第21話 最初の犠牲者

「わかった、俺が悪かったって」


 今、俺は必至で逃げている。

 振り向けばピョンピョン跳ねてるウサギもどきが、すぐそばだ。


「いて!」


 ウサギもどきに足首を噛まれた。

 視界にでてるHPの値が100/60になっている。

 どうやらHPは傷の具合を表しているんだろう。これがゼロになったら俺は死ぬのかもしれん。


 謎が一個解けてよかったね! いや、そんなこと言っている場合ではない。

 噛まれてないのにHPの値は60から59へと変わった。

 出血のせいか? 手当せんとジワジワ死んじまうぞこれ。


「ファイヤーボール!」


 振り向きざまに魔法を放つ。

 そういや、俺は魔法使いだった。穴ばっかり使っていて、すっかり忘れていた。

 こぶし大の火の玉は、飛びかかろうとしてきたウサギもどきの顔面にヒット。ウサギもどきは火に包まれ、ジタバタもがいている。

 やった、よく命中したな。人間、追い込まれればできるもんだ。

 これで残りはあと一匹。


 ちらりと、視界の数字を見るとMP 10/8。

 ああ、MPが魔法なのね。

 もうひとつ謎が――


「イデュン!」


 文字を目で追っていたら、ガブリとシリを噛まれた。

 今までだしたことのない声がでてしまう。


「おのれ!」


 ファイヤーボールを続けて二個飛ばす。

 しかし、ウサギもどきに華麗なステップでかわされてしまう。


 つええ、ウサギつええ。

 こんなことなら盗むんじゃなかった。


 じつは、歩いていたら草むらの中に、鳥の巣らしきものを発見したのだ。

 そこに鎮座していたのが、このウサギもどきだった。

 ワーイ、食糧だ! と棒でガツンとしようと思ったら逃げられた。

 残された巣を見たら、美味しそうなタマゴがあるではありませんか。


 ウサギってタマゴ産むっけ?

 などと疑問に思いつつも、タマゴを全部カバンの中へ。

 結果が今の逃走劇である。


「まて。なあ、話し合おうぜ」


 ステータスとやらを確認する。

 HPは57に減っている。やばい、これもうかなりの傷だよな。

 100/57って、ほぼ半分死んでるじゃん。

 これで動き回れるのが不思議でならんのだが。


「ぐえ!」


 足がもつれて転倒してしまった。そこをさらにガブリンチョ。

 HPは45になってしまった。

 イタイイタイイタイ。ほんとうに死んでしまう。


 逃げなきゃ。

 しかし、足に力が入らない。

 さすがに傷が深すぎるか?


 ――いや違う。

 スタミナの方だ。

 10/1になっている。疲れて足がもつれたんだ。


 たしかにダメ、もう限界。

 ハアハアと肩で息をする。

 これ以上走れそうにない。


「だ、れか。たすけ……」


 かすれた声で助けを求める。

 こんなところに人はいない。

 それでも、言わずにおれなかったのだ。

 くそう。俺はこんなところで死ぬのか。

 しかも、相手はウサギって。


「あ」


 ふと目の前にヒモがぶら下がっていることに気がついた。

 それは、ず~っと天まで伸びている。


 なんだこれ? いつの間に。


「シャー!」


 ジリジリと近づいてきたウサギが牙をむいた。え、ヤバ。

 完全にトドメを刺しにきてる。


「んん?」


 なにやらウサギもどきの顔に、ヒモつき金属製フックが引っかかっていることに気がついた。

 それは、目の前のヒモ同様、天へズドンと伸びている。


 なんだこれ? どういうことだ?


 不思議とウサギもどきは一切気にしてないようだ。

 なんで?

 そういうデザインのモンスターなの?


 ……引こう。

 なんか良く分からんが、ヒモを引いてみたい衝動にかられた。


 はるか上空から垂れ下がっている二本のヒモだ。不自然極まりない。

 それでもヒモは、「そうだ。引けよ!」と訴えているように思えた。


 ――わかったよ。


「フン!」

「ギュピー」


 俺がヒモを引くと、ウサギもどきが宙に浮いた。

 飛んだ? いや、違う。フックで吊り上がったんだ。


 ヒモを下げる。

 ウサギもどきが上昇する。


 ヒモを上げる。

 ウサギもどきが下降する。

 なるほど。二本のヒモは完全に連動しているようだ。


「ギュピー、ギュピー」


 ウサギもどきは苦しそうな鳴き声をあげる。

 どうやら、勝負あったようだ。

 ……強敵だったな。俺をここまで苦しめたのはお前が初めてだぜ。

 だが、これも自然の摂理。悪いがトドメを刺させてもらう。


「ハッハッハー。すぐに家族も後を追わせてやるからな!」

「キュー」


 悲しげな声があたりに響いた。

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