第28話 プラテーム城砦奪取戦②
◇◆◇
《プテラーム
城壁上部は正体不明の敵が完全に制圧してしまい、新月の夜中だというのに三方から次々と矢を射かけてくる。
そんな中、暗闇の
「このままだと矢に射られる一方だぞ、とりあえず、いったん王都側の門から外に出て体勢を整えるんだ!」
その声は兵士たちの口から口へと伝わり、爆発しかけていた混乱は方向を与えられ、多数の兵士たちが王都方向へと城門を駆け抜けていく。
「ば、バカなっ!!」
その報告を受けたメイリス将軍は声を荒げた。
「
「閣下、危ない!!」
音を立てて飛んできた矢を、若い指揮官のひとりが身を挺して防いだ。
「くっ、将軍、ここは危険です。
「──そうはさせない」
◇◆◇
「──そうはさせない」
「子供──っ!?」
驚きの表情を浮かべつつも、敵の将軍は僕が放った高速の剣をギリギリのところで弾く。
だが、僕はその勢いで身体を反転させ、後ろから斬りかかってきた他の兵士たちと剣を交わし、さらに風を操って宙に舞いあがると、渾身の力で剣を将軍へと振り下ろした。
──ガキィンッ!!
火花が散り、一瞬だけ僕と将軍──互いの顔を照らす。
「なぜ、子供が戦場に──っ!?」
目に見えて将軍の動きが鈍る。僕の背後で《精霊術》を操り、他の兵士たちを圧倒している双子──フラーシャとフランの姿にも気づいたようだ。
「あなたはいいなん人だね」
僕は《風霊術》を練り上げてから、将軍に向けて一気に放出する。
「な、なにを……ふぶっ!?」
風の渦に囚われて将軍の動きと声は完全に封じられた。
「しょ、将軍っ──うあっ!?」
将軍を助けようとした他の指揮官たちも、フラーシャとフランのそれぞれ水と大地の《精霊術》で動きを束縛されてしまう。
僕は双子と視線を交わして頷いた後、周りの兵士たちに声をかける。
「将軍は捕らえた。これ以上の争いは無意味、
だが、兵士たちは決断しきれないようだった。
それだけ、この将軍たちが高い人望を得ていたということだろう。
でも、感心しているわけにもいかない。
城壁上の《森の民》たちへと、僕の声を風に乗せて届ける。
次の瞬間、僕たちの周りの兵士たちに、城壁からの矢が集中する。
「うわぁっ!!」
この時点で、兵士たちの心は折れてしまったようだった。
一目散に城門へと駆け出し、その波は、まだ
○
「王都側城門の封鎖も終わったぜ、《セネリアル州》側の門はどうすんだ? 開けておいた方がイイのか?」
「うーん、そうだな。万一のことを考えて開けておいてくれる?」
「お、なんだ? 今から負けるかもしれないとか考えているのか?」
「……不利になったときの……対策を……先に考えておくのは大事……」
《プテラーム
僕はフォルティスたち《山の民》に城門の開け閉めや、城壁や施設の点検を依頼する一方で、《森の民》の戦士たちには、城砦内に残っているかもしれない兵士たちの
「昼頃には《革命軍》の本隊が到着するらしい。なので、朝までには防御態勢を整えないといけないんだ」
疲れているかもしれないけど、もろもろ準備に動いてもらう──僕は自身の眠気を抑えてみんなに発破をかける。
「この戦いの勝利は、事前にどこまで準備を済ませられるかにかかってるんだ、申し訳ないけど、みんな頑張って!」
○
そして、日が高くなる頃──《プテラーム
「ついにきたか──」
僕は背筋に冷たいものが滑り落ちていく錯覚を感じた。
一万を越える軍勢を目の前にして、やはり、緊張するなという方が無理な話だ。
敵の軍勢は、切り立った崖に挟まれた街道を完全に封鎖するように縦に長い陣を構築していく。
「っていうかさ、ノクトの《風霊術》を使って左右の崖の上に飛び上がってさ、敵のど真ん中あたりに上から矢を降らせてやれば終わりじゃね?」
身も蓋もないフェンナーテの提案に苦笑する僕。
「そうなんだけどね。ただ、今回の敵軍には、あの《三十九勇士》がいるらしい。なので、敵の出方をみてみたい」
《三十九勇士》という言葉に、エクウス以下、城壁の上に同行してきている子供たちが過敏に反応する。
自分たちの大切な家族や友人たちを裁判、死刑と称して
「母様を殺したヤツら……許さない」
城壁組の中で一番年少のドラックァ──普段は引っ込み
そんな子供たちの頭を軽く撫でていく僕。
「とにかく今は落ち着いて、冷静にね。感情に目が
その言葉に子供たちは素直に
そして、僕も笑顔で応える。
そんな良い雰囲気を壊さないよう、ディムナーテがさりげなく声をかけてきた。
「……ノクト……敵に動きがあった……」
僕はディムナーテに軽く礼を言った後、城壁から身を乗り出して、敵軍へと視線を向ける。
すると、敵軍の前方に、どうやら何人かの兵士たちが引き出されているようだった。
間を置かず、《風霊術》だろう、敵軍から少年の声が城壁の上に届いてきた。
「あーあー、ただいまマイクのテスト中、じゃなくて、《プテラーム
その軽い口調には聞き覚えがあった。
だが、僕はあえて返事をしようとしなかった。ノクト──いや、
そう考えを巡らす間にも、敵軍の少年の声は城壁の上へと届いてくる。
「これから僕たちは全軍で《プテラーム
「──《革命裁判》?」
僕は身体が震えるのを感じた。
王都で優しい姉君たちが
慌てて周りを見ると、子供たちの表情も一様に
もちろん、そんなこちらの様子など知る
「それでは、今日の被告の登場です」
「あれは──?」
敵軍に少しだけ動きがあり、先頭から縄に繋がれた三十人を超える兵士たちが引き出され、しばらく進んだところで地面に
再び少年の声が響いた。
「この兵士たちは、情けなくも敵に怯えて《プテラーム
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