第54話 その頃、機巧世界では……。


 機巧世界、マルファビスの部屋にて。

 パルパネオスとマルファビスは255枚の画面越しに、迷宮の監視をしていた。


「ここ数日、異世界迷宮の存在確率にゆらぎが生じていました。〈奈落デスゲーム〉の発生と同等の波形を観測したのですが……」


〈赤銅千眼〉の機巧世界侯爵マルファビスが、部屋中360度に敷き詰められた画面255枚を見つめながら、データを示してみせる。


「見つかったのか?」


 白銀の騎士パルパネオスが期待を込めて尋ねる。


「ビンゴでしたよ」


 マルファビスが網膜制御で画面を操作。

 波形のグラフが、255の画面のうち20の画面に、ぴこんぴこんと浮かんだ。


 白銀の騎士パルパネオスはグラフを見つめながら「うむ」と頷く。


「〈奈落デスゲーム〉と同様の迷宮波形ということは。この波形を発している場所に〈奈落デスゲーム〉を持ち込んだ者。〈奈落の軍勢〉がいるということだな」


「迷宮座標もすでに特定しました。いつでもこちらから襲撃に行けます。ここまで来るのに、長かったですねえ」

「手探りで、命がけだった。どれほど同胞を失ったかもわからぬ」


〈奈落デスゲーム〉は、現存する〈十二の異世界〉の外側から来た概念だった。


 現在迷宮で知られている〈ステータス〉、〈パラメーター〉、〈技〉などは、〈迷宮侵入時〉に行われる、〈存在のプログラム化〉だが、これらは〈十二の異世界〉が世界間の関係を結ぶにあたって、共同的に締結した〈法の縛り〉だった。


 しかし〈奈落デスゲーム〉は、こうした〈十二の異世界〉の管轄の、外側の言語で構成されていた。現在〈奈落デスゲーム〉内でアナウンスされるものは、機巧世界が翻訳を施したものとなっている。



「私の造ってきた機巧改造人間(スカージ)も、役に立ってなによりでした」

「デスゲームで撃破した他世界人を機巧改造したが。役に立ってくれたな」


「〈奈落の腕輪〉は撃破されても残りますからね。『永遠にデスゲームが終わらないなら逆に腕輪をばらまいて他世界でデスゲームを発生させ情報収集。迷宮の放つ波形から本拠地の波形と照合する』。〈黄金卿〉の案が見事に嵌まりましたね」



 機巧種族が行ってきた〈奈落デスゲーム〉の調査は以下のプロセスだった。


①死んだ仲間の残した奈落の腕輪(デスゲーム参加資格)を、機巧改造人間〈スカージ〉に組み込む。


②スカージを迷宮に配置。迷宮探索者とぶつけさせる。


③スカージを撃破できるレベルの他世界の探索者に腕輪を伝搬。奈落デスゲームに引き込み、機巧世界へのデスゲームの被害を分散させる。


 他の世界にとっては迷惑極まりない行為だが、それだけ機巧種族の面々は必死だった。


「我は黄金卿は好かんが……」


 パルパネオスはぽつりと呟く。

 武人だからこそ狡猾さが苦手なのだろう。


「いいじゃありませんか。今まではデスゲームに強制参加した同胞がスクラップとなって帰って来るばかりでした」


「……そして腕輪だけが残されていた。許されない話だ。しかも〈奈落の腕輪〉には奇妙な魔力があり、うっかり嵌めてデスゲームに組み込まれてしまう。我もまたそうだったからな」


 パルパネオスは左腕を握りしめる。

 白銀の鎧の上からは、奈落の腕輪がぶぅんと浮かび上がっていた。


「して、マルファビスよ。奈落の軍勢の座標はどのあたりにある?」

「科学世界、機巧世界、森羅世界の周辺と中間地点です」


「近いな。ならば我がでよう」


 パルパネオスは壁に掛けられた巨大な大剣〈斬鎧刀〉を握りしめる。


「直々に行くのですか? では私も」

「貴殿は控えていてくれ」

「この不条理な闘いの首謀者が尻尾をだしているんですよ。黙ってなんかいられませんよ!」


 マルファビスの周囲には6つのバレーボール大の球体が浮かぶ。この6つの球体がマルファビスの武装なのだろう。


「……では我の補佐を頼む。後れを取るなよ」

「くっくく。腕がなりますねぇ」


 機巧世界のふたりは、キーストーンをかざしゲートを開いた。

 既存の十二の世界の外側の世界。


〈奈落の軍勢〉がいる迷宮へと足を踏み入れるのだった。


――――――――――――――――――――――――

用語解説


十二の異世界


:迷宮の無効にある異世界

:十二の異世界が観測されている。

:世界の交わりはあるようだが、たいていはどの世界でも自分の世界だけで忙しいので異世界については機密とされる。



十二の世界のうち現在公開されている世界


科学世界

:科学を発展させた世界。発明を外部化し、生命と機械の共存を目指している。

機巧世界

:機巧そのものと生命が融合した世界。人間は機巧外装を纏って生活している。

森羅世界

:森や植物生命と融和した世界。獣人や亜竜人など、生命のバリエーションが豊富。


これら世界と世界の間にあるのが迷宮である。


――――――――――――――――――――――――

スペース

というわけで機巧世界サイドでした。なんか世界もいっぱいあるらしいです。

本分で書くと長くなってダルくなるので、仄めかすだけにしました。


「世界観厚くなってもいいよ~」という方は☆1でいいので評価、コメントよろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews







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