魔法少女 2

「ねぇライア。こんなことを今聞くのもあれなんだけど、いつからライアって魔法少女なの?」


 町に入るまでの道のり。

 暗いトンネルのような会場の通路で、いつから魔法少女をやっているのか、例えゲームだとしても疑問に思ったインは尋ねてみる。


「う~ん、分かんない! 気づいたら魔法少女やってて、これがもう何年も続いちゃったから特に!」

「そうなんだ」

「そうそう、これがまたあれでねぇ~。本当に気付いたらそこにいたというか、町の人たちを守ろうって考えていたというか。いつの間にかすぎて、分かんない!」


 そう頬を掻いて、遠い昔を思い出すかのように答えるライア。

 きっと生まれつき持っていた強い力を、町の人たちを守るためだけに使ってきたんだろうと、インはへぇ~と頷き感心する。

 そんなインの顔と仕草、服装を凝視して考え事をしていたのか、ライアがいきなり名案を思い付いたとばかりに両手をパン! と叩く。


「そうだ! インも魔法少女やって見ない! ほら、服あげるから!」


 そう言ってライアがどこからか取り出したのは、ライアが今着ているのとまったく同じ魔法少女服。

 肩のだし具合に加え、同じ黄色をしていると、もはやペアルックの領域だ。

 普通、魔法少女と言ったらあんまり色が被らないようにするものではないだろうか。

 そうでなくとも、インとライアは髪、体系がほとんど同じ。

 これで同じ黄色じゃ分かりにくくないだろうか。

 昔見た日朝を思い出しつつ、気になったインは尋ねてみることにした。


「これってライアのと同じだよね? 色も」

「そうだよ! 仲良しみたいでしょ! 本当の事を言えば、わたししか魔法少女がいなかったから、同じ黄色の服しか持ってないんだけどね!」


 そう無邪気そうに笑うライア。


(言われてみれば、私が来るって予め分かる訳ないよね)


 インが勝手に結論付け深く頷き納得する。

 するとライアは、持っている魔法少女服をインの正面に来るよう押し付けてくる。


「はいあげる! 大丈夫大丈夫! わたしまだまだ持ってるから!」

「えっでも」

「だいじょーぶ! 着るのが嫌なら持っているだけでもいいから! ペアだよペア!」


(そこまで言うなら貰おうかな。むしろ満面の笑顔を向けてくるライアに似合わないとか、恥ずかしいって突き返すのは、かなり難易度が高いよ)


 ひとまずインはライアから魔法少女の服を受け取り、早速詳細を覗いて調べてみる。



 回復の魔法少女服(黄)


 この服を着たものに、マジカルな力を与える。

 効果HP自然回復Ⅰ、MP自然回復Ⅰを付与し、『光魔法』技能LV15相当を使えるようにする。


 今イベント最中、HPとMPの上限が999上昇し、『光魔法』アビリティにプラスLV231する。



「えっ……なにこれ?」


 一度は見て、すぐ閉じる。

 だが何か頭に引っかかり、もう一度開き再度確認。

 そして思わず目を見開き三度めの確認。

 インがそれほどまでに気になったのは、本当にたった最後の一文。



 今イベント最中、HPとMPの上限が999上昇し、『光魔法』アビリティにプラスLV231する。



(ええええぇぇぇぇーー!! 何この性能!?)


 この服を着るだけで、インのMPは七倍にまで膨れ上がる。

 そうなればいくらでも魔力を消費することができ、全部切らすなんてことはよほどのことが無い限り難しい。


 HPに関しても同じことが言えるだろう。

 MPだけじゃなくこっちも999にする。

 運にすべて割り振ったことで、他ステータスが貧弱すぎるインを十分補ってくれる物となっている。

 それだけではない。

 勝手に回復していく効果に、『光魔法LV15』まで付与。

 イベントのみだが、合計LVは246となる。

 こんなのはまさに、桁が違う。


(前ファイから、ステータスを勝手に覗き見たお詫びに聞いた話だと、確か『火魔法』アビリティLVは46なんだっけ? という事は……それの五倍以上)


