第46話:黒目
バケモノの厚みは三十センチほどだが、幅が一メートルもあり、その顔は龍に似た太刀魚のソレだ。
複数見える牙が片手斧の刃へと喰らいつき、
さらにそれで止まらず、刃を驚くほどの勢いで噛み砕き昇り続ける。
やがて斧の刃は半分にくだけ、そのままネジ切りながら柄をつたい、やがて右手に達す。
中指と人差し指の間へと噛みつき、そこからジッパーでも開くかのように一直線に噛み昇る。
馬頭モドキはなにが起こったのかすらも理解できず、腕の衝撃が痛みへと変わる頃には、紫色のドラゴンサイズの太刀魚は肩から抜け天へと昇り消えた。
この間一秒半。肩口から落とされた腕は、勢いよく斜め上に吹き飛び、さらに水面へと落下と同時に水しぶきを盛大に上げる。
「ぐ? ヴォオオオオオ!!」
「やれやれ鈍い事だ、今頃斬られたのに気がついたか」
「なにいッ?! じょ、冗談ではナイ、こんな事があってたまるデスカ!!」
「こんな事があるんだよ」
文曲を黄金の瞳で睨みつける。
それに怯え「うぅ」と唸り、白い肌をさらに白く染め、半歩後退り口を震わせ背後をちらりと見る文曲。
視線の先にあるのは、神喰の月蝕を作り出している大規模咒法式。
「まだ……ソウデス、まだ
巨体とは思えない機敏な動きで、文曲の命令を実行する馬頭モドキ。
右肩から血液を吹き出し、そのまま息を荒げ走る。
真っ赤に染まる宝ヶ池に神喰の月蝕が映り込み不気味だが、そんな事を思っている暇はない。
「ち、早い。一歩が大きい分出遅れたか。ペロキャン追いつけるか?」
『うぅ……ごめんなさぃ。ぼく、ね……今ので……ね、
「怪我のニュアンスが微妙におかしいが? そうか……ごめんな、無理させちまった」
俺の妖気と馬頭モドキの斧の力を、飴ん棒みたいな足で支えた事でかなり無理をさせたか。
だがそんな体でも、怪我をしながら一生懸命に追ってくれるペロキャン。
しかしどう見ても間に合わない。あの野郎の事だ、確実にロクでもない事をするに違いない。
「戦極様……もう
「ワレはあるじぃを信じているんだワン。だから、あの猿面に見せてやるんだワン」
そこで二人の言葉が重なり、「「本当の妖かし人の陰陽師を!!」」と強く言い放つ。
その言葉にゾクリと背中が震える。鼓動が早くなり、幻聴が聞こえだす。
俺の声だが俺じゃない、仄暗く太い声で『そうだ、悪妖悪鬼悪神は全て討滅しろ』と
うるさい黙れ。
『黙るものかよ。
俺は俺だ! オマエは俺じゃない!
『違うねぇ。オレはオマエだ。あの猿面は敵だ。ならミンチにしてやろうじゃねぇか。なぁ、アマチャン野郎?』
瞬間、俺の体が変化しだす。
肌全体が黒ずみ始め、手の甲にに浮き出た文字が〝滅〟と〝殺〟と代わり、左右に現れる。
それを見て、さらに瞳の白目部分が黒く染まったんだろうと、過去の経験から目が熱くなるので理解。
意識の主導権が俺じゃなく、
それに気を良くしたオレは、左手で髪をかきむしり笑う。
『ハッッッッツ!! いいじゃねぇか~コレだよコレ!! この感覚だよなぁ、逃げる悪妖をぶった斬るッ! これがたまらねぇぜ!!』
右手に力を込め、思い切り悲恋美琴の柄を握り抜刀――できない?
『美琴ぉぉ……テメェどういうつもりだ? 主に対してその振る舞い、万死に値すっぞ』
「何が主なんだよ。私の主は戦極様ただ一人なんだよ! さっさと出て行くんだよ疫病神!!」
「そうだワン! ワレのあるじぃはオマエなんかじゃないんだワン! いっぱい、ちゃ~りゅをくれるのが、本当のあるじぃだワン!」
『……一箱買ってやるぜ?』
「あるじぃ♪」
「わん太郎!! 何を言っているのかな? かなぁ?」
「ひぃッ?! じ、冗談だからして。コホン、とにかくアッチへシッシなんだワン!!」
『チ、どうあっても抜かせねぇと? なら仕方ねぇ……』
そうオレは言うと、勢いよく両手を合わせ『
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