9.食料集め

 俺の操作する粘魚は1階から順に部屋を見回っていく。

 しかしモンスターが荒らした部屋には綺麗に食料の類は無くなっていた。

 缶切りを使わないと開かないタイプの缶詰などがたまに残っているが、穀物も野菜も肉も魚も全部根こそぎ食われている。

 まあ半年も経っているので生鮮食品はあっても食える状態ではないだろう。

 探すのはカップラーメンや缶詰なんかの保存食だ。

 米や小麦粉なんかの穀物や調味料の類も未開封なら確保したい。

 コーヒーの豆やお茶の葉などの嗜好品もあると嬉しいな。

 意外と盲点なのが床下収納だ。

 奴ら床下収納の開け方が分からないらしく、たまに斧か何かを叩きつけたような傷が付いているが、中の食料をろくに取り出せていない。

 俺は床下収納を中心に部屋を見て回った。

 1部屋で手に入る食料品は微々たるものだが、塵も積もれば結構な量になる。

 この分なら、俺一人が飢えないだけの食料は得ることができそうだな。

 モンスターも寄ってこないので、見張りの粘魚を1匹減らして探索に当てた。

 モンスターが近づいてきたらドアを閉めるだけだから、見張りは1匹で十分だ。

 ふよふよとノロい泳ぎで移動しながら、ふと落ちている扉に目が行く。

 この扉、結構重いよな。

 防音性の高い金属の扉はかなり重量があるはずだ。

 俺は魚の口をめいっぱい開き、落ちていた扉を飲み込ませた。

 粘体や粘魚の中の異空間は本物のアイテムボックスのようにとてつもない量の物をしまっておけるらしい。

 中は四次元なのかもしれないな。

 容量を試す意味でも、俺は片っ端から壊された扉を飲み込んでいった。

 こいつを使えば、安全な場所から一方的にモンスターを倒せるかもしれねえな。






 一晩寝て翌日だ。

 昨日は朝から晩までかかったがマンションの探索は終わった。

 壁や床に赤黒い痕跡が残っている部屋も多かったが、そういう部屋はそっとしておいた。

 故人の怨念とかがこびりついていそうで怖いからな。

 遺体が無かっただけマシだが、なんで無かったんだろうな。

 まさかモンスターって人も食うんだろうか。

 怖いのでそれ以上は考えないことにする。

 そういった痕跡のあった部屋以外の食料は集め終わった。

 マンション内にモンスターがいないということもわかったので、俺は自室から出て階段で最上階の1室に移った。

 4階から13階まで登るのは運動不足の俺にはかなり堪えた。

 少しは動けるようにトレーニングでもした方がいいかもしれない。

 13階から見える夕焼けはなかなかの景色だったが、廃墟の窓からじゃなけりゃもっと感動したかもな。

 俺が陣取ったのは最上階で一番広そうな角部屋だ。

 この部屋だけ他の部屋とは間取りが違ったので、オーナーか管理人が住んでいたのかもしれない。

 その部屋を軽く掃除した俺は、そこから更に扉を出して自室に引きこもった。

 今後はここを拠点にする。

 扉を少しだけ開けて粘魚に探索をさせる時も4階よりは見つかりにくいだろう。

 今日は街の探索をする予定だ。

 昨日集めた部屋の扉が役に立つ時が来た

 昨日のマンションの探索でかなりの食料を見つけることができたので食料はそこまで欲していない。

 あれば飲み込ませるが、無ければ無いで良い。

 今日の目的はモンスターなのだ。

 モンスターを倒して魔力値を上げる。

 俺は遠隔でモンスターを倒す方法を考えたが、もし近接で倒さなければ魔力値が上がらなかったら安全な状況でぬくぬく魔力値を上げるという作戦が台無しになるな。

 まあなんとかなるだろ。

 俺は耳と脳付き粘魚を2匹生み出し、1匹を扉の見張りにして1匹を街に送り出した。

 今日は少し魔力を他のことにも使いたい。

 異空間の中の時間操作をやってみようと思ったのだ。

 俺の感じた限りでは、異空間の中は小さな部屋のようなものが無数に存在している。

 おそらくその区切りごとに時間の設定をすることが可能だ。

 できるなら食料の入っている空間の時間を停止させたいが、なんとなくそれは不可能な気がしている。

 これも感覚的なものなのだが、時間とは川の流れのようなものだと思うのだ。

 川はダムを作れば流れを調整できる。

 しかし完全に止めたり、逆流させたりすることは難しいだろう。

 そんな感じで流れをゆっくりにしたり早くしたりはできるが、完全に止めるのと戻すのは別格の魔力消費になる。

 だから俺は食料品の入った空間の時間をなるべくゆっくりにした。

 今持てる魔力をほとんど使ってできる限り時間の流れをゆるやかにする。

 もともと魔力自体が少ないし、スキルの熟練度も低いため、そこまでゆっくりにはできなかった。

 大体半分くらいだろうか。

 だがこれで賞味期限は倍になったことになる。

 レトルト食品や缶詰はそれだけでも十分長い期間食べられる。

 賞味期限の短いものから食べるようにすれば、かなりの間飢えずにいられるだろう。

 もう魔力がすっからかんで昨日と同じように倦怠感は凄いが、これからの食生活を考えるとこれは必要なことだからな。

 モンスターを倒して魔力値を上げれば魔力を湯水のように使えるようになるだろうか。

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