第103話 戦いの序章

東都西高校にとって黒崎の率いるグループの壊滅は大きな話題となっていた。


「おい、聞いたか?黒崎が潰されたらしいぞ。例の明和の2年に…」

「しかもアイツ、女さらったらしいぞ…」

「あー、終わったな…黒崎…」

「ウチの3大グループの一画が、まさか他校のたった一人に潰されるとはな」

「3大グループ?いやいや、黒崎なんて弱小過ぎて相手にされてなかっただけじゃん。でも今回のことでどうすんだろうな?」

東都西高校の中での噂は、もはや後戻りの出来ないところまで来ていたのだった。


その日、東都西高校の3大グループの内の2つのグループの代表が、トップ会談を行ったのだった。


「んで?黒崎どうした?」

「はい。今回のことで最早学校に来れる状況でないと思われます。ここ1週間は一切定時制のクラスにも顔を出していないそうです」

「まぁ、とんだ恥さらしだ。ノコノコ現れたら半殺しじゃ済まないかもな」

3大グループの一つ黒崎グループは壊滅し、残る2つのグループの一つである体育局の代表三沢宗介が言った。


「で、どうするよ?沖田さん?」

三沢が話しかけたのが、残る1つのグループ、沖田派のトップ沖田恭二である。


「いや、そもそも定時制の中でもまともに学校にも来ない半グレみたいな黒崎ごときを意識したこともなかったし、どうでも良いと思ってたよ」

沖田は不愉快そうにそう言った。


「あのクズ、女さらったらしいぜ」

三沢が沖田に対して聞いた情報を伝えた。


「みっともねぇ真似しやがって。一応年上だからと思って何も言ってこなかったが、アイツラのグループ見つけ次第、制裁を加える。それでいいよな?」

沖田は苛ついた表情で三沢に返した。


「ああ、構わないよ。本来であれば体育局総出で潰そうかとしてたくらいだからさ」

三沢はそう言うと、暗い笑顔でニヤリと笑った。


「ふー、相変わらずおっかねぇな」

沖田は思わずため息を付いた。


「いや、お前が言うなよ」

三沢は真顔で沖田に返した。


体育局とは、東都西高校設立当初から存在した体育会の部活動を統括する立場の組織であった。長い歴史の中で役割が変わり最早部活動なども殆ど行われておらず、荒くれ者たちを統制するためだけに存在する組織である。

歴代 体育局の局長と呼ばれるポストにはその世代の一番強い人間が就任できるという決まりがあり、学内でも最大勢力の40名程度の構成員がおり、その一人一人の実力もかなり高いものであった。

その為3大勢力と呼ばれる勢力の中で最大にして最強であるが、統一を目的としていないため、体育局が学内のグループをまとめるということはこれまで無かったのである。

その最大派閥の代表である三沢宗介は、局長というポストに座りパワーバランスを統制するという立場にあった。東都西高校の1年時に行われる1年闘争を圧勝し、2年にして学内に敵なしとされた圧倒的な強さを誇っていた。


同じく3大グループのもう一つは沖田派と呼ばれるグループである。

構成人数は10名程度と少ないものの、どこの派閥にも属さず自由気ままを謳歌する人間が集まった為、最少人数だがその実力は一人一人が圧倒的な戦力であり、実力的には体育局と双璧をなすとされていた。

沖田の実力は、東都西始まって以来の最強説も流れるほどの実力者だが、それほど喧嘩に興味がないため、一年闘争にも加わらずあらゆるグループの誘いも断り、気の合う仲間達と面白おかしく暮らしていたのだった。

そのため学内の統一には興味がなく、黒田グループがその勢力を拡大しているのも無視していた。

ただし、沖田は普段は穏健な性格であったが一度戦うと決めた相手に対しては、徹底的に抗戦を挑み、とことんまで追い込んでいく強烈なやり方を取るため、アンタッチャブルな存在として知られるグループであった。


「それより気になることが一個あるんだが…」

三沢は沖田に言った。


「いや、俺もちょっとあるな…」

沖田も三沢の問に合わせて言った。


「明和のお坊ちゃんのことは正直どうでも良い。黒崎の自業自得だし、学校の看板にたっぷり泥を塗ってくれたのは黒崎だ。ヤツにけじめを取らせりゃそれでいい」

「ああ、それは俺もどうでも良い。メンツだのなんだのと、くだらない事を言い出す黒崎っぽいアホのせいだと思うわ」

沖田も三沢も明和高校の水島瞬には興味がないようだ。


「ああ、ただ黒崎達がやられたのは、どうやら明和のお坊ちゃんじゃないって噂だぜ。知ってるか?」

「ああ、俺もその噂を聞いた。ちょっと興味が湧いたよ」

「東都西高校設立60年の歴史で最初で最後の統一者。しかも入学間もない一年でその快挙を達成した伝説の男、神崎東一郎…」

三沢はそう言うと、思わずニヤリとしてしまうのであった。


「ああ、本人かどうかは分からないけど、その後格闘家として負け無しの最強っぷりを見せつけたあの神崎とそっくりな男が、黒崎達を倒したらしいな」

沖田も三沢が言ったことに反応した。


「偉大な先輩が現役にちゃちゃ入れるっていうのであれば、話は別だろ?」

「ああ、それが事実であれば、このままオシマイって訳には行かないよな…」


「体育局は学校のバランサーだ。OBが介入しちゃいけない。この不文律に抵触したことになる。これは見過ごせないね」

三沢はそう言うと、腕を組んで難しい顔をした。


「は!?よく言うよ。お前も試したいんだろ?最強ってのがどれくらいの強さなのか?俺も気になるんだよ。歴代最強の先輩って俺より強いのかって?」

沖田もそう言うと椅子の背もたれに寄りかかった。


「まぁ、相手は偉大な先輩で、社会人だ。OBが俺らに手を出すとは思えない。だけども本当にあの神崎東一郎であれば、体育局の定めにより制裁を行う」

三沢はそういって過去の決まりに基づき宣言した。


「ああ、もし本当にそうならな。俺もそこだけ…ほんのちょっとだけ、手を貸すわ。あくまで本当に神崎先輩であったならばな…」

沖田はそういうと、さっと席を立つとそのまま部屋から出ていった。


「おい!勝手に動くなよ!」

「ああ、わかってる。そっちこそ!」

三沢と沖田は目も合わさずにそう言うと、トップ会談は終了したのであった。

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