第10話 俺だけ〈上限値解放〉



 ばあちゃんの葬儀を終えてから、夢斗は遺品の中から手紙をみつける。


『ババアの我が儘を聞いてくれてありがとう。あんたは優しい子だから、見捨てたとか助けられなかったとか思うかもしれないけど。そうじゃないよ。あたしがあんたを助けたかった。ババアが孫の力になって何が悪い?』


 手紙が、滲んでくる。


『だけどね、同情じゃないんだ。あんたが優しいだけの男じゃないことをあたしは知ってるからだ。あんたが上手くいかないのは、噛み合っていないだけさ。ちょっとテコ入れをすれば、ちゃんとやっていける。あたしは全部わかってる』


 おかしいなぁ。文字がかすんでいる。

 雨は降っていないのに……。


『元・探索者として〈憑依炉心〉を使ったあんたがどこまで行けるか、見たかったがね。孫の途中経過しかみれないのは、老人の定めさね』


 こんなに味方になってくれるなんて。うるさいババアだと思って、ごめん。

 やがて手紙は締めくくられる。


『あんたは大丈夫だよ。とにかく。それだけ』


 手紙の最後には、アザラシのキャラクターの絵が添えられていた。

 ばあちゃんらしい手紙だった。



 諸々葬儀を終え、親族に挨拶を済ませてから、夢斗はアパートに戻った。

 これからどうしようかと考える。ばあちゃんはランクXの自分に期待をくれた。


 真菜も『また冒険したいです』と言ってくれた。

 それだけで奮い立つには十分だ。夢斗は、パラメータを開いてみる。


「〈網膜投影〉オープン」


 〈憑依炉心〉のメッセージと対話を始める。

 そこには、夢斗とは別の魂が〈システム〉として存在している。

 両親やじいさんばあさんの他にも、〈過去の偉人〉がシステムに組み込まれているらしい。


 おばあちゃん曰く『人格はないがね。ババアの知恵袋システムってとこかね』とのこと。

 なので特定の誰かの魂があるわけではなさそうだ。


 偉人や両親や祖父母の魂が、ひとつに合わさり集合知となり、システムを構成しているということだろうか?


 やってみなければわからない。


「クエストを頼む」


 とにかく進めてみる。

 クエストといっても、ずっと筋トレしかないけど。

 今は何でもいい。ばあちゃんが亡くなった悲しみを身体を動かして紛らわしたかった。

 炉心が応える。


【次のクエストは腕立て100回です】


〈憑依炉〉のメッセージが、返事をくれる。

 ふと、疑問。


「なあ。機巧憑依炉ってのは遺物の名前だ。しかし俺の中に溶け込んだシステムなら、別の名称があるはずだ」


 網膜投影にはQ&Aが映される。


【システム情報:名称:上限値解放炉心 (リミットオーバー・コア)ver2.5】


〈上限値解放炉心 ver2.5〉というのが、憑依炉心を通じて夢斗へと憑依した〈システム名〉らしい。


 長いのでひとまず〈上限解放炉〉と呼ぶことにする。


(なるほど。〈憑依炉心〉は人の精神にシステムをインストールする遺物の〈総称〉。この憑依炉心を通じて、俺の中に入ってきた固有のシステムが〈上限値解放炉心(リミットオーバー・コア)〉ってわけか) 


 この〈上限値解放炉心〉の他にも、様々な〈炉心〉があるのかもしれない。

 今はこいつを知るためにもクエストを消化するしかない。

 夢斗はアパートの部屋で、全力で筋トレをした。


『【腕立て100回】、上限値解放しました』

『【スクワット100回】、上限値解放しました』

『【背筋100回】、上限値解放しました』


「はぁはぁ、はぁ。くっそ。こんな筋トレばっかとか。本当にシステムなのかよ」


 腕立てとスクワットと背筋を100回こなすと、新たな〈解放表示〉が現れた。


――【既定値の達成を確認しました】――



「はぁ、は……。やっと一区切りってとこか」



――【〈精神と肉の部屋〉】が解放されました――



 夢斗は眼を疑った。


「は?」


 もう一度みやる。



――【〈精神と肉の部屋〉】が解放されました――



「〈精神と肉の部屋〉」


 ふざけた名前の部屋だ。

 おばあちゃんを亡くした悲しみを忘れるために、クエストを開いて身体を動かしていたが……。


(辛い気持ちを誤魔化すには、うってつけか。限界までやってやる)


『〈精神と肉の部屋〉を使用しますか?』

「やるぜ」


 夢斗は迷わず『使用する』を選択した。

 突如アパートの部屋に次元歪曲が渦巻き、彼の周囲に〈境界門(ゲート)〉が生まれる。

 キーストーンを開いたときと同じ現象だ。


「ゲートまであるのか。至れり尽くせりだな」


 夢斗はためらいなくゲートに突入。〈精神と肉の部屋〉へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――

用語解説


上限値解放炉心

:夢斗にインストールされた憑依炉の名称


精神と肉の部屋

:上限値解放炉心に組み込まれたキーストーンのゲートから、行けるようになった異空間。その全貌は次回に期待。

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スペース

俺だけ〈上限値解放〉しました。ここから伝説が始まります。


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