第24話 頼りになる仲間たち

「なんだぁ? ガキばかりかよ、しけてやがんなぁ」

「お前の目は節穴ふしあなかよ! こんな上等な服を着てる子供たちなんぞ、貴族のボンボンに決まってるだろ? 身代金みのしろきん取り放題のおたから案件じゃねーか!」


 馬車の前に出てきた僕やエクウス、それにフラーシャ、フランたちの姿に気づいて、下卑げびた笑いをみせる襲撃者たち。

 襲撃してきたのは完全武装の男たち十名ほど。


「しかも、護衛もガキひとりとメスガキふたりとか、なんだぁ、教会学校の巡礼じゅんれいかなんかかよ、世の中甘く見すぎだろうぜ!」


 あ、ヤバイ。


──だと?」


 フォルティスのおでこに血管が浮き上がる。


──だと?」


 フェンナーテのおでこに血管が浮き上がる。


『ふざけんなぁぁぁぁ』


 僕が止める間もなく、襲撃者たちへと突っ込んでいくフォルティスとフェンナーテ。


「ああああ、もう、交渉の余地もなにもないっ! ──ディムナーテ、弓で援護頼む! エクウス! フラーシャ、フランと一緒に馬車を守って!」


 そう指示を飛ばしてから、僕はフォルティスとフェンナーテの後を追った──のだが。


「あれ?」


 僕が追いついたときには、すでに十人の男たちは、全員が地面に打ち倒されていた。


「こいつら、ただのゴロツキだぞ、たぶん。レベル低すぎる」


 男の一人の背中に足を乗せた格好で、呆れたように肩をすくめるフェンナーテ。

 その隣で、めずらしく同意するようにうなずくフォルティス。

 フェンナーテとフォルティスが四人ずつ斬り伏せ、残りの二人はディムナーテが放った矢に肩を打ち貫かれている。

 ちなみに、全員急所は外してあるようで、命に別状はなさそうだ。


「こうなっちゃったら、流れに乗るしかないかぁ……」


 ディムナーテと御者さんに、ロープを使って襲撃者たちの身柄を拘束するように指示してから、僕は、他の仲間たちと視線を交わして、そのまま、この先で襲撃を受けている馬車へとむかっていく。


「フェン、頼む!」

「あいよ──っと!」


 軽妙な掛け声とともに背負っていた弓を手にしたかと思うと、器用に矢をつがえて連続で前方へと放っていく。


「へっ、森のねーちゃんもなかなかやるじゃねーか」


 そう笑うフォルティスを右側に、左側には《炎霊術えんれいじゅつ》を練り始めているエクウスを従えて、僕たち三人は勢いを殺さずに、馬車を襲撃している男たちへと突っ込んでいく。


「なんだ、このガキども──って、うがぁっ」


 僕たちの頭の上を越えて、フェンナーテが放つ矢と、フラーシャの《水霊術すいれいじゅつ》、フランの《地霊術ちれいじゅつ》それぞれで生成された氷と岩の槍が男たちへと襲いかかる。

 よく考えたら、僕たち全員の初めての実戦かもしれない。


「みんな、落ち着いて、確実にひとりずつ倒していくよ!」


 《風霊術ふうれいじゅつ》を発動、僕の声を風に乗せてみんなに届ける。と、同時に、全員の返事も風に乗って共有される。

 目の前にひとまわりもふたまわりも大きな髭面ひげづらの男が立ちはだかる。


「ガキのくせに調子に乗りやがって!」

「外見でしか人を判断できなかったことが、アンタたちの敗因だよ!」


 僕は自分の身体に風をまとわせて、一気に相手との距離を詰めて剣を振り上げる。


「うぎゃぁっ!」


 男の口から濁った悲鳴が上がり、右肩から血飛沫ちしぶきが噴き出した。

 続けて左右からも襲撃者たちの悲鳴が上がり、エクウスとフォルティスも素早い動きで敵を翻弄している様子が見て取れる。

 こちらの様子に気づいて、また数人の男たちが駆け寄ってくるが、フェンナーテたちの遠距離攻撃に射すくめられてひるんだところへ、もう一人を地面へと斬り倒した僕の後に続いてみんなで攻め立てていく。


