第34話:宝ヶ池の攻防戦~三

 その先が予想出来た。最初にガラスが見え、次に薄赤く発光する赤い液体。

 それを理解し、思わず「まだ持ってたのか」と呟く。


「だ~れが一本だけと言いましたカッ! この文曲、抜かりはアリマセン!!」

「そうかよ。ならそれも破壊させてもらう!」


 言葉が終わる前に文曲へと迫ろうと右足を前に出す、が。

 いくらマヌケな三下野郎でも流石に学習したのか、左の小指と薬指の間に緑色をした試験管を挟み込んでいた。


 それをこちらへ投げつつ癇に障る声で嗤いやがる。


「ぷあっはっはっは! そんな事はお見通しデェス」

「くぅッ、毒か!?」


 俺の足元へ緑色の試験管が叩き込まれ、瞬時に毒々しい色をした緑色の煙が発生。

 さらに最悪なのが、直径三メートルほどの毒煙が、意思を持っているかのように襲いかかる。


 急遽バックステップへと切り替え、背後へと大きく飛び退く。

 同時に、現代風にアレンジした和装の懐より青い霊符を一枚取り出し、左手で全面へ押し出つつ片手で印をきる。

 

「ぶっ飛べ! 鎌の風霊招来ッ!!」


 青い霊符がパクリと割れ、その奥から風を纏った鎌鼬かまいたちが三匹現れ、緑色の毒煙を切り裂く。

 そのまま三匹は回転しながら、毒煙を引き連れ赤松林の奥へと消え去った。

 

 毒煙が晴れた向こう側を睨みつけ、その視線の先にいる文曲を見た瞬間〝しまった〟と焦る。

 ヤツは神の血潮が入った試験管の蓋を親指で弾き、中身を下へと流す寸前に口を開く。


「くくく……残念デシタねぇ~? コレ、何かワカリマスカぁ?」


 そう言いながら〝ぬめ゛〟っと、薄赤く発光した液体を垂れ流す。

 それがヤツ、文曲が乗っている足元の馬の真鍮像しんちゅうぞう、エスタンピーダの頭へと注がれる。

 驚くほど親和性が高いのか、一滴も溢れる事なくエスタンピーダの頭へと吸収された。

 と同時に試験管を放り、愉悦全開でアゴをしゃくり上げ、見下しながら俺へと左右の人指差し指を向け宣言。


「コ・レ・ガ、この文曲の本気というものデェ~ス! さぁ……目覚め、あざ笑い、クソガキを喰い散らかしてやるのデスッ!!」


 その言葉が終わると同時に、文曲は後方へと飛び退く。

 さらに神の血潮を吸収したエスタンピーダが震えると、真鍮像のはずの両目が開き俺を睨む。

 

 さらにタテガミまで蠢き始め、金属の口をメギョリと開き、おおよそ馬とは思えない人と獣が合わさった咆哮ほうこうを天へ向かい放つ。


「ギュヴアアアアアア!!」

「クッ、うるせぇ」

「気をつけるんだよ。あれは魂減退術の一種、つまり今風に言えばデバフなんだよ」

「デバフとは、随分とハイカラな事を知っているじゃねぇかよ美琴さん」

「ハイカラとは、随分とアナログな事を知っているんだよ……ん? って、私が古いって言いたいのかな? かなぁ?!」


 何故かお怒りマックスの美琴さん。そんな彼女の言葉にかぶせ、「来るぞ」と一言。

 信じられないが金属の前足を空中へ三度猛らせ、その質量のまま地面へと落ちてくる。

 見た目は確実に金属にしか見えねぇ。

 

 が、間違いなく金属の塊に命の息吹を感じた。

 肌はシットリとみずみずしく、血液の脈動も感じ、鼻息も生臭さがここまで臭う。

 どうなってやがる……どう見ても生きているとしか思えねぇ。


「美琴、気の力だけ・・・・・でいけるか?」

「つたない気力だけど、出来なくても斬るしか無いんだよ」

「だったな。チッ、やってやるよ。わん太郎、サポートを頼む!」

「わかったワンよ~」


 指示を出したと同時に、馬野郎は突っ込んで来る。

 一歩踏み出す事に、五センチは陥没するひずめを響かせる。

 あっという間に眼前へ迫ると同時に、後ろ足立ちになり両前足を頭へと打ち下ろす。


 だが俺は逃げない。

 そのままチャンスと見て、馬野郎の腹の下へ潜り気力を込めた一閃でヤツの胴体を薙ぎ払う――ガ。

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