第61話 測定結果は……?



 直径2メートルの球体型測定器【精神具象化炉心・〈ペルソナスフィア〉】に触れる寸前、夢斗は『測定結果をごまかす』べく、無数の上限値開放を作動していた。


――【擬態上限値】を解放しました。――

――【自己暗示上限値】を解放しました――

――【ネガティブ思考上限値】を開放しました――

――【病み上限値】を解放しました――


 今は二重の意味で、自分の強さを知られてはいけない状況だ。


 もみ教授に知られて実験体になってもいけないし、Aランク以上がでて奈落デスゲームの参加条件に抵触するのも駄目だ。


 なので夢斗は、限界を超えて『自分を弱い』と思うことにした。

 上限値解放の力を、『弱いという自己暗示』に応用したのだ。


(付け焼き刃だが。どこまでごまかせるか?)


 ペルソナスフィアはふぉんふぉんと、空中に文字の羅列を映し出していく。

 夢斗は脳内で、自分の情報を必死に擬態していく。


(うおおおお! 俺は、暗黒武術家ではない!)


 念じるだけでテクノロジーをごまかせるわけもないのだが、想いはロココに伝わった。


(夢斗さんは、暗黒武術家では、ありません)


 ロココが〈上限値解放〉で弱く擬態してくれている。

 あとはAランク以下であることを祈るだけだ。


(俺はAランク以下)

(夢斗さんはAランク以下です)


 念を押して、自虐する。


(いや。もっと弱い。俺はミジンコだ!)

(はい。夢斗さんはミジンコ以下です)


(『羽化をするまえの蛹』!)

(『セミの抜け殻』!)


(『鎖に繋がれた獣』!)

(『中二病のカブトムシ』!)


 ロココが悪口を言っているような気がするが、気のせいだろう。


 やがてペルソナスフィアは巨大な立体光学映像を浮かべる。


【測定結果】が現れた。

 現れた、ランクは……。



京橋夢斗 探索者ランク【B+】

クラス【黒帯武術家(ブラック・マーシャルアーツ)】


レベル50

HP145 攻撃135 守備115

魔力80 魔防80 俊敏135

スキル なし

技 黒帯加速拳



 現れた結果に、もみ教授はうんうんと頷いていた。


「ほう。なかなか、すばらしいじゃないか!」


 夢斗はふぅ、と息を吐く。

 擬態して、どうにかBランク帯に収まったようだ。


 ロココとのごまかし作戦は成功だった。

 若干心が傷ついた気がするが、目標達成なのでよし。


「君は圧倒的な成長性だな。直近の成長履歴も見せて貰ったが、この三ヶ月でレベル1から50まで急成長を遂げている。ぜひ研究対象にしたいくらいだ」


「あの。変なところってないですかね?」

「ない。いい検体だとわかっただけで、私は十分満足さ」


(本当は筋力も素早さも、この1.5倍なんだがな)


 しかもダークアクセルフィールド下では、ルーティンによる強化が加わり、さらに倍倍になっていく。


 パラメータよりも、問題はロココだ。

 脳内で話しかける。


(ロココのことはバレなかったようだな)

(はい。夢斗さんの脳みそが解剖されなくてよかったです)


(君、生意気になってるな。昔はもっと素直だった気がするが)

(私なりの甘えです)

(ったく。しょうがねーな)


 甘えと言われたら致し方ない。

 何にしても、ペルソナスフィアの精査とロココの擬態との対決は、ロココが制したのだ。

 もみ教授は口元に指先を当て、夢斗をじっと見つめる。


「なーんか引っかかるんだよね。君、隠してない?」


 西洋人形のような瞳でジト目をつくり、ずいと迫ってくる。


「ありのままの俺ですよ」

「本当かなぁ。怪しいんだよな。また、触診しちゃおうかな。私はこれでも機械の測定だけでなく、第六感も信じるクチでね」


 もみ教授はぐいぐい迫り、夢斗の首のあたりで見あげてくる。


「近いですって。……っ!」


 そのとき夢斗は、第三者の横からの視線を感じた。

 廊下に配置されたSPの方角から、殺気が飛ばされていたのだ。


 廊下側のガラスの向こうにSPの群れが見える。

 殺気の方角には、ひとりだけ色の違うSPがいる。


 黒服ではなく、透き通るような青の制服を来た男だった。


「どこを見ている?」

「廊下のSPに色が違う人がいて。誰なんですか」

「ああ。彼は氷川という。SPを統率するSランク探索者(アクター)だよ」


 Sランク探索者。

 探索者であれば、誰もが憧れるランクだ。


 ガラスの向こうの氷川と、夢斗の眼が合う。


 氷川は身長180センチ超。

 鍛え上げられた肉体は制服のスーツを膨らませている。


 顔立ちも俳優に匹敵するほど、端正だ。

 氷川と眼が合うと、心の声が聞こえた。


(少年よ。聞こえるか? ペルソナスフィアの副作用で意識の共有が行われている)

(なん、だ?)


(ペルソナスフィア使用後は一時的に探索者の意識が混じり合うのだ。私と君だけがこの一瞬、意識で語らうことができる)

(……何か、用でしょうか?)



(質問をしよう。君はロリコンか?)



 夢斗は奇妙な、それでいて切実な気配を感じた。


(いえ。俺はロリコンではありません)

(そうか。では挨拶も兼ねて、あらためて告白しよう。京橋夢斗君)


 氷川は共有された意識の中で、深く息を吸い、夢斗に告げる。



(私は、ロリコンだ)



 夢斗の胸が締め付けられた。

 憧れていたSランク探索者がロリコンを自ら名乗り出たのだ。


 悲しみさえあった。

 夢斗の顔が、絶望に歪んだ。

 ペルソナスフィアによって引き起こされた〈精神の共有〉現象で、夢斗はS級のロリコン、氷川と対話することになる。



――――――――――――――――――――――――――

スペース

強キャラ格のイケメンロリコン氷川が登場しました。ただのヤバイ人ですが一応想いとかもあるらしいです(適当)。もみ教授が夢斗君に興味を持つ展開なので、イケメンにはぐぬぬって言わせたいですね。


『イケメンはぜひ曇らせたい』と思って頂けたら☆1でいいので、評価、コメント宜しくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews

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