第55話:おりがみ
牛車の屋形と呼ばれる中より、恐ろしい妖気がダダ漏れになっているのがひと目で分かる。
引いている角が燃えている牛すらも、その恐ろしい妖気に圧倒され、気が狂いそうなのがよく分かるほど、口から泡を吹いていた。
その牛車が水面へと降りてくると、そのまま水上を走ってくる。
現実感が薄い光景だが、それが眼の前まで来る事で現実だと思う。
屋形のすだれが静かに開いた瞬間、その凶悪な妖気が爆発的に放たれ宝ヶ池の水面を大きく揺らす。
そこから戦極様が妖かし人となった瞳とよく似た、黄金の瞳の女が出てくる。
異怪骨董やさんの番頭として、普段は店から離れることが出来ない存在である
「……これは一体どういう事なのですか? なぜ古廻様がそのようなお姿に?」
視線だけで人を殺せるほどの眼光を放ち、私を見る〆さん。コワイ……。
だけどちゃんと答えなきゃ。そう思い、わん太郎をキュっと抱きしめながら話す。
「っちょっと待つんだワン!! ワレを大権現様の射殺す視線から身を守る盾にするんじゃないだワンよ!!」
だって仕方ないじゃない! コワイんだよ。幽霊なのに、もういっぺん死んじゃうんだよ!
とは言え、ちゃんと話す私はきっと、多分、絶対えらい。
わん太郎は三度ほど、気絶と覚醒を繰り返してたようだけど……ありがとうわん太郎。きみの死は無駄にしないんだよ。
「――と、言うわけなんだよ〆さん」
「やはり神楽淵でしたか。神喰の月蝕……まだ続きがありそうですね」
「おい愚妹。それより早く帰ろうや、古廻はんが風邪引いてしまうで」
〆さんの兄である、
今までの恐ろしさが嘘のように、オロオロとしだし水面へ飛び降りると、音もなくあるき始める。
この人もやっぱり普通じゃない。と、今更ながら実感しつつも、その先にいる戦極様へと駆け寄っていく姿を見つめる。
「ああああああ!! 申し訳ございません戦極様ぁぁ! この〆たるもの、主をこのような場所に……」
「ハンカチ噛みしめて妙な三文芝居うつ暇あるなら、はよ牛車に乗せたれや」
カエルの折り紙の体を起用に歪ませながら、あきれたとジェスチャーをしている。
その姿にカチンときたのか、〆さんは左側に見える大きな建物へと視線を向けた。
「それはそうと、出歯亀がいるようですね」
〆さんはそう言いながら、国立京都国際会館をひと睨み。
と同時に、おもむろに右手に持った
金色に輝く妖気が弓なりになったと同時に、とてつもない速さで国立京都国際会館へ向けて飛んでいく。
ものの数秒で大きくなった金色の妖気は、さらに進みながら戦国時代の戦艦によく似た二階部分を斜めに斬り落とす。
冗談のような光景に、わん太郎は「由緒ある建物なのにぃ」と小さな口をあんぐり。
「私を盗み見よう等とおこがましい。さて、
戦極様へと頬ずりをしながら牛車へと乗せる。
私が言うのも何だけれど、よくあの細腕で軽々と持ち上げられるに驚く。
「さ、美琴も飴ん棒も元の姿に戻ってお乗りなさい」
「うん。あれ? そういえば壱さんは?」
「あぁ、それでしたら……」
そう言いながら〆さんは氷もさらに凍てつく視線で切り落とした建物を一瞥し、牛車へと乗り込むのだった。
◇◇◇
「ほっほっほ。流石は傾国の女狐といったところか。よくもまぁ、この距離でワシが見ていたのに気がつくものよ。まぁ良きものも見れた事じゃし、良しとするかの」
ずれ落ちた建物の縁に二人の人影があった。
一人は翁の能面をかぶった男であり、一人は黒子の衣装の人物だ。
黒子の人物は言葉少なげに口を開く。
「データ。まともに取れない。役立たず」
「文曲か? 所詮やつは北斗七星において末席よ。まぁ狙い通り暴走してくれたでの。そう悪く言うものじゃないわい」
「猪鹿蝶から集めた。これ使い古廻。研究」
黒子の回りに先程文曲が使役していたと思われる、黒い猪・鹿・蝶が現れる。
右手を胸の前にだすと、蝶がとまり羽を休めた。
「私の力だと知らず。マヌケ」
「じゃのぅ。ぬしの力だとも知らず、自分が使役したと思い込んでおったからの」
「無能役に立ったのは。西洋魔術と科学」
「うむうむ。あれは役に立ったわい。お陰でまだ
「……ほぅ。聞き捨てならへんな。一体どういう事か聞かせてもらおうやんけ?」
二人はハッと横をむくと、そこにはカエルの折り紙がテーブルの上にあぐらをかき座っていた。
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