第18話 女神降臨

 少年は王となり平和がおとずれた。

 これで一件落着……かに思えた。

 だが、女神の目は、未来に起こるさらなる厄災やくさいとらえていた。


 エルミッヒ王の子供たちによる、女性への侵略である。

 そう。王の子たちも親に負けず劣らずドスケベで、とにかく女性に手をだしまくるのだ。


 このままでは世界はエルミッヒ王の遺伝子で埋め尽くされてしまう。

 危機感を抱いた女神は、少年の功績はそのままに、王となる前まで時間を巻き戻すことにしたのだ。


 穴の力がなければ、こんな過ちは起こるまい。

 そう信じて。



――――――




 俺たちが魔王の居城に来たところ、なにやらひと悶着あった。

 しかも、いまにも魔王が復活しそうなのだ。


「よく来たな人間ど――」

「てい!」


 超巨大な穴を開けてやった。

 それはひび割れごと魔法陣を吞み込んでいく。


 ゴゴゴゴ。

 そして、静寂。


 それっきり魔王は姿を見せることはなかった。

 いや~、スゲーな穴。これさえあればなんだってできそうだな。


「な、なんだと……」

「倒した……のか?」

「おまえが? まさか……」


 みなが呆然と穴を見つめている。

 おう! 俺がやってやったぜ!!


「ごくろうさまでした」


 とつじょ穴から何者かが姿を見せた。

 金色の長い髪で、白いローブを身にまとった美しい女だ。

 エラそうに上から目線で、知ったような口をきいている。


 こ、こいつは、あのときの!!!

 穴を俺にくれた女性だ。まさか再び出てくるとは思いもしなかった。


「よくぞ魔王を倒しました。あなたたちの功績は語り継がれていくでしょう」


 女性はリックたちに語りかけている。なぜか俺に背中をむけて。

 いや、倒したのは俺なんだが……。


 コイツ、目ぇ悪いのかな?

 俺が落とした杖にも当たっていたし。


 しかし、なにやらリックたちの反応がおかしい。誰が倒したかもわかっていないポンコツ相手にワナワナと体を震わせている。


「ま、まさか……」

「あなたは、フォルティナ……さま?」


 え?

 フォルティナ?

 この世界を作ったという、最高神?


「そうです。わたしがフォルティナです。わが子たちよ、あなたがたのことは常に見守ってきました」


 マジかよ。本物かよ。

 慈愛に満ちた目のフォルティナ。対するリックたちは膝をつき、頭を地面にこすりつけている。

 そりゃ最高神相手だもんなあ。そうなるわな。

 けど、どうも納得いかんなあ。手柄を取られたこともそうだけど、神とか言うなら魔王を倒してくれればよかったのに。

 終わったあとで出てきて、エラそうにされてもなあ。


「わが子ジェイよ、よくやりました。あなたの傷も治してあげましょう」


 フォルティナが手をかざすと、あれよという間にジェイの傷がふさがっていく。

 おお~、すげー。

 さすが神。

 目は悪いみたいだけど、スゴイのは確かみたいだ。


 ただ、一方で顔面蒼白なのはブラスディーだ。

 剣で仲間をブっ刺したわけだからな。そりゃあ血の気も引くだろうさ。


「ブラスディー」

「は、はい」


 これまでの余裕はどこへやら、フォルティナに語りかけられたブラスディーは完全に縮こまっている。

 あ~あ。天罰がくだるのかな?

 カワイソー。

 でも、自業自得だよね。

 ピシャンと雷でも落とされればいいよ。


「今回はあなたの罪は問いません。そのかわり、彼らの功績に見合うように国で、もてなしなさい。それが母たるわたしの望みです」


 フォルティナの言葉に驚く。

 え! ブラスディーおとがめなし!?

 オイオイ。そりゃあ、ちょっと甘いんじゃないの?

 調子に乗せないためにも、そこはガツンといっとかないと。


「わ、わかりました。フォルティナ様のお言葉、心に深く刻みこみます。この神託は、わたしの命にかえましても実行させていただきます」


 ブラスディーはペコペコと頭を下げている。

 ふ~ん、ラッキーだな。これに懲りて、もう悪いことはすんなよ。


「少年!」


 フォルティナは振り返ると、俺にむかって叫ぶ。

 はあ、なんスか?

 どうも釈然としない俺は仏頂面だ。自分でもわかる。

 一番の功労者なのにムシされ続けたわけだからな。

 まあ、国からのもてなしを、俺もしてもらえるんだろうけどさ。

 それでもやっぱ、納得できないよね。

 実質、俺一人で魔王を倒したわけだし。

 俺だけに、何かくれないかなあ。

 抱えきれないほどの財宝とか、見渡す限りの美女の山だとか。


 そんなことを密かに願う俺だったが、フォルティナの次の言葉に耳を疑った。


「あなたはやりすぎました。穴の能力を返していただきます」

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