第133話 PPとプロデューサーD
PPは、冥淵獣と共に街でのアルバイト生活をしていた。
適応力はすさまじく、一ヶ月つつがなく生活していた。
「はーい! レタニーチャーハン一丁!」
「PPちゃんは明るくていいわね!」
「えっへへぇ!」
アルバイトをしながらPPはふと空を眺める。エルフの国では魔物もいるので冥淵獣を連れていても違和感がなく溶け込んでいた。
始めは洞窟で生活していたが、バイト先の女将さんが動物化の物件を紹介してくれた。
「真菜達を助けるつもりが溶け込んじゃったなあ」
ある日、バイトをしていると声をかけられる。
「yoppiさんですね」
「はぇ?」
エルフの装束に身を包みながらサングラスをかけた男だった。
サングラスをかけた男についていくと、プロデューサーと名乗る男が名乗る。
「私はプロデューサーDと申します。やっと再会できたyoppiさん」
PPを芳乃と勘違いし、接触したのだ。
「僕はPPだよ」
「ショックで記憶まで失ってしまったとは……」
「僕は僕だよ?」
誤解が解けるまで時間がかかった。
様々な雰囲気から察したのだろう。
サングラスの男、プロデューサーDは頭を下げる。
「かたじけない」
「いいよいいよー」
「しかしこうまで同じ顔の人がいるとは」
「僕はプラントだからね。yoppiの顔が気に入ったからコピーしたんだよ」
「整形のようなものですか」
「ううん。顔がなかったから。生まれたときに参考にした」
PPのいうことは意味不明だったがプロデューサーDは芸能プロデューサーとして様々な人をみてきた。
「なるほど」
彼もまた適応の達人だったのだ。
「今は囚われている仲間を助けたいんだけどさぁ。バイトしないと生きていけないからね。どうしようってなってるんだぁ」
「事情はわかりました。あなたとは利害が一致するようです」
Dは事情を話し始める。
yoppi とプロデューサーDがこの森羅世界に来たのは、科学世界・境内市が冥種族の侵攻を受ける以前のことだ。
「我々は森羅世界の戦争を和らげるべく、派遣されたのです」
「へえー!」
歌姫yoppiは、森羅世界へ冥種族が侵攻したことを聞いていた。
世間に知られることなく、異世界へのライブを敢行しようとしていたのだ。
歌姫となれば、迷宮を超える権限を持つ。
しかし探索者チームに守られ森羅世界に来たところ、ダークエルフ軍に捉えられてしまったのだ。
被災地へライブに向かったらと思ったら、紛争地帯になっていたのだ。
「冥種族の侵攻は破壊だけではない。世界の有り様さえも変えてしまったようなのです」
プロデューサーDは敏腕ゆえに、背景を理解していた。
PPは冥種族プラントなので、さらに背景を知っている。
迷宮に卵状のプラントを送り込み、迷宮魔獣を増殖。
異世界に送り込み、戦争を引き起こす手法なのだ。
(うーむ。全部はいえないけどなあ)
PPは冥種族のプラントがバグによって意思をもった存在だ。
この体も、迷宮魔獣を生み出すプラントのプログラムによって得たものだ。
(yoppiかぁ。見た目をパクったのもあるけど。歌も好きだからなあ。囚われているなら助けてあげようかな)
夢斗達と過ごしたことで、社会性や文化も身につけている。
「Dさん。僕が本物のyoppiを助けてあげよう!」
「本当ですか? しかし城の警備は厳重。私の黒服軍団を持ってしても難しい」
「サングラスが目立つんじゃないの?」
「サングラスだけは外せません」
「まあいいや。yoppiの居場所がわかってるなら、僕が潜入するよ」
「方法はあるのですか」
「プラントの力で体を液状にできると思うんだよね~」
「は?!」
「こっちの話~!」
PPはyoppiこと春日部芳乃の救出に向かった。
「この歌は……」
プロデューサーDはダークエルフの街で、とある歌が流れているのを小耳に挟んだ。
森羅世界では、科学世界のような文明はないものの、音を保存する魔力ジェムなどのジェム文明が発達している。
「yoppiの……。春日部芳乃の〈パーフェクト・ワールド〉。アレンジが加えられているが、確かに彼女の歌だ」
「僕も聞いたことあるぞ!」
「何故、この街に流れている? yoppiは牢屋にいるはずだ」
「助け出せば、わかることじゃない?」
「PP君。君は眩しい人だな。現世に戻ったら私がプロデュースしてデビューを目指そう」
「おもしろそうだからやるよ!」
「歌が流れているならyoppiは生きている。救出に向かおう」
プロデューサー率いる探索団とPPは、芳乃や真菜達のいる地下牢へと潜入を目指した。
そのとき地下牢ではyoppiこと春日部芳乃と、牢番が談笑していた。
「ジェムラジオ放送であなたのパーフェクトワールドの録音が流れました。でも本当によかったのですか?」
「いいの。私は歌が届けばそれでいい」
「もしバレたら、戦時中の今は……。平和を願う歌は粛正対象になります」
「牢番さんも逃げなきゃねえ」
「逃げませんよ」
牢番は芳乃を恨めしげにみつめる。
「私はあなたの歌の魔力に、取り込まれてしまった。皮肉な話ですね。森羅世界の人間でもない科学世界のあなたが、魔力を持っているなんて」
「私は魔力なんてないよ!」
「歌の魔力ですよ。私はあなたに魅入られてしまった」
「牢番さん……」
「私だって。牢番なんかやめちゃって。普通の女の子として生きたかった。戦争の時代を恨んでいるんです。自粛とか動員とか……。嫌になります。だからせめて別世界の言葉で、平和を歌うあなたに賭けてみたかった」
だが芳乃の答えは意外なものだった。
「歌で世界は変わりませんよ」
「どういうことですか? あなたは歌い手です。希望を持たなければ……」
「焼け石に水です。平和を歌っても戦争は終わりません」
「では何故あなたは歌を歌うんですか?」
「うーん。焼け石とわかっていても、水をかけてみたい?」
牢番は始めて芳乃の狂気に触れた。
この女性は異世界の歌姫、というだけではない。
容貌は可愛らしい歌姫だ。
性格だって穏やかで、おっとりしている。
しかし多くの人間が持ち得ている何かが壊れている。
「変えられないとわかっていて、どうして動けるんですか……」
「無理とわかっていることを、無理じゃないといいたいからかな」
「あなたは、おかしいです」
「おかしくなかったら歌手になんかなれませんよ、強いて言うなら寂しさなのかなぁ」
「意味が、わかりません……」
「私はどこにもいないから。でもここじゃないどこかには〈私なんかと同じ魂〉がいるかもしれないから。焼け石に水を打ち続ける人かも知れないし、壁を掘って脱獄を考える人かも知れない」
「……無謀、ですよ」
「そ。無謀なの私。でもね。無謀な闘いをする人が好きなんだ」
そのとき地下室の扉が開く。
ボゾオン軍のダークエルフの軍人5人が、芳乃の牢へと軍靴の音とともに来た。
『異世界人、カスカベ・ヨシノ。平和推奨罪で逮捕する』
『この魔女めが!』
『平和を願うことは、非国民だ!』
すでに戦争に加担しないものは、反逆者と見なされる世界となっていた。
芳乃の処刑は既定路線だったのだ。
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スペース
最近食った草
全部
にんじんジュースだけや
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