べた。紅茶はアールグレイを出す。


 彼女が一口ずつ優雅にケーキを食べ、紅茶を飲む姿は、高級ファッションブランドの大広告のようだった。


 和やかな時間が過ぎていく。ノルン以外は立食で、思い思い好きなものを食べる。


 シロクマには、特別にアイスクリームとベリーのソルベを出してやると、「ボクは天啓を得ました!」と意味不明なことを言ってめちゃくちゃ喜んでいた。


 ノルンのティーカップにおかわりの紅茶を俺が注いでいる様子を、彼女はテーブルに頬杖をついて眺めている。じっと見られていると、ちょっと恥ずかしい。


「フフッ……なんだか、そうしておると執事のようじゃな」


 そう言ったあとで、ノルンは何故か「しまった」といったように、口元を手で押さえる。


「どうかし……」


 どうかしたか? と言おうとしたのに、言い終わらないうちに、視界がどんどん狭まって目の前が暗く……


 ……ヤバイ、これ倒れる……。




〔 女神ノルンより多世界秩序MWOへ任命ギフト『執事バトラー』を申請。対象者:宇佐木洋司 〕

〔 ……。インストールエラーを確認。デバッグを行います 〕

〔 …………〕


〔 対象者の『菓子職人パティシエ』及び『執事バトラー』のギフト競合を確認。対象者の最大ギフト積載量キャパシティー超過を確認。クリーンアップを実行します 〕

〔 …… 〕

〔 対象者の最大ギフト積載量キャパシティー超過を確認 〕

〔 …… 〕


多世界秩序MWOへ追加スロットを申請。追加スロットの拡充許可を確認。追加スロットを解放 〕

〔 …… 〕

〔 対象者の最大ギフト積載量キャパシティー超過を確認 〕

〔 …… 〕


多世界秩序MWOへ『執事バトラー』の圧縮を申請。『執事バトラー』の圧縮許可を確認。圧縮を開始します 〕

〔 …… 〕

〔 『菓子職人パティシエ』及び『執事バトラー』重複プログラムの検出 〕

〔 …… 〕

〔 重複プログラム削除完了 〕

〔 …… 〕


〔 『執事バトラー』のインターフェイスシステムを『Menuメニュー』へ統合 〕

〔 …… 〕

〔 『執事バトラー』の圧縮に成功しました。対象者への再インストールを開始します 〕

〔 …… 〕

〔 対象者へ任命ギフト『執事バトラー』のインストール完了 〕


〔 女神ノルンより多世界秩序MWOへ任命ギフト『執事バトラー』の取り消し申請。対象者:宇佐木洋司。ロールバックを開始します 〕

〔 ………… 〕

〔 ロールバックに失敗しました。デバッグを行います 〕

〔 ………… 〕


〔 『執事バトラー』の圧縮に伴い、オペレーティングシステムに変更を行いました。強制ロールバックを行うとオペレーティングシステムに重大な問題が生じます。ロールバックを中止します 〕


多世界秩序MWOへ『執事バトラー』の非表示化を申請。『執事バトラー』の非表示化許可を確認。『執事バトラー』を非表示に変更します 〕



 頭の中で、ごちゃごちゃうるせぇよ……。


 俺は、消えそうな意識の中で、そう悪態をついた。

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