第64話:異怪骨董やさんのひみつ

 善次はそう言うと変態さんの隣へと移り、姿勢よく話を聞いている。

 まったく、私の専属秘書という肩書はどこへいったのかしらね?

 そう思っていると、変態さんが口を開く。


「なるほどね。俺が知りたかった事も、今のお嬢様を見れば答えも分かる、か」

「左様でございます。御館様がおやすみになられていた時にしめ様がいらっしゃいまして、お嬢様を見てすぐにご決断なされました」

「〆ならお嬢様の残念さはむろん、覚醒率も見破るのも容易いか」

「はい。そこで御館様が動きやすいようにと、異怪骨董やさんを枢邸の近くへと転移させたのです」


 〆さん? ……あ! あの冗談みたいに美しい女の人ね!

 と、言うよりも! 残念お嬢様ってなによ! って、今はそれじゃない。


「善次の知り合いだと言っていたけれど、あの人が異怪骨董やさん・・・・・・・の人なんでしょ?」

「そうだ、あいつは俺の身内だよ。いささか過保護すぎるけどな」


 過保護? あんな綺麗な人に? どんな生活しているのよイヤラシイ。

 でも不思議な人だったな……それに今一番疑問なのは――。


「――変態さんが変態なのはいいとして、それよりどうやって家の前にあんな骨董屋さんを作ったの? 一晩で出来るはずがないよ」

「それだ。残念な事に、お嬢様があの店――〝異怪骨董やさん〟を視えてしまっている事が問題だ」


 変態さんはまだ温かいコーヒーを右手に持つと、一口飲みながらこちらを見る。

 私も同じくコーヒーを両手に持ち、「どういう事?」と聞いてみた。


「簡単な事さ。一般人はあの店へ来ることすら出来ない。当然見ることもな」

「え!? で、でもちゃんと茅葺屋根かやぶきやねの上に〝異怪骨董やさん〟って看板もあったよ?」

「そう、あるさ。でも一般人がソレを視る事も、普通に見ることが出来ねぇのさ」


 そう言いながら右手を背後へと投げ出し、「おまえの事だから用意してあるんじゃねぇか善次?」と、意味のわからない事を言う変態さん。

 すると彼の斜め後ろに控えていた善次は、スマホを取り出すと「こちらに」と言いつつそれを渡す。


「あいも変わらず抜け目ないねぇ……ほら見てみろお嬢様。これがその答えだ」


 善次のスマホを受け取りながら、そこに映し出されている映像に驚愕する。

 空き家だった家がおぼろげになった次の瞬間、突如あらわれた異怪骨董やさん。

 そこから〆と呼ばれた絶世の美女が現れると、右手に持った扇子を左手に軽く打ち付けた。


 その瞬間、異怪骨董やさんは消え失せ元の空き家へと戻ってしまう。

 あまりの事にフェイク動画じゃないのかと思ったが、実際に先程見たのだからそうではないと確信した。


「本当……の事なのね……」

「そうだ。俺らは異能と呼ばれる力を使いこなし、人に仇なす奴らを討滅している」

「とうめつ? それは一体なんなのよ」

「さっき自殺した女の霊を見たろう? ああいう存在を輪廻に返し、そして――」


 そう言いながら左手で私の肩を抱き寄せる。

 思わず「ちょッ!?」と言った瞬間、私の顔があった場所を黒い飛行物体が背後から通り過ぎる。


 よく見れば毛羽立っているカラスだった。けど、違う!

 黄色い目が額に一つだけあり、それが人間と同じ瞳で見ながら『うまそうだ』と呟く。

 さらに急速に旋回し、人の歯が生え揃った大アゴで襲いかかってきた。


「――こういう闇に落ちた妖かしを討伐し滅する。こんな風にな」


 そう言いながら座った姿勢のまま斜め前へと飛び上がると、三回転しながらかかとで化けカラスを蹴り弾く。

 と同時に左手で印を切り、真横へ一閃して吹き飛ぶ化けカラスを両断してしまう。

 苦しげに『ギョオオオ』と叫びながら、黒い霧になり消えてしまうと、また穏やかな鴨川が秋の音を奏で始めた。

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