第60話:再会

◇◇◇


「お? 何か今……恨みがましい女幽霊の声がしたような? 恐ろしい……何かこの世に恨みでもあるのだろうか。っと、脱出成功」


 庭から直通で抜けられる秘密の通路がある。

 それは俺としめしか知らない、八重桜の裏にある木陰のさらに奥にある木の板で出来た塀の一角。


 そこにある宙に浮いている飾りの猫の置物をつまむ。

 まずは上に八回、下に三回、左にニ回、右に六回微妙にずらす。

 すると寝ていた猫の置物が目覚め、「夜遊びニャ?」と聞いてくる。

 だから「そうですニャ」と答えると、「ほどほどにニャ~」と言いながら入り口を作ってくれた。


 壁に紫色の暖簾のれんが出来上がり、そこをくぐり抜ける。

 中に入ると真っ暗な空間になるが、すぐにうす緑色の行灯あんどんが輝き出す。

 幻想的なその光景を楽しみながら、行灯の導きを頼りに歩を進める。


 歩くこと数十秒。格子戸の向こう側に異世界――もとい、現実世界が見えた。

 格子からソっと外を見ると誰もいない。

 どうやら恐ろしい女幽霊は気がついていないらしい。


「ふぅ~ヤレヤレ。それじゃ~早速、魅惑の赤楽茶碗を受け取りにいきますか♪」


 はやる気持ちと共に、引き戸を思い切り開く。

 と、同時に目の前の立派な門……と、言うより〝城門〟が開きはじめた。


「な、なんだぁ? 異怪骨董やさんおれのうちの前にこんな城門なかったぞ!?」


 唖然としながら城門を見ていると、いがいな速さで完全に開く。

 そこからキンと響く甲高い声とともに、黒髪の娘が出てきた。


「だ・か・ら! 散歩に行くだけなんだから、付いて来ないでよ!!」

「そうはいきませんよ。先日の事もありますし、お一人でだなんてトテモトテモ」

「最後は面倒そうに言っていた気がしますが?」

「それは被害妄想と言うもの。それともなんですか。私を捨てて遊びに行く、と?」

「ちょっと悪魔執事さん? 人聞きの悪い事を言わないでくれますかね!!」

「明日香お嬢様。お言葉はもっと品よく美しく、愛嬌を込めて吐き捨ててください」

「吐き捨てたら全て台無しだと思うのですが? が?」


 なぜか後ろ向きでこちらへと迫る娘。と、言うか明日香? ん……まて、明日香ってまさか……。


「もういいです! では行ってきます!」

「お嬢様あぶのうございます。後ろにほら」

「その手には乗りません。フンッ――」

「――ちょ、待て止まれ!」


 そう俺が言うも、明日香は思い切り胸に飛び込んできた。

 思わず「「あう!?」」と声が重なり、明日香はビクリと震えながら斜め下から顔を覗き込む。

 そんな明日香の顔を覗き込みながら、またしても二人同時に声が重なる。


「なんでお前がここに居るんだ!?」

「どうして貴方がここに居るのよ?!」

「ちょっと待て、それは俺のセリフだ。異怪骨董やさんの前はイオンモールだったはず! そう、俺のお気入りの場所だったのになぜお前の家がある!!」

「ちょっと待ってよ、それは私のセリフよ。この場所は空き家があったはず! どうしてこんな骨董やがあるのよ!!」


 おかしい……話が噛み合わない。

 だが待て、よく落ち着いて見るんだ。

 

「確かにここは俺の知らない街並み……ま、まさか異怪骨董やさんが転移したのか?!」

「はぁ? 何を言ってるのよ貴方?」


 おかしな人を見る目で俺をみるんじゃねぇ。

 クソッ、何がいったいどうなっている?


「って、ワケを知っていやがりそうなヤツがそこに居るじゃねぇか。なぁ善次ぃぃぃ?」


 明日香の後ろからニコニコとこちらを見ている、一見優男ふうの執事。

 善次を睨みながらそう言うと、ヤツは右手を左胸へと押し当て頭を下げた。


「これはこれは御館様、ご機嫌麗しゅうございます」

「この状況が、ご機嫌麗しく見えたら眼科へ行ってこい。今すぐにな」

「これは手厳しい。仲良きことは美しきかな。さぁお二人共、ハグなどはいかがでしょうか?」

「「するか!!」」


 悪魔執事と呼ばれる男は、ニコリと微笑み「もっと凄い事をシても、私は見て見ぬふりをいたしますのに」と呆れたことを言い出すのだった。

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