 これさえあれば、復活したアンとミミを今イベントのみ無限にサポートできるようになるだろう。

 そんな破格でぶっ壊れた性能があっていいのか。

 イベント限定とはいえ、それほどまでにライアの魔法少女服は不正行為を疑ってもいい代物であった。


「ライア? これ」


 流石にこれは受け取れないと返そうとする前に、ライアが先に前を向いて言う。


「自慢の魔法少女服だよ! っと、もうすぐ町が見えてくるね!」


 ライアにつられるがままに通路を駆け抜けたインの眼前に広がったのは、気温が低く埃っぽい陰鬱な空気に包まれた町。

 立ち並ぶ家は骨組みが露出しており、ほぼ全て瓦礫といっても差し支えない。

 まだ使えそうだと思えるやつですら、少なからず目に映るほどのひびが入っている。

 酷いのは住宅だけではない。

 子どもから大人まで、老若男女問わず住民の着ている服は泥や砂にまみれ、虫食いなども起こっているのか非常にボロボロだ。


 目や体の座り方からして、絶望の感情が滲み出てくる。

 彼らは侵略者に町を破壊されたからか、余所者のインと同行者のライアを目にすると、恐怖に包まれるような目に変貌する。


「・・- ・・・ -・-・・ ・・ --・ ・・-- -・・- -・・ ・・- --・-・ ・・- --・-・ ・・」

「ウオブテゾナレロ」

「124301925562699569」

「えっと?」


 町の住民たちが何をしゃべっているのか理解できず、つい困惑の声が出てしまうイン。

 それと同時に虫食いの服を見て不思議に思いつつ、アン達が復活したら何をしようかと今はいない虫たちに思いを馳せる。

 対して隣のライアはというと、言葉を理解するようにうんうんと首を縦に振る。


「イン。侵略者を絶対倒そうね!」

「……はっ! ライア。何を言ってるのか分かるの?」

「分かるんだなぁ。これが! 凄いでしょ! あっちの人は我らが魔法少女がいるからこの場所は安全だって言っててね! あっちの男の人はプレイヤーさん達が戦力になったから、もう負ける気がしないって! それで最後にあっちの人は――」


 さっきまで意識が別のところに飛んでいたインにツッコミを入れることなく、住民たちを目と指で刺して元気に解説するライア。

 インと姿容姿はほとんど変わらないのに、様々な言語を通訳できるようだ。

 すごい! と思わずインが驚嘆している最中、一人の老婆がインの腰に抱き着いた。


「助けてください。お願いします。助けてください」


(え、えっ! 日本語!?)


 彼女はなんと、様々な言語で話す人たちの中で唯一インにもわかる日本語で、悲痛さが混じる声で必死に助けを乞い始めたではないか。

 腕を振るわせてただ事ではない様子。

 そんな老婆の肩を、ライアは大丈夫安心させるようにそっと触れる。


「大丈夫だから! わたし達に任せてよ! だからゆっくり、ね!」


 ライアが鈴の音色のような言葉を紡ぐと、老婆の体周りに光の粒子が輪を描くように現れる。

 母親が赤ん坊に向けるかのような暖かさ。

 インはこれが何かの魔法だと感じ取ると、光輪はそのまま老婆の体の中に染み込んで消えていった。

 するとさっきまでの必死さが嘘のように、老婆は力なくその場で倒れ伏せる。

 インが心配になって顔を覗いてみると、安らかに寝息を立てている。

 どうやら眠っているだけのようだ。

 ライアは微笑み、ゆっくりと手を放してインに振り向いた。


「ライア? 何したの?」

「ん? ちょっとね。宇宙恐怖症って言う、侵略者への恐怖で発症しちゃう初期症状が現れてたから!」

「宇宙恐怖症?」

「ああそうだったね! 宇宙恐怖症ってのは――」


 曰はく、町が宇宙から攻めてくる侵略者に住む場所を壊され、大勢の家族が殺され、食う物や劣悪な環境、不定期に現れる侵略者への恐怖で精神的に参ってしまう病の事を指すらしい。

 この病を発症すると幻覚や幻聴などの錯乱症状に見舞われ、最悪家族のもとに行こうと自害を試みてしまう。

 その被害は少なくなく、いつ誰が何らかのきっかけで発症してもおかしくない、現在に至っても治す方法は一切見つからない凶悪な精神病だとライアは語る。


(そんな病があるなんて……、それをライアは……)


 魔法少女はゆっくりと老婆を持ち上げると、近くの家の壁まで運んでいき寝かせてやる。

 大丈夫だと安心させるように頭を撫でると、ライアはインに振り向いた。


「度々こういう人が出てきちゃうんだ。だからね、わたしはこうやっていつも、魔法で安心させてあげるの! だからもうこの人は大丈夫! ほら、早く行こっ!」

「えっ!?」


 ライアが急いでインの腕を掴み取ろうとする直前、ピタッと制止する。

 何かあったのか気にかけるインの言葉に耳を傾ける様子もなく、彼女は使命感にでも駆られたように周囲を見渡し、やがてある一点をじっと見つめ始める。


(何かあるのかな?)


 インも釣られて見てみると、二つの赤い丸。

 それが、崩れた家の瓦礫の下から理性を感じさせずこちらをじっと、見つめている。


「ひっ!」


 あまりの不気味さに、怖いのが苦手なインは小さく悲鳴を上げて体を引かせる。


(もしかしてあれが、お婆さんが助けてくださいって言った原因?)


 そうインが分析している折、ライアが取り出したのは純白の杖。

 見ているだけでも、彼女と一緒に天使が創造したのではないかと疑ってしまう。

 それほどまでに、どのような穢れであろうと祓ってしまえそうだった。

 彼女はそれを、片手間に振るう。

 その先は当然、崩れ落ちた瓦礫の下。

 杖から柄と同じ、純白の極太レーザーが放たれる。

 だが、当たらない。

 かき消えたのではない。

 弾かれたかのように上空へと向かっていき、花火のような爆発と光を上空に光らせライアは叫んだ。


「みんな! 来たよっ!」

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