第59話 ランク測定と〈もみ教授〉


 夢斗は市役所の【災害復興科】という場所に向かっていた。


 災害復興科に伝える内容は『亜竜人討伐』の件の報酬と『ランク測定』、『パーティ申請』の件だ。


(もし上限値解放の力を伝えたらどうなるかな)


 夢斗は脳内で妄想する。


『人間国宝!』

『次期のSSSランク!』

『地球最後の希望!』


 など、ちやほやされる妄想をした後、マイナスの想像にも思い至る。


『実験体』、『解剖』、『ホルマリン漬け』

『機械化』、『闇に葬られる』、『上限値解放の罪で処刑』

『人間兵器』『脳を摘出』『某国に拉致』


 不穏な言葉の方がより多く浮かんでしまう。


(絶っ対に〈上限値解放〉の力はバラしちゃ駄目だ!)


 夢斗は深く自戒する。


(壮大な話は妄想だけで十分だ。俺が欲しいのは真菜とロココとの平凡な幸せなんだからな)


 スカージの爆発に巻き込まれたりなどズボラなところはあるが、調子に乗って失敗するようなヘマはしない。

 用心に用心を重ねるのだ。


(よし。行こう)


 市役所の受付へ向かった。

 さっそく窓口のお姉さんに問い合わせをする。


「あの。先日の亜竜人討伐で、ニュースになったものですけど」

「はい。ご要件を承ります」


 伝える要件は、『亜竜人討伐』と『ランクの測定』と『パーティー申請』だ。


「あ、えと。えーと……。討伐とランク申請とパーティ結成の申請書ですリーア」


 夢斗は普通の19歳だったから、役所の窓口申請に慣れていない。

 しどろもどろになったがどうにか用紙を貰い、記入する。


「お願いします」

「京橋夢斗さん、ですか。少々お待ちください。……京橋さん。ランク測定の件なのですが」


「はい」

「京橋さんには帝都大学から要請が来てます。市の迷宮対策科の測定室で専門の研究者と面談してもらいます」


 番号札を渡され、待たされる。


(不穏な空気だが。帝都大学? 研究の一環かな。なら協力してあげないとな)


 呼ばれるまでが長かった。

 30分ほど経ってから、やっと呼ばれる。


『37番。京橋夢斗さん。第2測定室へどうぞ』

「失礼します……。え?」


 第2測定室へ入ると、西洋人形のような幼い女の子が診察椅子に座っていた。

 ブロンドの髪をカチューシャで纏めた、中学生になるかといった年頃の女の子だ。


「君が京橋夢斗君か。私は〈紅葉(もみじ)・ノイエジール〉という。〈帝都大学・理工学部・心理脳科学部共同研究室・迷宮プログラム研究室〉に所属し、教授をやらせてもらっている」

「……はぁ」


「専門は〈迷宮探索者の脳内にインストールされる異世界間共有世界像システム〉についてだ」

「……???」


 紅葉・ノイエジールと名乗った女の子は、足を組み、荘厳な雰囲気で語り始めるも、夢斗は困惑しかできない。


 中学生めいた、ともすれば小学生にさえみえる女の子が、いきなり教授と名乗のり、難しいことを話し始めたのだ。可愛い以外の感想しかでてこないのに〈教授〉なんて、現実離れしていて一歩引いてしまう。


「あの。あなたが今日の先生、ですか?」

「〈先生〉という生やさしい呼び方は好まない。私のことは〈もみ教授〉と呼びたまえ」


「はい。もみ教授……」


 夢斗はひとまず素直になっておく。


「ふっふ。君は良い子だね」


 お気に召してくれたようだ。


「さて。いきなり本題だが。先日の亜竜人撃破はちょっとした事件になっていてね。役所から連絡がきてから、帝都大学からダッシュで連絡させてもらったんだ」

「ダッシュでって。サンプルとか研究じゃないんですか?」


「もちろん研究だよ。君というイレギュラーのね」


 夢斗は周囲に気配を感じる。

 測定室の周囲には警備員が集まっていた。

 いずれもBランク~Aランクの迷宮探索者のようである。


「俺、何かやっちゃいましたかね? こちら側に浸潤してきた迷宮魔獣を討伐しただけですが。悪いことをしたつもりは……」


 もみ教授はブロンドの髪を掻き上げ、夢斗の心臓に触れる。


「教授……。何を?」


 聴診器のようだった。

 いきなり健康診断なのだろうか?


「ふーむ……」


 もみ教授の意図がわからない。

 どくんどくんと、夢斗は自分の心音を聞く。


「……君がSランク探索者ならば、亜竜人ヴォルギルスを圧倒したことも理解はできるんだがねえ。だが君は、まったくの無名でしかもランクXの探索者だ」

「俺、才能なかったんですよ。でも最近になって闘い方がわかってきて。ランクがあがれば給料もあがるから。今日こうしてきたんです」


 もみ教授は応えない。

 夢斗の胸に小さな手で聴診器を当てながら「ふむぅ」とうなっている。


「ってか聴診器当てるの、長くないですか?」

「無邪気なふり、でもなさそうだな。君は本当に素直な子らしい」


「教授?」

「これ聴診器じゃないから」


「え?」

「嘘発見器」


 夢斗はぽかんとした。


「私は君を探っていたんだ。亜竜人との戦闘記録はとてもじゃないがランクXとは思えないものだった」

「俺は、ずっと無成長だったんです。敵を倒してもレベルが上がらなくて……。虚無くんって言われてて……」


「ここから仮定できることはひとつ。君がランク登録をわざと行わずに、不法に迷宮探索を行っているイレギュラーではないかと……」

「そ、そんな!」


「最近は〈外側の理〉。〈十三番目の世界〉からの侵略者が来ているとも聞いている。おっと我々科学世界では迷宮の向こうに〈十二の異世界〉があることは情報統制されていたんだっけな」


 夢斗の額に冷や汗が流れてくる。周囲をみやると、廊下の向こうに黒服のSP(セキュリティ・ポリス)の気配もした。


「へぇ。黒服の気配にも気づいたか。君が使い手だということはよくわかったよ」


 聴診器を当てたもみ教授には、すべてお見通しらしい。


「偉い人に疑われたら、そりゃビビりますよ」


 もみ教授は夢斗の胸から聴診器を離した。


「安心しろ。君は白だ」


「へ?」


「だけど個人的に興味がでた。細身ながら身の詰まった大胸筋! 8つに割れた腹筋!その胸の傷。ただものではないことは確かだ!」


 やがてもみ教授は立ち上がり、夢斗の手を取る。


「本題に入ろうか。君のその〈見たことのない力〉の測定をしよう。帝都大学まで行くぞ!」

「帝都大学って……えぇ!」

「こんな市役所じゃ、設備が足りない。私の研究室に招待する。生でみた君はやはり本物だった。ダッシュできたかいがあったよ!」


「もし俺が逃げるっていったら?」

「この数のSPから逃げられたら大したものだし。私の興味はなお増すというものだ」


 SPよりもこの可愛らしすぎる教授に目をつけられる方が恐ろしかった。


(ひとまず従って、適当に流そう。今日の目的は普通のランク測定なんだから)


 長い一日になりそうだった。


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スペース

ブロンド髪+カチューシャ+白衣ロリ教授が登場しました。


『可愛い人を増やすのはオッケーだぜ!』と思って頂けたら☆1でいいので、評価、コメント宜しくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews





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