第53話 フックの真価

「エルミッヒさま起きてください」


 ベロニカの声が聞こえる。

 しかし、眠いので毛布を頭からかぶった。


「もうちょっと寝かしてくれよ」


 俺はまだ起きたくないのだ。

 昨日はハッスルしすぎて寝不足なのだ。


「だめニャ! そのセリフ五回目ニャ!」


 キャロはそう言って俺の毛布を剥ぎ取る。


「ああ!」


 なんと無情にも俺の毛布はクルクルと巻かれ、リュックの上にくくりつけられてしまった。

 リュックを背負しょったら、すぐ出発できるスタイルだ。

 まだ朝ご飯も食べてないのに!


「はい! パンとスープ。これで目を覚ましてください」


 ベロニカからアツアツのスープとカチカチのパンを手渡される。

 よかった、なにも食べないで引きずり起されるのかと思った。


「しかし、おまえら元気だね。俺はもうヘトヘトだよ」


 昨日は三人で仲良しした。

 あっちへこっちへと忙しかった。

 二対一の攻防に、俺はなかなかの苦戦を強いられたのだ。


 それでも俺は砦を二つとも攻略した。

 それはもう夢のような時間だった。


 いや~、最初は傷の治療のはずだったんだよね。

 水で冷やしたり、魔法で回復力を高めたりして看病してた。

 それが、いつの間にかいくさになってたんだよね。人間て不思議なものだよなあ。


「元気じゃないニャ! オマタが痛いニャ!」


 お、おう。

 それはなんつーのか、ごめん。


 しかし、昨日は実りの多い一日だったなあ。

 スカイフックはもちろんのこと、ベロニカもキャロのことを受け入れてくれたし。

 どう手を出そうか悩んでいたんだよね。あからさまにいくと怒られそうだし。

 なんかドサクサに紛れて既成事実を作れた感じ。

 これからも夢のような時間が毎晩くるかと思うと、もう楽しみで楽しみで。


「エルミッヒさま、あれどうするんですか?」


 早くも今晩のことを考えていたらベロニカに話しかけられた。


「あーあれね。そろそろ処理するか」


 あれというのはゴブリンだ。

 三人でハッスルしてたら、どこからともなく忍び寄ってきやがったのだ。

 見つけた瞬間、フックで吊ってやった。それから一晩放置してやったのだ。


 俺の楽しみを奪うやつは万死に値する。苦しんでから死ねば良いのだ。


 ちなみに、これは実験も兼ねている。フックの能力がどれぐらい持続するかだ。

 吊ったゴブリンの手足を縛り、いつ能力が切れてもいい状態での検証だ。

 ヒモは木に結び付けておいて放置。

 結果は上々、俺が寝ても力は作用し続けたってわけだ。


「さらば、ゴブリン君」


 うつろな目のゴブリンにナイフでトドメ刺す。

 ちなみに、出てきたゴブリンは三匹だ。ちょうどトリプルフックでキレイに吊れた。

 ベロニカもキャロもフックに吊られることはなかった。たぶん、三匹以下で使おうとしたら仲間のだれかにフックが引っかかるんだろう。数に注意が必要だな。


「さて、検証はもうひとつか」


 これが本命だ。

 成功すれば、物資の輸送効率が格段にあがる。もちろん狩りも。


「よ!」


 スカイフックでヒモを出現させると、そこにトリプルフックで吊ったゴブリンどもを重ね合わせた。

 いけるか? 俺の予想では大丈夫なはず。


 カシャコン!

 とくに音がしたわけではないが、頭の中でそんな音が聞こえたような気がした。

 そうなのだ。ゴブリンを吊った縦ヒモは、みごとスカイフックの横ヒモに連結されたのだった。


 やっぱり! 予想通りだ。

 フックの能力は同時に発動可能だ。それはすなわち組み合わせて使うことを想定した能力なのではないか? そう考えていたが、それが正しかったのだ。


 だったら、もちろん動かすことも可能だよな。

 よく見りゃあ連結部にフックがついているし。


「いってらっしゃい!」


 ゴブリンの体を蹴り飛ばす。

 ゴブリンはグデンと吊られたまま横ヒモにそって滑っていった。

 よし! 成功!


「君たちも後を追うんだ!」


 残りの二匹も蹴り飛ばす。

 ゴブリンたちは、もの凄い勢いで遠ざかっていくのであった。


「どこに飛ばしたんですか?」


 ベロニカに聞かれた。 

 え? 気になる?

 そうだよね。ゴブリンの向かった方角を見ると、そりゃあ不安になるよね。


「街だな。俺の計算だと街の広場にちょうど落ちるはず」

「なぜ、わざわざ街に……」


 そんなこと言ったってしょうがない。

 どうやらスカイフックの行き先は、俺が行ったところしか指定できないみたいなんだ。

 見える位置もダメ。実際に足を運んだところしか受け付けないっぽかった。


 となると、やっぱり街じゃん。

 そこに落ちるのが一番面白いじゃん。


「よ~し、そろそろ出発するか。お前ら俺につかまれ。一気に山頂まで滑っていくぞ」


 いい加減、狩りに出発しないとな。ちんたらしてたら、また明日になっちまう。


 カルコタウルスの狩場まで人間三人、荷物もろともスカイフックで運んでいくのだ。

 三人の体重。そして、荷物の重さ。俺の腕にかかる負担は相当のものだろう。

 だが、フックで鼻がちぎれないのなら俺の腕だって大丈夫なはず。

 一定以上の負荷はかからないに違いない。


 帰りは、狩ったカルコタウルスをフックで吊って自動で街へ。

 それを追って俺たちも街へ滑っていけばいい。

 ふははは。荒稼ぎしてやるぜ!!

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