第27話:Nセンス
「こっちまでは来る気はねぇって事か……」
見るからに禍々しい黒い塊。それはこの公園でよく見る事ができる鹿だった。
ただこの鹿、やはり先ほどの黒ブタ野郎とは違い、異常にデカいうえに形もおかしい。
まずはその角が大きく、しかもヘラ鹿みたいに幅広だ。
さらにその広い部分が、どう見ても切味抜群のものだと、頭を下げ威嚇している姿から分る。
まぁ見た目からして――。
「――当ててあげるんだよ。黒シカ野郎でしょ?」
これだッ! 次に言おうとした事を言いやがって。なんて空気が読めない幽霊娘だ! ぐぬぅぅ。
「べ、別にそんな安易なネーミングをつけるつもりは無かったですし? 本当は〝漆黒の女豹★エリザベート三世〟にしようと思ってたんだが、美琴がそう言うならそうしてやらんでもないのだ」
「あるじぃ。視線が泳いでいるんだワンよ」
勝手に覗き込んで状況説明をするんじゃない!
「癪だが、黒シカ野郎の所までご招待されようじゃないの」
肩と腰から「あ~ごまかしたぁ」とか聞こえた気がするが、これだけ異常な状況が宝ヶ池で起こっているのだ。
だから幽霊と不思議生物みたいなのから声がしても不思議じゃない。
「まったくもぅ。それより戦極様、気が付いているんだよ? 黒シカさんも首から下へ、鎖が水の中へと入っているんだよ」
黒シカ野郎へと歩みを初めながら、「なんとなく、な」と呟く。
目つき鋭く、微動だにせずにこちらを睨みつける。
徐々にその差が縮まり、橋を渡りきった瞬間、お互い動き出す。
「意外と早いじゃねぇの」
橋の出口ゆえの狭さを狙ったようで、中々どうして知恵が回る。
「着眼点はいい、が」
黒シカ野郎の狙い通りにはいかず、そのまま背後へと飛びのく。
一瞬「グリリリ!?」と唸るも、勢いは止まらずに突っ込んで来た。
軽く
黒シカ野郎は足場にする予定だった欄干へと角を当てる。
その行為に思わず「何だとッ!?」と、マヌケな声が出てしまい、なんとか避けるも体勢を崩してしまう。
それを見た黒シカ野郎は、化獣のクセに「グリリリ……」と口角上げて嗤いやがった。
「嗤われちゃったワン。プゥ~クスクス」
「だって〝何だとッ!?〟だよ。プゥ~クスクス」
「フレンドリーファイアだと?! いつから俺の敵は三体になったんだッ!?」
ったくコイツラときたら。だがまぁナメテいたのは違いないか。
しかし何だ……こう、違和感がある。
あの黒ブタ野郎と決定的に違う何かが。
「戦極様……気が付いているんだよ?」
「まぁな。お前もか美琴」
「うん。でもシカさんを討滅すればハッキリするんだよ」
それに頷き悲恋を抜刀しつつ、黒シカ野郎へと向き直る。
と、同時にヤツが突っ込んで来た。
今度は間抜けは無しだ。
自慢の幅広で鋭利な角を、俺の腰よりやや低い場所めがけて突進。
このパターンは先ほどと同じだ。
つまり、黒ブタ野郎と同じように腹に穴を開けるつもりなのだろう。
いくら幅が広い角があるとは言え余裕で躱せる。そう、上部へだ。
先ほどと同じように、黒シカ野郎の鼻っぱしらを蹴り下げ、踏み台にした上からヤツの首を斬り落とす。
ビジョンは決まった。あとは実行あるのみ! だからそれきゃねぇ。と、
「戦極様いけないんだよ!!」
「何ぃッ!?」
またしたもマヌケな声を張り上げつつ、ヤツ・黒シカ野郎のイヤらしくあざ嗤う両目が、
さらに「チィィィッ!」と声をひねり出し、このままでは両ひざから切り落とされるのが確定した未来を感じ、一瞬ゾクリと背筋が凍る。
が、そこは古廻。ナメテもらっては困る!
幅広の角全体が刀剣と同等の切れ味を誇りそうな角へ向い、悲恋を突き立てた。
しっかりと悲恋が角の一部へと突き刺さり、その反動を利用して黒シカ野郎の三メートル上に飛んだ瞬間、
ありえない首の角度で俺を見上げ、叫びながらも大きな体をすぐには反転が出来ないでいる。
「焦らすんじゃねぇよッ!!」
そう言いながら悲恋を一閃し、黒シカ野郎の首を落とす。
苦し気に「グリャアアア!」と叫びながら首が転がり落ちた後、静寂が新たに生まれた。
「フン、余裕だった……とは言えねぇな」
「何を言っているんだよ。全然本気じゃなかったくせにだよ」
「そりゃそうだが二度だ!! 二度も俺、は……」
ガクリとヒザから崩れ落ち、黒シカ野郎へ懺悔するように頭を下げる。
「二度もマヌケな声を出しちまったじゃねぇかよ!!」
「「そこぉ!?」」
そりゃそうだろ。あんな間抜けな事はそうそう言えねぇからな。
「マッタク、困った主様なんだよ。確かに強かったのは分かるけれど、あの化獣レベルだったら、アサルトライフルを持った人間が十人いて、やっと倒せるかどうかなんだよ?」
「そうだワンよ~。それで、あるじぃ~何か分かったワン?」
チィ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます