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「僕は、どうしても光くんに売春なんてやめてほしいんです。」

 お前が言うか、と思った。

 その雰囲気は涼の全身から発せられていたのだろう、和巳は少し肩をすぼめるようにして苦笑した。

 「父親なのに、情けないですよね。息子の売春も止められないで、傘なんか持って行って。」

 そうじゃない。

 言いかけて涼は口をつぐんだ。

 和巳は光の恋情を本気にしていないのかもしれない。ただ一時の気の迷いとでも思っているのかもしれない。

 もしそうだとしたら、そのままいてくれたほうが、涼には都合がよかった。

 光の本気の恋情に気が付かないでいてくれたら。いつまでも本気にしないで適当にかわしていてくれたら。

 そうしたら涼は、まだ光の手を離さないで済む。

 俺は卑怯だな、と、涼はビニール傘を握る手に力を込めた。

 「……なんで、光の父親やろうって思ったんですか。」

 問いは勝手に唇から出てきた。

 確かにずっと不思議に思っていたことなのだ。玲子が消えた今、和巳にこんなに真面目に光の父親をやる意味などないのではないかと。

 すると和巳は、なにを当然のことを言っているのだろう、とでも言いたげな、不思議そうな目で涼を見た。

 「玲子さんの息子は、僕の息子でもありますから。」

 「……それ、光にも言ったことありますか?」

 「はい。」

 ごく当たり前みたいに和巳が頷く。

 残酷な男だな、と、涼は思う。

 この残酷さに光は惹かれたのだろうか。残酷な男の、残酷な優しさに。

 「玲子さんが戻って来るって、思ってます?」

 今度の問いは、半ば縋るような気持だった。

 うん、と言ってほしかった。

 いつか玲子が帰って来ることを見越して、光の面倒を見ているのだと。

 しかし、和巳はここでも残酷だった。

 悲しそうにちょっと笑った後、いいえ、と首を横に振ったのだ。

 「あのひとは自由だから……。もう、俺のところには戻って来てくれないだろうって、思ってはいますよ。」

 自由。

 ものは言いようだな、と涼は半ば感心してしまう。

 そんなに男遊びがしたいなら、どうして光を生んだのだ、と、問いかけたくなるような生活を送っていた玲子。その挙句、今はどこにいるのかさえ知れない。

 生きているか死んでいるのかさえ分からない女だが、生きているのだとしたら、光と同じ仕事をしているのではないかと思ったりもする。

 そういうところが因果な親子なのではないかと。いつか観音通りの街灯の下で、あの親子は対面を果たしてしまうのではないかと。



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