第102話 「お礼参り」真相

「エマ…ごめんな…」

東一郎はエマを落ち着かせながら言った。


「…どうして?謝るの?」

エマは涙でグシャグシャになった顔で東一郎に言った。


「こうならないように、何とかしたかったんだけど、結局こんな目に合わせちまった…」

東一郎はそう言うとエマをギュッと抱きしめた。


「く、苦しいよぅ…」

エマは強く抱きしめられて、思わず声を上げた。


「あ!!ご、ごめん!」

東一郎は慌ててエマから離れた。


「とにかく、一旦この場から離れよう」

東一郎はそう言うと、エマの頭をゆっくりと撫でた。

そして先程のサラリーマン風な男のところに行った。男は先程バットで殴られた脇腹を抑えて座り込んでいた。


「おう。大丈夫か?」

東一郎はそう言うと、男に手を差し出してゆっくりと立たせた。


「く、来るのが遅いですよ」

男はそう言うと無理やり笑顔を作って立ち上がったが、辛そうだ。


「詰めが甘いんだよ」

東一郎はそう言うと、笑いかけた。


「はは、武器持ってくるとは思わなくて…」

サラリーマン風な男はそう言って、苦しそうな表情をした。


「武器は当たり前だから、確実に動けなくするまでやらないと。遠慮したら5分もしないうちに復活しちまうだろ。確実に骨を折るなり、気絶させるなりしないとこんな事になるんだよ」

言いながら、先程乗ってきた原付きを起こすとエンジンを掛けた。


「お、なんとか動きそうだ!エマ!こっちに!」

エマは言われるがままに、東一郎のところに来ると原付きの後ろに載せられた。


「おい!瞬!お前は大丈夫か?」

「は、はい…なんとか…」

「一旦ここを離れるぞ。街の安全なところまで行こう!」

東一郎はそう言うと原付きに乗り込む前に、止めてあった車のキーが付いたままではないか確認した。想像したとおりにキーはつけっぱなしだった。


東一郎はそれを取るとそのままキーを森の方へ放り投げた。


「こういうとこ、詰めをしっかりな!」

東一郎はそう言うと原付きにエマを載せて走り出した。

サラリーマン風な男もなんとか乗り込むと同じく原付きを走らせて、東一郎を追うのだった。


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ひとまず3人は、ひと目の付かないと言う理由で、街の中心部にあるカラオケボックスに入った。


エマは疲れ果てたのか、カラオケボックスに入るとぐったりとして東一郎にもたれかかるようにしていた。


「寝てるのか?」

東一郎はエマに声をかけたが、エマは何も答えなかった。


「少し休ませましょう」

サラリーマン風な男は、ドリンクをドリンクサーバから取って来ていった。


「助かったぜ。ありがとうな。瞬」

東一郎はサラリーマン風な男に言った。


「はは、まぁ想定よりちょっと早いから驚きましたけど、まぁ、想像はできました」

「悪いな。お前には迷惑かけっぱなしだ…」

「いいえ。もう戻らないって言ったじゃないですか。責任はどうぞご自分で…」

「まぁ、そう言うなって。何があるかわからんし」

「というか、逮捕されたんですよね?」

「いや、別に逮捕はされてないよ。それに未成年だし…」

「まぁ、どっちみち協力した条件分かってますよね」

「分かってるよ!」

「これっきりです。もう連絡も取らない。アナタは帰ろうとはしない!分かりますよね?神崎さん!」

「ああ、分かったよ。今回は緊急事態だったからな…」

東一郎はそう言うと、サラリーマン風の男に手を上げた。


「ねぇ、どういう事?」

エマが東一郎に聞いた。


「!!?」

東一郎は慌てて席を立つとエマを見た。

さっきまで眠っていたはずのエマは、真っ直ぐ向いて東一郎に言った。


「お、おお、、エマ。起きてたのか?お前、大丈夫か?」

東一郎は慌ててエマに無理やり笑顔を作った。


「この人は?」

エマはサラリーマン風の男を見ていった。


「あ、ああ、この人は神崎東一郎さん。あーっとちょっとした知り合いだ」

東一郎は慌てながらそこに居た男を紹介した。


「でも、さっきこの人を「瞬」って呼んでたよね。それと水島くんのことを神崎さんって言ってなかった?そう言えば前に…」

エマは混乱しているのが自分ではないかと、一言一言確かめるように言った。


「き、聞き違いじゃないか?」

東一郎はエマの話を途中で遮るようにして言った。


その時だった。


「エマ!」

「エマさん!」

ユリと唯がカラオケボックスの部屋に駆け込んできた。二人共目に涙をためている。

東一郎が連絡を取ったのだろう。


「ユリ…。唯…。」

エマは立ち上がるとユリと唯に抱きついた。そして緊張の糸が切れたかのように泣き出した。三人は無事を確認し合うと泣きながら抱き合っていた。

二人が駆け込んできたのを見た水島瞬(姿は神崎東一郎)は、そのまま立ち上がるといつの間にか部屋から出ていってしまった。


入れ替わるように、ヤマトが部屋に入ってきた。


「無事で良かったよ。こころちゃんや遥ちゃんにも無事を伝えておいたよ」

ヤマトが皆に伝えた。


「え?どういう事?」

エマは不思議そうな顔をしてヤマトに言った。


「あー、俺から話すよ」

東一郎はエマに向かって事の真相を話し始めた。


例のカラオケボックスでの事件で、東一郎が怪我をさせた相手が東都西高校の生徒であった。

東都西高校はこの界隈、いや東京都内の学校の中でも非常に荒れている学校である。特に揉め事を起こす事が日常茶飯事であり、生徒の三分の一が反社会的勢力と何らかの関わり合いがあると言われる。

その東都西高校の生徒をお坊ちゃん高校と揶揄される明和高校の生徒が一方的に怪我をさせたという事に、東都西高校の生徒たちは、あってはならないことが起きたといきりたった。


現在は3つのグループで抗争が続いているが、今回の3名の生徒が所属しているグループである黒崎のチームは特に犯人探しに躍起になっていた。


手段を選ばず東一郎に対し報復をしてくることを懸念し、東一郎は一方的にエマ達、更にクラスメイト達とも線を引くことで、自ら孤立し他の生徒に影響がないようにしていたつもりであった。

東一郎がなかなか見つからない事に業を煮やした、東都西の黒崎は、事件当日に現場に居たエマにターゲットを絞った。それが今回の事件の顛末であった。


今回のことで黒崎のグループは、東都西高校における地位の失墜と争いからの撤退を余儀なくされたのであった。

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