第51話 スカイフックの能力

 どうするったって、やるしかないよな!

 グダグダ考えてたらジジイになっちまうぜ!!


 俺は頭上を走るヒモにフックを引っかけると、膝を曲げた。

 すると、フックはゆっくりとヒモを伝うように滑り始めるのだった。


「え? ちょっとエルミッヒ様!」

「飛んだニャ!」


 フックにぶら下がる俺の体はグングン加速していく。

 それにつれて、足をすりそうなぐらい近かった地面は、みるみるうちに遠ざかっていくのだ。


 高い!

 まるで空を飛んでいるみたいだ。

 怖ええ!

 でも、なんだこれ? 気持ちいい!!


 すでに俺の体は木より高くなっている。

 振り返れば、麦の粒ほどの大きさになったベロニカとキャロが、こちらに向かって必死で走ってくるのが見えた。

 やべえ、ウケる。


「ちょっと待ってろ! すぐ戻ってくるから!」


 たぶん聞こえてないよねと思いつつも、前に向き直ると俺はさらに滑空していくのだった。





――――――





「すげー、もう街が目の前だ」


 朝早くから出発して、テクテク歩いてほぼ半日。

 それが、一瞬で戻ってきてしまった。


 このスカイフックってやつはすごい能力だ。

 なにせ減速も加速も思いのままだったのだ。

 

 減速ができる。それはすなわち逆方向にも進めるというわけで。

 実際やってみたら、山に向かって登っていくという動きも可能だった。

 おまけに、もっと高くと俺が願えばヒモはさらに上空に、もっと低くと願えば、地面スレスレを滑空することもできたのだ。


 やべーな。これ。

 狩りや輸送に一番ネックとなる移動が、一瞬で終わるじゃないか。


 やがて、滑空は最終地点へ。

 ヒモは宿屋の中で途切れていることがわかった。


「ただいま~」


 窓をコツコツとノックする。

 ここは二階。どうやらヒモは俺が泊まっている部屋の中へと伸びている様子。

 出る前ちゃんと戸締りした。当然のことながら窓は開いていない。

 だが、不思議なことにヒモは窓を貫通して中へと伸びている。


 どういう原理なんだろね?

 

 まあ、いいや。これで終着地点は一個判明した。

 あとは、この終着地点を自由に俺が決められるかだな。


 もっと低く。

 俺がそう願うとヒモは下へと降りていく。

 それにつれて、終着地点も部屋の中から一階の外壁へ移った。

 ほうほう。場所も変えられるっぽいな。


 スチャっと地面に降りたつ。


「盗賊?」

「あいつ空を飛んでなかったか?」


 いつのまにやら周囲に野次馬が集まっており、こちらを見てヒソヒソと話していた。


「俺は魔法使いだからな! 空ぐらい飛ぶぜ!!」


 野次馬どもに手を振る。

 魔法使いが空を飛べるかどうかは知らない。

 いままで飛んだやつを俺は見たことがない。勇者ぐらいか。

 しかし、それでもいいのだ。

 事実俺は魔法使いで、空を飛んでいるのだから。


 じゃあ、戻るか。

 ベロニカたちが心配だしな。


「さらば、街の諸君! また会おう!!」


 そう言うと、今度は山頂目指して滑空を始めた。

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