3日目②
たくさんの果物を抱えて部屋に戻ると、シロクマが遊びに来ていた。
「お前、勝手に部屋、入んなよ……ってか、なんだ。そのTシャツ」
ジャーン! と言いながら、両手を挙げてクルリと一回転したシロクマは、大阪の道頓堀のアレに似ている。
「ネコさんに作ってもらった! 超クール! 超コールド!」
いや、『I♡COLD』って。まぁ、あの軍服よりは、よっぽどシロクマに似合っているが。
「この黒のほかに、ピンクも作ってもらったの。カッコいいでしょ」
とにかく、Tシャツはさておき、あのネコが趣味を見つけたようで少し安心する。俺もあとで着替え用のコックコートと他にも追加で洋服でも作ってもらおうかな。
「それにしても『I♡COLD』って、お前やっぱ、ここ暑いのか?」
先ほど外に出ても感じたが、ここは春と秋の良い日を足して二で割ったような環境だ。寒いのが苦手な俺としては丁度いいけど、白熊には暑そうだよな。
「陛下には絶対に言えないけど……正直なところ……超 ア ツ イ」
へぇへぇと舌を出して、暑さのアピールをするシロクマだが、腹の減っている肉食動物にしか見えないので怖い。
「だから時々、スキル使って北の方に行って涼んでるよぉ」
適当に相槌をうちながら、シロクマの話を聞いているうちに、今日のレシピ改良はアイスクリームにしようと思い立つ。
お中元のシーズンは暑いからクール便で送るアイスクリームの方が需要がありそうだし。でもカップへの充填に新しい機材が必要だな。あまり新規の設備投資に割く金はない。
それにアイスクリームって、菓子製造業許可だけじゃ、ダメだったよな。別の行政許可も必要か、調べないと。
とりあえず、夏までにアイスクリームを販売できるような体制を考えつつ、まずはフィナンシェとマドレーヌを主力にして通信販売をやってみるか。
「……ヨージ! お話聞いてない?」
「え? 聞いてる、聞いてるって」
すごい疑いの目で、シロクマに見られている。う……なぜ、俺が話を聞いていないのは、すぐにバレるんだ。元妻と娘の顔がよぎる。
「お前さ、どうせ瞬間移動できるんだし、いっそ北の涼しいところに住んじゃえば?」
俺は、無理矢理、話を聞いていたところまで戻した。
「俺の母親の実家がさ、雪がすごく積もる地域なんだけど、かまくらって言って雪で家を作ったりするんだよ。お前、将軍って言うくらいだし、雪で砦とか作れるんじゃね?」
「雪のおウチ?」
シロクマのつぶらな瞳がキラキラと輝く。
「あ、でも離れて暮らしたら連絡とれないか。電話でもあればなぁ」
ふと、娘にクリスマスプレゼントに酷くねだられた携帯電話を思い出す。クリスマスに店を手伝うことと、基本料を超えた分はお小遣いから徴収することで俺が折れた。
十二月の最初に、友達がみんな持っているというパカパカと折り畳みできる最新機種を買ってやったばかりだ。
〔 承知しました 〕
〔
情報を得たシロクマは、しばらく驚きで口をポカンと開けていたが、急に歓喜の声をあげた。
「えええええー! なにこれ~! ヨージ、すごい!」
おお、わりと新鮮な反応。他の二人はとても静かに受け入れていたからなぁ。
「ふむふむ。ヨージの世界だと、電磁波ってのを利用して通信するんだね。これは僕のスキルの応用でクリアできるかも」
そう言ってシロクマは、女性が化粧直しの時に使うようなコンパクトケースを二つ作り出した。片方を俺にくれる。パカッとコンパクトを開けると、丸ボタンとバツボタンがあった。
「ボクに用事がある時は丸を押したら、ボクの方の通信機が鳴って、通信を切る時はバツボタンを押せばいいよ!」
試しに、丸ボタンを押してみると、シロクマの通信機が「リリリ」と鳴った。彼も通信機をパカッと開くと、俺の通信機にシロクマの顔が映し出される。すげぇ。テレビ電話じゃん。
「というわけで、ボクは今から北の地へおウチを作りに行ってきます! 何か用事があったら、それで呼んでね!」
そして、シロクマは魔法の輪を作り出すと、輪の向こうの雪原地帯へと消えていった。
雪原地帯から流れ込んだクソ寒い冷気を俺の部屋に残して。
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