第3話 初めての会話

「……どうぞ」


そう言ってお姉さんは自分の隣に、僕が座るスペースを作ってくれた。


「ありがとうございます!失礼しますね」


僕は緊張した面持ちを隠して、隣に腰掛けた。


「これ、良かったらどうぞ。そこの自販で買ったやつですけど……」


そう言って缶コーヒーを手渡すと、お姉さんは手を横に振り、動揺したように首を横に振った。


「そんな、中学生から貰う訳には……」


そこをなんとか、と言いたい気持ちで、僕は笑顔で続けた。


「じゃあ、120円分、僕の話を聞いてくれませんか?」


その言葉にお姉さんは首を傾げた。


「ね、息抜きに少し話しませんか?実は僕、ずっと話してみたかったんです。お姉さんと」


そう言うと、お姉さんはしぶしぶこくり、と頷いて缶コーヒーを受け取ってくれた。僕は再度


「ありがとうございます!」


と言って、缶コーヒーのプルタブを開けた。


蛍が散る静かな夜の中には、僕とお姉さんしかいなかった。僕は缶コーヒーをグイッ、と一口飲んでから、お姉さんの方を見た。


「あの……、僕、椿つばき ほまれって言います。中学三年生です。……お名前、聞いてもいいですか?」


そう言うと、お姉さんは長い髪をさらり、と揺らして僕を見た。


朝霞あさかすみ 静子しずこ。高校三年生です。いつも、隣に座らせてくれてありがとう、椿さん」


「っ!ぁ、誉!誉でいいです!」


「ほま、れ、君?」


「はいっ!」


「じゃあ、私のことも静子で」


「えっ、あ、……静、子さん?」


「はい」


僕が名前を呼ぶと、静子さんの目が微かにきらり、と光った。蛍の光を映したその目に、僕の姿も綺麗に映り込んでいた。


(瞳まで綺麗なんて、反則……)


僕は赤くなる顔を手で隠しながら、話を続けた。


「し、静子さん、香山高校の生徒さんですよね……?」


「うん、もしかして、制服?」


「はい。凄い、頭良いんですね……」


僕がもじもじしながらそう言うと、静子さんは缶コーヒーを手で持ちながら答えた。


「ありがとう。……椿君は?もしかして、ともえ中?」


「あ、凄い。正解です!なんで……?」


「私も、巴中出身」


「ええっ!?そうなんですか?」


「うん、だから前から巴中の子かなー、って思ってて……」


そう言って話す静子さんの姿は、蛍の印象も相まってとても綺麗で、僕は惚れ惚れしてしまった。


「ぁ……、そう、なんですねっ、!」


なんだか照れくさくなって、頬をかく。静子さんはゆっくりとこちらを振り向くと、


「これからも、お隣、いいですか?誉君」


と、尋ねてきた。鈴が鳴るような爽やかな声に、僕は頷かざるおえなかった。

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