「クソッ、ガキどもが調子に乗りやがって! おい、オマエら、一気に包囲して潰す──って、こっちからもガキ!? うぎゃぁっ!」


 僕は驚きのあまり、一瞬手を止めかけてしまう。

 いつのまにか、襲撃者たちの背後に回り込んでいたディグリス、パークァル、レイファス、ドラックァの四人が一斉に草むらから飛び出して、男たちに襲いかかっていったのだ。


「ひゅぅ、やるう! エクウスもそーだけど、オマエら貴族の子供なのに、なかなか見所みどころあるよなっ!」


 エクウスと背中合わせになって複数の男たちと対峙しつつ、フォルティスが面白そうに口笛を吹いた。

 ちなみに、後で聞いた話だが、ディグリスたちの作戦は、武芸が苦手なドラックァが提案したものだったそうだ。

 そして、その作戦の一撃により、完全に勝敗は決したのだった。


 ○


「助かったぞ! 見たところ、まだ子供なのにこの腕前とは!」


 半泣き状態の恰幅かっぷくのいい商人風の男が、僕たちの手を取って激しく上下に振る。


「最近、帝国内の治安が乱れつつあることは知っていたが、まさか、こんな都市部にまでぞくが出るとは正直思っていなかったのだ。こちらの護衛も多勢たぜい無勢ぶぜいでご覧の有様じゃ……」


 商人風の男は、アプロム・メッカートと名乗り、《ウルブフローム》へ商品と人とを送り届けている途中だったと説明する。

 アプロムさんの馬車からは、乗客と思われる老若男女数人がこちらにむけて感謝するように頭を下げてくる。


「──?」


 その乗客の中のひとり、同じくらいの年頃の少女と視線が混じり合った。

 青銀色の艶やかな髪の毛が印象に残る。


「──よろしければ、貴殿きでんたちのお名前もお聞かせ願えると嬉しいのだが」


 一応、相手が名乗った以上、礼儀上、僕も簡単にだが、自分たちのことを説明した。


「──なんと! 《トルーナ王国》の《セネリアル州》のご領主様ですと!?」

「あ、はい、まぁ……一応。信じてもらえなくてもしかたないですけど」

「いやいや、そんなことはありませんぞ。それにドランクブルムという家名、かの有名な王国宰相おうこくさいしょうドランクブルム公爵閣下こうしゃくかっかのお身内と拝察はいさついたします。なればこそ、その御年で一州を与えられること、なんの不思議もございませぬ」

「あ、はぁ……ありがとうございます」


 今、王国が《革命軍》と《宰相軍》の二つに分かれた内乱状態だということは知らないのかな? と、内心で首をかしげつつ、僕は口を合わせた。

 とりあえず、怪我人を神聖術で治療してから、捕らえた賊たちを引き連れて、僕たちはアプロムさんたちと《ウルブフローム》へと向かう。

 その道すがら、《マグナスプラン帝国》内の状況について、いくつか話を聞くことができた。


「我らが帝国が大陸最強の偉大なる国家であることは揺るぎないんですが──」


 《マグナスプラン帝国》は《ティールデオルム大陸》の中で絶対不可侵ぜったいふかしんの皇帝のもと、最大の版図はんとを有する巨大な帝国だ。

 経済的な規模では《ディアリエンテ大内海》と《ゼフィロシア大洋》を繋ぐ海上交易路を独占している《トルーナ王国》が上回っているが、純粋な軍事力では、帝国の力の方が遥かに上だったりする。


「──ですが、昨今、そのたがが緩み始めたのか、各地で小規模な反乱が頻発する状況でして」

「そうなんですか……って、いいんですか? 他国の、しかも僕みたいな人間に、そういう話をして」

「かまわなくはないのですが、まあ、我々を賊から救ってくれたお礼とでも思ってください。あ、でも、私から聞いたということは秘密ですよ」


 悪戯いたずらっぽく片眼を閉じてみせてから、アプロムさんは話を続ける。

 当初、各地の反乱は、短い期間のうちに鎮圧されるとばかり思われていた。

 しかし、長い帝国統治の歪みが表面化したのか、地方の反乱は少しずつではあるが、その影響を広げる一方だった。


「皇帝陛下もお考えがあるのでしょう。ですが、我々商人──いや、他の帝国臣民ていこくしんみんたちにとっては平和が一番。はやく、平和な御世みよに戻っていただきたいものです」


 そうため息をついた後、アプロムさんは僕に、旅の目的と行き先を問いかけてきた。

 僕は素直に帝国と《セネリアル州》に新たな交易路を拓くため、《ウルブフローム》の領主と交渉に来た旨を説明する。


「ほう、それは興味深いですね」


 アプロムさんは少し考え込んでから、いくつかの《トルーナ王国》の産物を挙げた。


「──と、いったところでしょうか。ですが、大量に扱えないと、正直魅力に乏しいと思いますぞ」

「それらの産物でしたら、そうでしょうね」

「もしや、他に切り札を隠しておいでですか?」


 しつこく聞き出そうと食い下がる商人をのらりくらりとごまかしているうちに、僕たちは《ウルブフローム》の街へと到着した。

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